『アースキン・メイ』(英語: Erskine May)、全名『アースキン・メイ:英国議会法実務』(Erskine May: Parliamentary Practice)、原題『議会の法、特権、手続と慣習に関する論』(A Treatise upon the Law, Privileges, Proceedings and Usage of Parliament)は、イギリスの憲法学者で庶民院書記官(英語版)のトマス・アースキン・メイ(1815年 – 1886年)による議事規則本(英語版)[2][3]。
彼の死後も『アースキン・メイ』の更新は続き、2019年5月28日に第25版が出版された。デジタルデモクラシーに関する議長委員会(The Speaker's Commission on Digital Democracy)は2015年に「議事進行手続きの決定版ともいえる『アースキン・メイ』は、次の版が出版される頃にはオンラインで無料閲覧できるようにすべきだろう」との見解を発表し[7]、第25版が出版された後の2019年7月に公開された[8]。オンライン版は公開された後も更新されている[9]。
21世紀の庶民院委員会秘書官ポール・エヴァンス(Paul Evans)らによると、メイの存命中に出版された第9版までは議員の注目するところである議員の権力と特権(powers and privileges)に関する内容が大半だったが、以降は「万人向けのガイドブックから法学の教科書」に移り、特に第14版(1946年)が顕著だったという[10]。
1850年代にはすでにイギリス国外でも評価されており[11]、スウェーデンとオスマン帝国の議会がアースキン・メイ本人に接触したほか、『タイムズ』紙は『議会の法、特権、手続と慣習』が本国よりもオーストラリアで有名であると報じた[12]。「アースキン・メイ」の通称は現代でも使用されており[13]、イギリス議会のウェブサイトでも「議事運営手続きの聖書」(the Bible of parliamentary procedure)との呼称で言及している[9]。庶民院議長は裁定においてアースキン・メイを引用することが多く、庶民院での議論でも引用される[9]。
カナダ議会において独自の慣例が定着するにつれ、『アースキン・メイ』の役割はカナダ議会で引き続き効力を有する、イギリス庶民院の慣習の歴史背景を理解するための参考書になっていった[22]。カナダの議事規則本については庶民院書記官ジョン・ジョージ・ブリノ(英語版)の『議会手続きと慣習』(Parliamentary Procedure and Practice、1884年初版、1903年、1916年再版)、同じく庶民院書記官アーサー・ブーシェーヌ(英語版)による『カナダ庶民院の規則と手続き』(Rules and Forms of the House of Commons of Canada、1989年第6版)などがあり、特にブーシェーヌは1958年第4版の序文で『アースキン・メイ』の影響を受けたことを強調した[23]。
ニュージーランド議会の規則は19世紀中には大きな改革が行われず、フランスのアンドレ・シーグフリード(André Siegfried)は1904年の『ニュージーランドの民主制』(La Démocratie en Nouvelle-Zélande)で「議会開会はウェストミンスターのそれを模倣した、旧態依然の儀式のなかで行われた。伝統の本拠地であるイングランドでなら通用したかもしれないが、植民地においてははっきりいってばかげている」などと酷評した[24]。20世紀以降はニュージーランドでの手続き改革が重要性を増し、イギリスでの先例が参考にされることは少なくなったが[24]、1985年にデイヴィッド・マクギー(David McGee)が『ニュージーランドの議会慣習』(Parliamentary Practice in New Zealand)を出版するまで『アースキン・メイ』はニュージーランドにおける最も重要な議会教科書だった[26]。マクギーによると、執筆にあたり『アースキン・メイ』を「一次資料」として隅から隅まで読み込んだという[27]。
May, Thomas Erskine (1855). A Practical Treatise on the Law, Privileges, Proceedings and Usage of Parliament (英語) (3rd ed.). London: Butterworths. OCLC1097874488。
May, Thomas Erskine (1859). A Practical Treatise on the Law, Privileges, Proceedings and Usage of Parliament (英語) (4th ed.). London: Butterworths. OCLC872708442。
May, Sir Thomas Erskine (1863). A Treatise on the Law, Privileges, Proceedings and Usage of Parliament (英語) (5th ed.). London: Butterworths. OCLC1081170531。
May, Sir Thomas Erskine (1868). A Treatise on the Law, Privileges, Proceedings and Usage of Parliament (英語) (6th ed.). London: Butterworths. OCLC831391290。
May, Sir Thomas Erskine (1873). A Treatise on the Law, Privileges, Proceedings and Usage of Parliament (英語) (7th ed.). London: Butterworths. OCLC831386451。
May, Sir Thomas Erskine (1879). A Treatise on the Law, Privileges, Proceedings and Usage of Parliament (英語) (8th ed.). London: Butterworths. OCLC831389179。
^Chubb, Basil (October 1963). "'Going about Persecuting Civil Servants': The Role of the Irish Parliamentary Representative". Political Studies (英語). 11 (3): 272. doi:10.1111/j.1467-9248.1963.tb00880.x。