『クカモンガ』(Cucamonga)は、アメリカ合衆国のレコーディング・エンジニアのポール・バフ(Paul C. Buff、1935年 - 2015年)[1][2]とロック・ミュージシャンのフランク・ザッパが、1960年代前半に共同もしくは単独で制作に携わったシングル・レコードの収録曲を集めた編集アルバムである。1998年に14曲を収録してDel-Fi Recordsから発表され、2004年にライノ・エンタテインメント[注釈 1]によって17曲入りとなって再発された。
バフはカリフォルニア州クカモンガ(現ランチョ・クカモンガ)の出身のエンジニアで、レコーディングに興味をもって独学で技術を習得し、さらにギター、ベース、ドラムス、キーボード、サクソフォーンの演奏も学んだ。彼は1950年代後半、21歳の時にクカモンガにパル・レコーディング・スタジオ(本稿ではパル・スタジオと略する)を設立して[注釈 2]、レコーディング機材を自らの手で改良し、サーフ・ミュージックやドゥーワップのシンガーやグループとマスター・テープを制作して、ハリウッドにあったキャピトル・レコード、Del-Fi Records、Dot Records、Original Soundなどのレコード会社に売り込んだ[注釈 3]。
1958年6月にカリフォルニア州ランカスターの高校を卒業したザッパは、1959年にハリウッド近郊に移って音楽活動を続けた。彼はオンタリオに住んでいた1960年にロニー・ウィリアムスというギタリスト[5][6]に知り合い、ウィリアムスからパル・スタジオの事を教えられて[注釈 4]バフに会った[注釈 5][注釈 6][7]。その結果、彼は1961年6月から11月まで映画The World's Greatest Sinnerの音楽を書いてパル・スタジオで主題曲を録音し、引き続いてバフの下で働いてレコーディング技術を学んだ[注釈 7]。
本作はバフとザッパがパル・スタジオで制作に携わったシングル・レコードの中で、1963年にDonna RecordとOriginal Soundから発表された以下のレコードの収録曲を含む。
Donna Recordは、Del-Fi Recordsnの設立者兼所有者だったボブ・キーン(Bob Keane)が1956年に設立したレコード会社である[10][注釈 8]。
- Bob Guy[12] - Dear Jeepers / Letters From Jeepers (Donna 1380)[13]
- Bob Guy (spoken words), Frank Zappa (all the instruments)
- Produced by Frank Zappa
- Baby Ray & The Ferns[15] - How's Your Bird? / The World's Greatest Sinner (Donna 1387)[16]
- How's Your Bird? - Ray Collins (vocal), Paul Buff (piano), Dave Aerni (bass), Frank Zappa (everything else)
- The World's Greatest Sinner - Frank Zappa (lead guitar), Dwight Bement (Keyboards, horns) etc.
- Produced by Paul Buff
- The Heartbreakers[18] - Every Time I See You / Cradle Rock (Donna 1381)[19]
- Recorded at Studio Masters in Hollywood[注釈 9]
- Paul Buff[2] - Slow Bird / Blind Man's Buff (Donna 1376)[20]
- Paul Buff (all the instruments)
- The Pauls[2] - Cathy My Angel / 'Til September (Donna 1379)[21]
- Paul Buff (all the instruments)
Original Soundは、カリフォルニア州の人気ディスク・ジョッキーだったアート・ラボー(Art Laboe)が1950年代末に設立したレコード会社である[22][注釈 10]。
- The Penguins featuring Cleave Duncan[24] - Memories Of El Monte / Be Mine (Original Sound OS-27)[25]
- Frank Zappa (vibraphone in Memories Of El Monte)
- The Hollywood Persuaders[27] - Tijuana Surf / Grunion Run (Original Sound OS-39)[28]
- Paul Buff (all the instruments in Tijuana Surf), Frank Zappa (all the instruments in Grunion Run)
- Mr. Clean[29] - Mr. Clean / Jessie Lee (Original Sound OS-40)[30]
- Ray Collins (vocal in Mr. Clean), Paul Buff (fuzztone bass in Mr. Clean), Allison Buff (backing vocal in Mr. Clean), Frank Zappa (all the instruments)
- The Rotations[32] - Heavies / The Crunchers (Original Sound OS-41)[33]
- Paul Buff (all the instruments), Mike Dineri (saxophone in The Crunchers)
- Produced by Frank Zappa
# | タイトル | 作詞・作曲 | 名義 |
---|
1. | 「Dear Jeepers」 | Frank Zappa | Bob Guy |
2. | 「Memories Of El Monte」 | Frank Zappa, Ray Collins | The Penguins |
3. | 「How's Your Bird?」 | Frank Zappa | Baby Ray & The Ferns |
4. | 「World's Greatest Sinner」 | Frank Zappa | Baby Ray & The Ferns |
5. | 「Every Time I See You」 | Frank Zappa, Ray Collins | The Heartbreakers |
6. | 「Cradle Rock」 | V. Galleges | The Heartbreakers |
7. | 「Slow Bird」 | Paul Buff | Paul Buff |
8. | 「Blind Man's Buff」 | Paul Buff | Paul Buff |
9. | 「Tijuana Surf」 | Paul Buff | The Hollywood Persuaders |
10. | 「Grunion Run」 | Frank Zappa | The Hollywood Persuaders |
11. | 「Mr. Clean」 | Frank Zappa | Mr. Clean |
12. | 「Jessie Lee」 | Frank Zappa | Mr. Clean |
13. | 「Cathy My Angel」 | Paul Buff | The Pauls |
14. | 「'Til September」 | Dave Aerni, Paul Buff | The Pauls |
15. | 「Heavies」 | Dave Aerni, Paul Buff | The Rotations |
16. | 「The Cruncher」 | Dave Aerni, Paul Buff | The Rotations |
17. | 「Letter from Jeepers」 | Frank Zappa | Bob Guy |
- ^ Del-Fi Recordsは1958年にボブ・キーンによって設立され、2003年にキーンからワーナー・ミュージック・グループに売却されてワーナー傘下のライノ・エンタテインメントに管轄された。
- ^ パル・スタジオのパル(Pal)は、彼の両親が経営していた音楽出版社の名前(Pal-O-Mine)に由来した。
- ^ ザ・サーファリス(The Surfaris)、リーン・アンド・レイ(Rene and Ray)、テリー・アンド・ジョニー(Terri and Johnnie)などのシングル・レコードが含まれる。1962年にザ・サーファリスがパル・スタジオで録音した'Wipe Out'は、1963年にシングル・チャートで最高位2位を記録するヒット曲になった。
- ^ ウィリアムスはザ・マスターズ(The Masters)というバンドのギタリストであった。このバンドは1960年10月に、バフのプロデュースによるデビュー・シングル'T-Bone'をバフのエミ―・レコード(Emmy Records)から発表していた(E 1006)。
- ^ ザッパは1961年1月にパル・スタジオでバフのエンジニアリングの下で、数人のミュージシャンと'Take Your Clothes Off When You Dance'を録音した。この未発表音源は、彼の没後に発表された『ロスト・エピソード』(1996年)に収録された。
- ^ ザ・マスターズは1961年6月にエミ―・レコードから2作目のシングル'Sixteen Tons'を発表した(E 1008)。このシングルのB面に収録された'Breaktime'はバフ、ウィリアムス、ザッパが共作したインストゥルメンタルで、バフがピアノ、ウィリアムスがドラムスとベース・ギター、ザッパがギターを演奏した。
- ^ バフはOriginal Soundと契約を結んでハリウッドのスタジオで作業する時間が増え、パル・スタジオはザッパが引き継いだ形になっていった。彼は最初の結婚生活が破綻した後にはスタジオに引っ越して、そこで生活しながらレコーディング作業に没頭した。そして1964年7月にバフからスタジオを買って、8月にスタジオZと改名して再出発させた。
- ^ ザッパは1962年に数多くのテープを持ってキーンの事務所を訪れて、彼に「聴いてくれ」と直談判した。キーンは既にバフがパル・スタジオで制作したシングル・レコードを2作発表していたので、ザッパの求めに応じてテープを聴いて、その中の数曲のシングル・レコードを発表することに同意した。
- ^ このシングル・レコードはパル・スタジオでは制作されなかった。ザッパはレイ・コリンズと'Everytime I See You'を共作したが、制作には関与していない。
- ^ ラボーは、ザッパとレイ・コリンズが共作した'Memories Of El Monte'をザッパに聴かされて、気に入ってザ・ペンギンズにレコーディングさせて1963年4月に発表した。一方、バフとザッパはキーンから印税を一切支払われなかったので、やがてThe Hollywood Persuadersの名義で制作したシングル・レコードをラボーに聴かせて、ラボーのOriginal Soundがら発表させることに成功した。
- Zappa, Frank; Occhiogrosso, Peter (1990). The Real Frank Zappa Book. New York: Touchstone. ISBN 0-671-70572-5
- Miles, Barry (2004). Zappa. New York: Grove Press. ISBN 0-8021-4215-X