パルヴィカーソル Parvicursor | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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復元図
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地質時代 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
後期白亜紀カンパニアン | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Parvicursor Karhu & Rautian, 1996 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
タイプ種 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Parvicursor remotus Karhu & Rautian, 1996 |
パルヴィカーソル[1](学名:Parvicursor)は、アルヴァレスサウルス科パルヴィカーソル亜科に属する獣脚類の恐竜の属[2]。モンゴル国のゴビ砂漠に分布するバルンゴヨット層から化石が産出しており、後期白亜紀カンパニアン期に生息した[2]。ホロタイプ標本は2021年時点で最小のアルヴァレスサウルス科恐竜であるが、幼若個体と見られている[2]。2023年の系統解析ではケラトニクスに最も近縁とされるが[3]、2021年時点でケラトニクスが本属のジュニアシノニムである可能性が指摘されている[2]。
日本語でのカナ転写表記には表記揺れがあり、パルヴィカーソルの他にはパービクルソル[4]、パルヴィクルソル[5]、パルビクルソル[6]と表記される場合がある。
パルヴィカーソルはモンゴル国ウムヌゴビ県のネメグト盆地北部に位置するフルサンに分布する、上部カンパニアン階にあたるバルンゴヨット層で化石が産出している[7]。タイプ種Parvicursor remotusはホロタイプ標本PIN 4487/25のみが標本として知られる単型である[7]。1992年に発見された本標本は部分的な骨格であり、主に椎骨と骨盤および右後肢から構成され、1996年に記載に至った[7]。
タイプ種Parvicursor remotusの属名・種小名はいずれもラテン語に由来する[5]。属名は「小さな」paravusと「走者」cursorの組み合わせからなり、種小名は「遠い」remotusを意味する[5]。
パルヴィカーソルは推定全長39センチメートル程度の小型の獣脚類とされ[5]、グレゴリー・ポールによる体重推定値も0.2キログラムとされる[4]。ただし、椎体同士で癒合した仙椎が少ないこと、遠位足根骨-中足骨間に縫合線が存在すること(完全に癒合していないこと)などを根拠とし、Averianov and Lopatin (2021)はホロタイプ標本を幼若個体と判断している[2]。原記載では本標本が成熟個体である根拠が示されていたが、Averianov and Lopatin (2021)は椎体-神経弓の癒合が必ずしも成長停止年齢を示唆しないことや根拠の1つであった寛骨臼の大きさがそもそも不明であることなどを挙げ、前提を否定している[2]。
パルヴィカーソルの胴椎は椎体の関節面が三角形に近い[2]。後側の胴椎には腹側に鋭利な稜が存在しており、シシアニクスやシュヴウイアと区別される[2]。また中部胴椎に大型の含気孔を持つリンヘニクスと異なり、パルヴィカーソルの胴椎は側腔(pleurocoels)を持たない[8]。最後側の仙椎は左右に狭く、また腹側に鋭利なキールを持つ[2]。前側尾椎の横突起はキウパニクスと比較して前側に位置する[2]。リンヘニクスの前側尾椎の椎体の関節面が前後両方で窪むのに対し、パルヴィカーソルの前側尾椎の椎体は前凹型である[8]。
骨盤を構成する骨は寛骨臼の周囲で癒合していない[2]。腸骨には寛骨臼の背側に水平方向の稜が走っており、その前端はpubic peduncleの最も腹側に発達した部分よりも前側に伸びている[2]。腸骨のうち寛骨臼よりも後側の部分には背側に長軸方向の稜が存在しておらず、ケラトニクスと区別できる[2]。坐骨のシャフト部は恥骨のシャフト部と同程度の高さであり[2]、恥骨は強く後側に向く[4]。
後肢は顕著に細い[4]。大腿骨頸は背側から見て転子稜に対し垂直である[2]。大腿骨には第四転子が存在せず、モノニクスやケラトニクスやネメグトニクスと異なる[2]。転子稜はモノニクスやヤキュリニクスと同様に直線状であり、内側にカーブする他のアルヴァレスサウルス科の属と異なる[3]。また、大腿骨外側顆の外側面に顕著な外側突起が存在する点もモノニクスやヤキュリニクスと共通する[3]。一方で、大腿骨外側顆のectocondylar tuberが内側顆よりも後側に拡大することはヤキュリニクスと異なる[3]。膝窩が遠位に位置する点はモノニクス、シシアニクス、シュヴウイアと異なる[2]。またリンヘニクスのものよりも目立つentocondylar tuberが存在し、かつシシアニクスと異なり後外側に向く[2]。
脛骨近位端の内側顆はヤキュリニクスほど頑強でない[3]。距骨はアルビニクスと異なり深い溝が存在しない[2]。第II中足骨と第IV中足骨は共同骨化しておらず、シシアニクスやアルビニクスと異なる[2]。また間に挟まれた第III中足骨は伸筋表面が平坦であり、モノニクスやシュヴウイアと異なる[2]。加えて第III中足骨は近位端部に左右方向の拡大が認められる点でアルバートニクスと異なる[2]。
第II趾から第IV趾にかけての基節骨はアルバートニクスのものと比較してプロポーション的に長い[2]。第IV基節骨の近位腹側には1個の切痕が存在する[2]。第II末節骨は第II中節骨よりも短く、第IV趾の2番目から4番目にかけての趾骨はそれぞれ長さがほぼ等しい[2]。第V趾の趾骨は比較的長い[2]。
Lngrich and Currie (2009)はツグリキンシレから産出したアルヴァレスサウルス科の化石がパルヴィカーソル属に属する可能性を指摘した[9]。この小型恐竜の化石は第一仙椎に腹側のキールを持つ点と第IV中足骨が長い点でパルヴィカーソルとの共通点を示し、また系統解析においてもパルヴィカーソルの姉妹群という非常に近縁な位置に置かれた[9]。しかし、Lngrich and Currie (2009)では簡単な言及に留まっており[9]、後続研究であるAverianov and Lopatin (2021)では第II末節骨が大型であることからパルヴィカーソルとしての同定を否定されている[2]。
Averianov and Lopatin (2021)では、ケラトニクスとパルヴィカーソルとの間の差異が個体成長や個体差で説明できる軽微なものであるとされ、両者がシノニムである可能性が提唱された[2]。Dyke and Naish (2011)ではリンヘニクスがパルヴィカーソルのジュニアシノニムである可能性が指摘されたが[10]、これはXu et al. (2011)が椎骨の形態や第III中足骨の長さに基づいて否定した[8]。Averianov and Lopatin (2021)はリンヘニクスについて類似性を指摘するに留めている[2]。
Kubo et al. (2023)の系統解析において、パルヴィカーソルはケラトニクスとの姉妹群を形成し、さらにこの2属からなる分岐群がリンヘニクスと姉妹群を形成した[3]。以下のクラドグラムはKubo et al. (2023)に基づく[3]。
アルヴァレスサウルス類 |
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バルンゴヨット層から産出した他のアルヴァレスサウルス科にはオンドグルヴェルとフルサヌルスとケラトニクスがおり、特に後者2属がパルヴィカーソルと同じく下部バルンゴヨット層から産出している[3]。この他にもパルヴィカーソル亜科に属さないネメグトニクスや、パルヴィカーソル亜科のうち異なる分岐群に位置づけられるヤキュリニクスがネメグト盆地から得られており、アルヴァレスサウルス科が後期白亜紀の短期間のうちに湿潤環境と乾燥環境の両方を示すネメグト盆地において多様化したことが示唆されている[3]。