スペースカデットキーボード(英語: space-cadet keyboard)は、MITのLISPマシンで使われていた、トム・ナイトによって設計されたキーボードである。今なお計算機科学の分野のジャーゴンに影響を与えており、Emacsの設計に影響した。
トム・ナイト自身によって設計され、MITのIncompatible Timesharing Systemで使われていたナイトキーボードを元に作られた。
右の写真のシンボリックスのスペースカデットキーボードは、MITのLISPマシン・MIT CADRのシンボリックスによるリパッケージ版であるLM-2でのみ使用されていた。後のシンボリックスのシステムでは、スペースカデットキーボードを大幅に単純化したキーボード(シンボリックスキーボードと呼ばれる)を使用したが、スペースカデットキーボードの基本的なレイアウトと修飾キーは維持された[1]。
スペースカデット(space cadet)とは「宇宙飛行士候補生」といったような意味で[2]、宇宙船のコックピットにある大量の操作装置のように、大量のキーのあるキーボードという意味である[3]。
スペースカデットキーボードには7つの修飾キーがあった。バッキービットのための4つのキー(コントロール(control)・メタ(meta)・スーパー(super)・ハイパー(hyper))と3つのシフトキー(シフト(shift)・トップ(top)・フロント(front)(ただし、フロントキーにはGreekと刻印されている))である。メタは初期のナイトキーボードで導入され、ハイパーとスーパーはスペースカデットキーボードで導入された[4]。 これらのキーは横並びになっており、コーディッドキーボードによって複数の修飾キーを同時に押すことができる。例えば、Ctrl+Meta+Hyper+Superは片方の手の指で押すことができ、もう片方の手で別のキーを押した。
ほとんどのキーには3つの文字が割り当てられており、3つのシフトキーで切り替えができた。キーの上面にラテン文字と記号が、側面にギリシャ文字が刻印されていた。例えば"L"のキーには上面に"L"と"⇔"が、側面にギリシャ文字の"λ"が刻印されていた。右手でこのキーを押すのと同時に、左手で修飾キーを押すことで、以下のように入力する文字を切り換えできた。
押下するキー | 入力される文字 |
---|---|
L | l (小文字のL) |
⇧ Shift+L | L (大文字のL) |
Front+L | λ (小文字のラムダ) |
Front+⇧ Shift+L | Λ (大文字のラムダ) |
Top+L | ⇔ (両方向の矢印) |
これらにさらにコントロール・メタ・スーパー・ハイパーの修飾キーの組み合わせを加えることができ、このキーボードで8000以上の異なる文字を入力することができる。これにより、非常に複雑な数学のテキストを入力することも、何千もの1文字のコマンドを設定することも可能になった。多くのユーザーは、タイピング時間を減らすために、多くのコマンドを記憶した。このユーザーの姿勢が、Emacsのインターフェースを形作った[5]。ADM-3A端末でEscキーが打ち易い位置にあったことからviでEscキーを多用しているのとは対称的である[6]。しかし、多くのユーザは、多数のバッキービットは過剰であり、操作するのに手が3本も4本も必要になる[4]としてスペースカデットキーボードを前提としたEmacsの設計に反対した。Emacsが複数の修飾キーを頻繁に利用する結果(それでもスペースカデットキーボードよりは簡単であるが)、IBMのモデルMキーボードの配列を引き継いだ最新のキーボードでは操作が難しくなっている。それらでは、スペースカデットキーボードのように修飾キーが一箇所にまとまっておらず、一度に複数押すのが難しいためである[6]。
スペースカデットキーボードにはマクロキーもついており、いくつかのアプリケーションが対応していた。また、4つ以下のリストの選択が簡単にできるように4つのローマ数字キー(I, II, III, IV)もついていた[4]。