パダン料理(パダンりょうり インドネシア語:Masakan Padang)はインドネシア西スマトラ州の伝統的料理。パダンは西スマトラ州の州都である。
西スマトラ州の民族はミナンカバウ人が大半を占めるため、その料理はミナンカバウ料理(ミナン料理)と呼ばれ、パダン料理はそのひとつであり、その他に有名なものとしてはカパウ地方のカパウ料理がある。しかしスマトラ島外や世界的には、ミナンカバウ料理は「パダン料理」の名前で呼ばれることが多い。料理店で使われる言葉であるナシ・パダン(パダンめし)、ナシ・カパウ(カパウめし)はそれぞれご飯(nasi)とおかずのセット料理のことを指す。
ミナンカバウ人はインドネシアでは料理に長けた民族と言われ、ミナン料理の評価は高く、ルンダンは全インドネシアを代表する料理として認識されている。また母系社会のミナンカバウ人の男性は各地に出稼ぎに行くことが多く、元々は出稼ぎ者向けで各地にできたミナン料理店を他民族も利用するようになったため、ミナン料理店はインドネシア全国に存在する。また近隣のマレーシアとシンガポールにもあり、ナシパダンなどの名で知られている。
多民族国家のインドネシアでは各民族の料理があり、基本的には自分の民族料理を多く食べるが、ミナン料理に関してはそれを超えて多く食されている。しかしミナン(ミナンカバウ)とは民族名であり、あえてそれを使わずパダン料理などとしている面がある。
インドや中近東の料理の影響を受け、肉や野菜のカレーが多い。トウガラシを使った辛い料理が多い。インド料理と異なり、ココナッツミルクで煮込む料理が多い。使用される肉は牛肉、水牛、牛の腸、牛の脳、チキン、ダック。淡水魚はフナ、グラミー、タウナギ。野菜の種類は限られていて、キャッサバの葉、若いジャックフルーツ、ジュウロクササゲ、シダ、インゲンマメ、ネジレフサマメノキの豆とナス。一般的なスパイスはトウガラシ、シャロット、ニンニク、レモングラス、ショウガ、ウコン、ウコンの葉、ナンキョウ、コショウ、コリアンダー、キャンドルナッツ、乾燥したキャニモモ。デザートとお菓子以外、砂糖は使わない。サテパダンだけは例外的にクミンやカレー粉を使う[1]。
伝統的にカトラリーは使わず、右手のみで食べる人が多い。それゆえ、食べる前に水の入った椀が用意されている場合それで手を洗う、又は近くにあるシンクで石けんで手を洗う。ただし近年では食事中のスマホ操作などのためにスプーンやフォークを使用する場合も多くなってきている。
カレー料理(グライ Ḡulai)はインド由来のカレー料理のカリ(Kari)とは区別され、複数の具材は使わず、単品(多くは肉類)のみの煮込み料理である。
料理は基本的に作り置きであり、店の外から見て客がわかりやすいように、一箇所にまとめて盛られている。種類ごとに皿に盛りつけて、飾り棚にピラミッドのように重ねていることが多い。客は注文の必要が無くテーブルにつくとウエーターがご飯とおおむね10種類以上のおかず料理を出す。両手両腕を使って給仕人が上手にバランスを取って料理を客のテーブルに運ぶ。カレー類と汁があるおかずはスプーンで皿から取る。食べたくない料理には触れない。食べたいおかずだけで食べて、その分の代金を払う。客が触れなかった料理は別の客に出すのがスタイルになっているが、近年ではコロナ禍もあり、衛生的な観点から客に注文を聞き、注文したもののみが供されることが多くなってきている。 店内にはメニューや料金の表示がない場合もあり、知りたい場合はウエーターに説明してもらう。観光客には料金や調理の面で不安要素はあるが、多くのパダン料理はチェーン店で、誠実かつ衛生面の問題も少く、仮に代金を水増しされたとしても西欧の基準からすれば非常に安価である[2]。多くのおかず料理が要らない場合、飾り棚に行って好きなものだけを注文する。
また持ち帰り(ブンクス bungkus 「包む」の意味)の客も多く、ワックスペーパー(以前はバナナの葉を多用)を斜めに巻いて円錐型の空間を作り、そこにご飯を盛り、注文した料理のほか、付け合せになるサンバルや煮込み料理の汁(クア kua)を加え、プラスチック袋に入れる。またスープ類もプラスチック袋に入れ漏れないようにしっかりと括っている。これを「お好みおかず乗せご飯」としてナシチャンプル(nasi campur)、もしくはナシラマス(nasi ramas)と言う。campur(マレー語由来)とramas(ジャワ語由来)には「混ぜ合わせる」といった意味がある。