サタンオオカブト

サタンオオカブト

サタンオオカブト
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: コウチュウ目(鞘翅目)
Coleoptera
亜目 : カブトムシ亜目 Polyphaga
上科 : コガネムシ上科 Scarabaeoidea
: コガネムシ科 Scarabaeidae
亜科 : カブトムシ亜科 Dynastinae
: カブトムシ族 Dynastini
: オオカブト属 Dynastes
: サタンオオカブト
S. satanas
学名
Dynastes satanas
Moser, 1909
和名
サタンオオカブト
英名
satanas beetle

サタンオオカブト Dynastes satanas は、コウチュウ目(鞘翅目)・コガネムシ科カブトムシ亜科カブトムシ族オオカブト属 Dynastes に分類される昆虫カブトムシ)の一種。種名は元ヘブライ語の「敵対者または悪魔」の意味であるサタン (satanus) に由来する[1]2010年(平成22年)6月23日よりワシントン条約 (CITES) の附属書IIに掲載されている[2][3]

概要

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♂の全長は60 - 115mm、♀40 - 60mmで、♂♀共に体は黒く、体表面の光沢はネプチューンオオカブトに比べてやや鈍い[4]。ネプチューンオオカブトに似るが♂の上背面の光沢は鈍く、点刻は小さいが明瞭である[1]。大型の♂では体長の3分の1ほどの長さの胸角を持ち、他の同属種にみられる前胸から胸角根元にある1対の突起はない[4]。前胸背板(胸角下面から前胸前面にかけて)の前縁の毛はブラシ状に密生する[1][4]。ネプチューンオオカブト同様符節が短く、中脚・後脚の爪は湾曲が極端に強い[4]。♀は全体に丸みを帯び、上翅の点刻はより広い部分を覆う[1]

ネプチューンオオカブトとの関係

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以前本種は同じオオカブト属に属するヘラクレスオオカブトに次いで2番目に大きいカブトムシとされるネプチューンオオカブトの一種とされていたが、生息域の分断により独立種となった。しかし、前肢の形状から依然ネプチューンオオカブトとの近縁関係が指摘されており、これら2種を独立のカバイロオオカブト属Theogenes属)として扱う向きもある[1]。また、体色なども酷似しているためネプチューンオオカブトの未熟種とする意見もある。

生態

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ボリビアラパス県ユンガス山脈)やコチャバンバ県などの標高1000 - 2800mの熱帯雨林に断続的に分布する[1][4]。成虫の生態はよくわかっておらず、夜間灯火に飛来したものが採集されている[1]。ボリビアでは1990年代から野生動物を商業目的で持ち出すことが違法となっており逮捕者も出ているが、日本の需要に応えるために乱獲され個体数が減少した[5]

本種は記載以降長い間タイプ標本(115mm)の♂1頭が知られるだけの大珍品であった[1]。しかし、それとは別に1967年頃には既に♂3頭、♀2頭の標本日本伊豆シャボテン公園昆虫館に保存されていた[1]。昆虫学者の永井信二は同館の標本整理・管理を担当していた前波鉄也の下を同年初夏にマダガスカル昆虫の標本を見る目的で訪れ、その際に「種不明のカブトムシの一種」として展示してあった本種の標本を目にした[1]。その標本はほとんど符節が失われてはいたが、世界初の♀を含んだその標本群を見た永井は腰が抜けるほど驚き、前波に「記載以降記録のない大珍品のサタンオオカブトです」と伝えたという[1]。永井は前波に入手経緯について尋ねたところ、「進化生物学研究所所長の近藤典生博士がボリビアのある地方都市を訪れた際、とある郵便局の壁に飾ってあったものを貰い受けて持ち帰った」とのことであった[1]。永井は「博物学の権化のような近藤博士の眼力の凄さを垣間見た思いだった」という[1]。これらの標本は後に山口進らの「最新図鑑 カブトムシ」(双葉社1984年刊行)に図示され、初めて日の目を見たが、1981年のDechambreの報告に先を越されてしまった[1]。その後本種は1990年代に入って新産地の発見などにより、標本としてはごく珍しいものではなくなったが、タイプ標本(115mm)以上の大型個体は未だに確認されていない[1]。飼育下での確認されている最大数値(ギネス個体)はむし社(本社・東京都中野区)の調査によれば飼育下では2016年現在114.3mm[6]である。

生息地が奥地ということや現地の治安状況等により、以前は標本でも珍品だった[7]。生体が初めて日本へ輸入された際は大型の雌雄ペアが100万円超で販売され、2023年時点でも「珍しく高額なカブトムシ」として人気が定着している[8]。またその生態も謎だったが、最近ではネプチューンオオカブトと活動時間や生態はほぼ同じということが判明した。CITES附属書IIへの掲載やボリビア政府の対応によりワイルド個体の輸入は厳しく規制を受けるが、バイヤーを仲介した違法な流通が続いている[5]。現地の農民は1匹が数日分の生活費に相当する50ボリビアーノでバイヤーに売れると証言している[5]

オオカブト属の中では3番目に大きくなる種であるが、ヘラクレスオオカブトやネプチューンオオカブトよりも小さく、オスは最大でも体長11cmを越える程度までにしか成長しない。また、大型カブトムシ全体に言えるが、羽化後は成熟まで3 - 6ヶ月ほどの休眠期間を要する。樹液や腐った果実を好み、それらを求めて地上を移動する。闘争は角が短い分、ヘラクレスオオカブトやネプチューンオオカブト程、相手を挟み込んで投げ飛ばす事は得意ではない。また、基本的には争いはあまり好まない大人しい性質で自ら攻撃を仕掛けることは少ない(しかし個体差はあり、中には好戦的な個体もいる)。

活動時間は夜間で灯火に飛来する[5]

飼育

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ネプチューンオオカブト#飼育を参照。

参考文献

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  • 月刊むし』2006年4月増刊号『BE-KUWA』No.18「ヘラクレスオオカブトとその仲間達 ディナステス大特集!!」(むし社
  • 『月刊むし』2016年3月増刊号『BE-KUWA』No.58「南米のカブトムシ大特集!!」(むし社)
  • 岡村茂『決定版 世界のカブトムシ BEST100』(第一刷発行)双葉社、2023年7月11日。ISBN 978-4575318081NCID BD03506475国立国会図書館書誌ID:032898766全国書誌番号:23869048 

脚注

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 『BE-KUWA』No.18
  2. ^ ワシントン条約:第15回締約国会議における附属書改正事項について”. 経済産業省貿易経済協力局貿易管理部貿易審査課・農水産室 (2010年5月14日). 2017年2月28日閲覧。
  3. ^ ワシントン条約附属書(動物界)2017年(平成29年)1月3日から発効” (2017年1月3日). 2017年2月28日閲覧。
  4. ^ a b c d e 『BE-KUWA』No.58
  5. ^ a b c d 日本放送協会. “カブトムシ違法取引で日本人が逮捕? 「エキゾチックペット」消費大国との批判も | NHK”. NHK NEWS WEB. 2023年8月15日閲覧。
  6. ^ 『BE-KUWA』No.58 P.82
  7. ^ 学研『ニューワイド学研の図鑑 観察ブック カブトムシ・クワガタムシのとり方・飼い方』荒谷邦雄監修、2007年7月25日初版発行、ISBN 978-4-05-202892-2 p.63
  8. ^ 岡村茂 2023, p. 15.

関連項目

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