『ブラフマ・スートラ』(梵: ब्रह्मसूत्र, Brahma Sūtra)は、インド哲学のヴェーダーンタ学派の根本聖典[1]。5世紀前半ごろ成立。8世紀のシャンカラの注釈を通じて伝統的に読まれる[2]。『ヴェーダーンタ・スートラ』『シャーリーラカ・スートラ』などとも呼ばれる[1][3]。
ブラフマンの考究を中心に[1][4]、一元論[1][5]、出家の讃美[6]、『ウパニシャッド』諸文献の解釈[1]、当時主流だったサーンキヤ学派の二元論への批判[1][7]、姉妹学派のミーマーンサー学派への部分的批判[1][6]、その他ヴァイシェーシカ学派・仏教・ジャイナ教・シヴァ教獣主派・ヴィシュヌ教バーガヴァタ派への批判[8]を説く。
4編4章ずつの合計16章からなり、各章が複数の節からなる[2]。
おそらく暗誦目的または秘教性のため、極端に簡潔な文体で省略を多用して書かれているため、注釈無しでは読解が困難である[9]。
伝承では、作者は前1世紀ごろのヴェーダーンタ学派の開祖バーダラーヤナとされる[10]。しかし実際は、後400年から450年ごろに、学派内で既存の諸学説を整理して編纂したと推定される[5]。
本書は『ウパニシャッド』『バガヴァッド・ギーター』とともに、ヴェーダーンタ学派の「三種の学」として重視される[1][11]。
ヴェーダーンタ学派内の諸派の開祖をはじめ、多くの学者の注釈があり、現存する注釈は約50種に及ぶ[1]。現存最古かつ最重要の注釈に、8世紀の不二一元論派の開祖シャンカラの注釈がある[2]。同派のパドマパーダやヴァーチャスパティ・ミシュラは、シャンカラの注釈への注釈(複注)を書いた[12]。他の重要な注釈として、他派開祖のラーマーヌジャ、マドゥヴァ、ニムバールカ、ヴァッラバの注釈がある[13]。ラーマーヌジャやマドゥヴァは、ヴィシュヌ教神学の観点とともに注釈した[14]。近現代のインド学では、既存の注釈に依らない原意解釈も行われている[15]。
近現代のインドでも、バラモン[16]、シャンカラを崇敬するヒンドゥー教スマールタ派[17]、ラーマクリシュナら思想家・宗教家[17]などに重視されている。