『アデライード協奏曲』(Adélaïde Concerto)は、かつてヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲したと吹聴された『ヴァイオリン協奏曲 ニ長調』のことである。通し番号をつけて『ヴァイオリン協奏曲第8番』と表記されることもあった。
モーツァルト作品目録において K. Anh. 294a という整理番号さえ与えられた[1]。しかしながら20世紀まで存在が知られていなかったことから、後にマリウス・カサドシュの贋作であったことが発覚した。モーツァルト作品目録の第6版においては、新たに K. Anh.C 14.05 という番号に変更されている。
1933年に初めてピアノ・スコアで出版された時、「校訂者」のカサドシュは、10歳のモーツァルト少年による自筆譜からこの出版譜を編集したことや、譜面にはルイ15世の長女アデライード王女への献辞があることを報告した。
この真偽の疑わしい草稿は虫のいいことに、アルフレート・アインシュタインやフリードリヒ・ブルーメといった音楽学者に決して閲覧することが許されず、ブルーメはカサドシュから、「自筆譜は2段の譜表によっており、そのうち上段は独奏パート(に加えてトゥッティ)が、下段はバスが記入されている」との説明を受けている。
カサドシュは、ペテンにかかった相手を確実におちょくることになるというのに、ブルーメによると「上段はニ長調で、下段はホ長調で記譜されている」とも報告したという[2]。
来歴がないにもかかわらず、ブルーメはまんまとこの協奏曲に騙されてしまった。しかしアインシュタインは疑念を呈し、「“クライスラー風の”煙幕を張られた作品」と呼んだ[3]。
その他の多くの研究者も、同様の疑問を表明したが、ようやく1977年になって、カサドシュが著作権論争の最中に、この怪しい「モーツァルト作品」が真作ではなく、自分の贋作であることを認めた。
『アデライード協奏曲』は、時に誤って兄アンリの作品と表記されることがある。おそらくはカサドシュ兄弟がゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルやヨハン・クリスティアン・バッハなどの名義で多くの偽作を創り上げたからであろう。
ユーディ・メニューイン、ヴァネッサ・メイなどが録音を残している。
次の3楽章から構成される。