ルパン三世 バビロンの黄金伝説 | |
---|---|
監督 |
鈴木清順 吉田しげつぐ |
脚本 |
大和屋竺 浦沢義雄 |
原作 | モンキー・パンチ |
製作 | 藤岡豊 |
出演者 |
山田康雄 増山江威子 小林清志 井上真樹夫 納谷悟朗 塩沢とき カルーセル麻紀 河合奈保子 |
音楽 | 大野雄二 |
主題歌 |
河合奈保子 「MANHATTAN JOKE」 |
製作会社 | 東京ムービー新社 |
配給 | 東宝 |
公開 | 1985年7月13日 |
上映時間 | 100分 |
製作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
前作 | ルパン三世 カリオストロの城 |
次作 |
ルパン三世 風魔一族の陰謀(劇場公開及びOVA) ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス(劇場版) |
『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』(ルパンさんせい バビロンのおうごんでんせつ)は、1985年に公開された日本のアニメ映画。モンキー・パンチ原作のアニメ『ルパン三世』の劇場映画第3作である。バビロニア文明時代の伝説の黄金をめぐるルパン三世と謎の老婆、ニューヨークマフィアとの争奪戦を描く。監督は鈴木清順と吉田しげつぐ。
キャッチコピーは「古代メソポタミアから…現代のニューヨークへ バビロンの秘宝をめぐるエキサイティングな争奪戦!」。
当時、日本テレビ系で『ルパン三世 PARTIII』(以下『PARTIII』)が放送されていたことを受け製作された。
当初は押井守が監督を務める予定だったが、実験的な内容を危惧した制作側が押井を降板させる。その後、スタッフを過去作や『PARTIII』への参加者を中心に一新したことで、非常に短い期間で製作された作品となった。
劇場版前2作に見られた重厚な設定や物語進行は影を潜め、奇抜で娯楽色の強い作風となっている。これは「ルパン本来の面白いアクションをやろう」と前2作のように観客に何か訴えるようなことはせず、アクションや笑いでスカッとしたものを出したいという意図で本作が制作されたためである。監督の吉田しげつぐは「見終わった後に爽快感が残るような作品を目指した」と述べている[1]。
『PARTIII』に合わせ、ルパンはピンク色のジャケットを着用、絵柄は『PARTIII』後期のポップなデザインとなっている。一方で、次元、五ェ門、銭形の衣装カラーリングは、青木悠三の手で『TV第2シリーズ』に近いものに変更されている。
主題歌には、河合奈保子が歌う「MANHATTAN JOKE」が使用されており、河合はゲスト声優として特別出演もしている。また、公開時には河合の役を公表せず、それを当てるクイズが実施された。ゲスト声優は河合の他、監督の鈴木清順の提案で塩沢ときやカルーセル麻紀が起用され[2]、おぼん・こぼんも出演している。
劇場版のうち、前二作の『ルパンVS複製人間』や『カリオストロの城』は『金曜ロードショー』枠で定期的に放送されるが、本作が『金曜ロードショー』枠で放送されたのは1986年11月28日のみで、地上波放送の機会がほとんどない。
ソフトに収録されている音声は前二作と異なり、音質が高いシネテープのものでなく光学録音の音声となっている。本作でシネテープ音源が使用されたのは劇場公開のほか、当時発売されたドラマ版レコードと上記のテレビ放送のみとなっている。
ルパン三世役の山田康雄は本作公開10年後の1995年に死去したため、ルパンを演じた最後の劇場映画作品となった[注釈 1][3]。
ニューヨークの街角にある店に、一人の老婆が入ってきた。その店は、怪物のマスクを着用して夜通し騒ぎまくるナイトクラブ。その老婆、ロゼッタと顔なじみのルパンは、ゴリラに扮して上機嫌。だが、そこに届いた宅配便の中から銭形警部が現れ、ルパンはオートバイに乗って逃走する。それを追う銭形警部との激しいバイク逃走劇は、ブロードウェイの巨大な看板へと舞台を移していく。
その一部始終を苦々しく見つめている男たちがいた。ニューヨークを牛耳るマフィアのボス、マルチアーノと若頭のコワルスキーだった。「ルパンを殺せ」、マルチアーノはコワルスキーにそう命じる。
ある夜、ルパンのもとに現れたロゼッタ。彼女はルパンに、こんな話を始めた。紀元前5世紀、メソポタミア文明の古代都市「バビロン」では、滅びる前に神の手によって国内の財宝が全て集められ、今でもその財宝はどこかに隠されているというのだ。それこそが、ルパンがマルチアーノから聞き出そうとしている秘密だった。マルチアーノは先代からバビロンの黄金を探し求めていたのである。ロゼッタはルパンに古びた燭台を残し、いずこへか去ってしまった。
不二子は女の魅力を武器にしてマルチアーノに接近し、バビロンの財宝を狙っていた。マルチアーノは彼女に、財宝探しは父の代から続く立派な事業だと話す。彼の父はバビロンの黄金探しに夢中になり、縄張りをルチアーノに譲って引退した。きっかけとなったのは、MSGの地下鉄工事現場から見つかった粘土板だった。その粘土板にはバビロニア文字が刻まれており、父はイラクで遺跡の発掘作業に没頭した。しかし同じ時期、ヒトラーも黄金の塊を狙い、大規模な調査団を派遣していた。マルチアーノは暗黒街の仕事をコワルスキーに任せ、父の事業を引き継いだのだった。
マルチアーノは不二子を連れて、豪邸の地下にあるコレクション・ルームへ移動した。そこには粘土板の破片50枚の内、40枚が展示されていた。不二子は彼にルパンも数枚を集めていると教え、ペンダントに仕込んだ小型カメラで粘土板の裏文字を撮影した。マルチアーノは盗撮に気付き、不二子のバスローブを引き裂いた。全裸になった不二子は戸惑いながらも、咄嗟にバスローブの切れ端を拾い前を隠した。マルチアーノは盗撮を裏切りと判断しナイフで襲い掛かった。
その頃、銭形警部は「国際婦人警官ビューティーコンテスト」の参加者5人を部下に従え、ルパン逮捕の作戦を計画していた。オリエント急行内で待ちかまえる銭形警部と婦人警官5人組。だが、同じくマルチアーノもルパン暗殺を狙っていた。
不二子と合流したルパンはバベルの塔が発掘されたというイラクへ向かう。 塔の内部に潜入したルパンは、立体映像の美女に出会い、黄金の獅子像を見つける。だが、確かにそれはお宝ではあるものの、「バビロン中の黄金を集めた」にしては財宝のあまりの少なさに、ルパンはおかしいと疑問に思う。
ルパンはバビロンの真の黄金を探すべく、再びマンハッタンへと戻る。ルパンの推理は的中し、マディソン・スクエア・ガーデンの地下空洞に大量の黄金が存在した。マルチアーノに捕らわれた不二子を救うため、ルパンはマルチアーノのアジトへと潜入する。
1984年夏、テレビ放送されていた『ルパン三世 PARTIII』の好評から製作が決定する。
当初は、前作『カリオストロの城』の監督である宮崎駿の推薦で押井守が監督を務める予定だった。しかし、「ルパンは存在していなかった」というあまりに実験的な内容を危惧した制作側が、企画開始から約半年後の1984年12月上旬、押井と集まったスタッフを降板させることとなる。
その後、吉田しげつぐが新たに監督に就任。『TV第2シリーズ』等に参加経験のある鈴木清順を共同監督に迎え、野球中継による放送中止の影響で余力があった『PARTIII』のスタッフを移行して公開予定日に間に合うよう急遽製作したという経緯がある。
脚本は、複数の脚本家からプロットを募集し鈴木や制作側でオーディションを行なった結果、浦沢義雄のプロットが採用され、浦沢が脚本を担当することとなった[2]。
浦沢は、『カリオストロの城』でルパンが女の子に好意を持ち足長おじさんのようになっていたことに反感があったため、「『カリオストロの城』に勝ちたい」と意気込んで執筆を始めたという[6]。だが、それまでのテレビシリーズでハコ書きをせずに脚本を書いていた浦沢は、テレビよりも長い映画では行き詰まって収拾がつかなくなりスランプに陥ったため、最終的に後半部分を浦沢の師匠に当たる大和屋竺が執筆している[6][7]。
浦沢は後に「初めて全然書けなくなって、途中で投げ出して、大和屋さんに渡しちゃった。大和屋さんが全部書いた。(中略)結構大和屋さんには節目節目で助けられてる」と語っている[6]。
上述のように、押井の降板の影響から製作スケジュールが非常に短くなったことで、原画を担当した大森英敏によると製作期間はわずか2ヶ月しかなかったという[8]。また、『PARTIII』から参加したアニメーターは突如、睡眠4時間、食事1回、休みなしの状態になったという。
監督の吉田は、絵コンテの内容をアニメーターに感性で描いてもらい、それにアドバイスや修正を行うなどしてカットを仕上げるなど、作画や演出に関する作業が主な仕事だったという[1]。一方で鈴木は、完成した脚本や映像などに対して吉田へアドバイスをしたり打ち合わせすることが主な仕事で「僕は絵が描けないから、チョッカイを出すだけ。チョッカイ屋だね」と自嘲的に語っていた[1]。また、鈴木は「長く『ルパン』を手がけている人には、思いいれで”ルパンはこんなことしない”とかいう部分もでてくると思うんですよ。すると、そういう思いいれで固めちゃうと映画ってのは面白くなくなるから、僕の役目っていうのは1人それを離れてもう少し幅を持って『ルパン』を見て、面白い発想を生かしたりとか、そういうことなんですね」とも語っている。
作画監督およびキャラクターデザインは『PARTIII』の青木悠三が担当。「キャラクターの上ではルパンがなんとなく老けてきた部分がある」と感じた吉田と相談した結果、原作に近い若いルパンを出すことを意識したという[1]。
舞台はニューヨークが選ばれ[注釈 4]、1980年代当時の華やかな世相が色濃く映し出されている。作中で登場するマルチアーノ (Marciano) はイタリア人に見られる姓、コワルスキー (Kowalski) はポーランド人に見られる姓である。
冒頭のルパンと銭形によるバイクチェイスのシーンに関して、編集作業時に本編が上映予定時間より長くなっていることが判明したため、当初は一部がカットされる予定だったが、鈴木の「アクションは見せ場だから」という意向で他の箇所をカットし、そのままの尺で公開された。ただし、飯岡順一によると公開後、鈴木自身も当シーンを「長すぎたな」と語っていたという[2]。
本作は製作に日本テレビが参加したことから、『PARTIII』では著作権の問題で使用されなかった「ルパン三世のテーマ」と「銭形マーチ」が劇伴として『TV第2シリーズ』以来5年ぶりに使用された。また、長年テレビシリーズの音響効果を担当してきた糸川幸良が劇場版に初めて参加した[注釈 5]。
鈴木によると、過去にダンテ・アリギエーリの『神曲』を特撮で作る企画があり、その時の構想が本作に名残りとして生かされているという。
特別出演の河合奈保子は声優初体験であり、ルパン三世役の山田康雄と共に収録を行った。河合は緊張やプレッシャーから何度も録り直しとなり、迷惑をかけた山田に謝罪するが、山田は「いいってことよーっ、気にすんなっ!」と明るく河合をねぎらいながらアドバイスもしたといい、収録は無事に終了した。またこの時、ベテランにもかかわらず1シーンの収録を終えるたびにメモをとりながら台本を見つめ考えこんだり、台詞を何度も暗唱する山田の真剣な姿を見た河合は、強く胸を打たれたという[9]。
小黒祐一郎は「やりたい事は分からないでもないが、作品全体として観ると、散漫な仕上がりとなっている」と評している。作画に関しては「『PARTIII』調のグラフィカルなキャラクターが劇場作品に合っていたかというと、ちょっと難しい」とする一方で「スケジュールがなかったとは思えないほどに健闘。全体にアクションシーンが多く、それがよく動いている」と高く評し、「『カリオストロの城』でルパンが丸くなってしまった事への反発があったのかどうかは分からないが、とにかく作り手は「美女よりもお宝を選ぶルパン」を描いた。安っぽいと言えば安っぽいのだけれど、それもルパンらしい。」と総括している[10]。
リアルサウンドのライターであるのざわよしのりは、製作期間の短さから「内容に関しては色々とほころびが多い映画だと思います、正直いって」と評する[11]一方で、「あの映画が好きっていう人が意外と多い」と述べ「後年見直したら作画は凄く凝ってると思った」「(公開)当時は好きじゃなかったけれど、あの絵の味とスラップスティックな面白さが分かるようになったのは大人になってからだった」としている[12][13]。また、劇場版前2作に比べテレビ放送の回数が少ないことにも触れており「ライト層にはクセのある絵柄が受けにくいのではないか」と分析している[11][14][15]。
※有料チャンネル除く
回数 | 放送局 | 番組名 | 放送日 | 備考 |
---|---|---|---|---|
1 | 日本テレビ | 金曜ロードショー | 1986年11月28日 | |
2 | 読売テレビ | アニメだいすき! | 1990年1月5日 | |
3 | 1993年7月30日 | |||
4 | BS日テレ | 日曜ロードSHOW! | 2019年8月11日 | [5] |
ルパン三世の劇場映画 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
通番 | 題名 | 公開日 | 監督 | 脚本 | 主題歌 | 歌手 | 興行収入 |
実写版第1作 | 念力珍作戦 | 1974年8月3日 | 坪島孝 | 長野洋 | 恋のチャンス | ポピーズ | |
ブローアップ上映 | ベネチア超特急 | 1978年3月18日 | 御厨恭輔 | 今野鑲 | ルパン三世のテーマ ルパン三世 愛のテーマ |
- | |
アニメ版第1作 | ルパンVS複製人間 | 1978年12月16日 | 吉川惣司 | 大和屋竺 吉川惣司 |
ルパン音頭 | 三波春夫 | 9.15億円 |
アニメ版第2作 | カリオストロの城 | 1979年12月15日 | 宮崎駿 | 宮崎駿 山崎晴哉 |
炎のたからもの | ボビー | 6.1億円 |
アニメ版第3作 | バビロンの黄金伝説 | 1985年7月13日 | 鈴木清順 吉田しげつぐ |
大和屋竺 浦沢義雄 |
MANHATTAN JOKE | 河合奈保子 | |
アニメ版第4作 | 風魔一族の陰謀 | 1987年12月18日 | (不在) | 内藤誠 | セラヴィと言わないで | 麻倉未稀 | |
アニメ版第5作 | くたばれ!ノストラダムス | 1995年4月22日 | 白土武 | 柏原寛司 伊藤俊也 |
愛のつづき | 坂上伊織 | |
アニメ版第6作 | DEAD OR ALIVE | 1996年4月20日 | モンキー・パンチ | 柏原寛司 | Damegeの甘い罠 | media youth | |
アニメ版特別作品 | ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE | 2013年12月7日 | 亀垣一 | 前川淳 | (主題歌なし) | 42.6億円 | |
アニメ版第7作 | LUPIN THE IIIRD 次元大介の墓標 | 2014年6月21日 | 小池健 | 高橋悠也 | Revolver Fires | Gary Stockdale | |
実写版第2作 | ルパン三世 | 2014年8月30日 | 北村龍平 | 水島力也 | (主題歌なし) | 24.5億円 | |
アニメ版第8作 | LUPIN THE IIIRD 血煙の石川五ェ門 | 2017年2月4日 | 小池健 | 高橋悠也 | SATORI | Rob Laufer | 7200万円 |
アニメ版第9作 | LUPIN THE IIIRD 峰不二子の嘘 | 2019年5月31日 | Innocent deceiver | TAKUMI iwasky | |||
アニメ版第10作 | THE FIRST | 2019年12月6日 | 山崎貴 | GIFT | 稲泉りん | 11.6億円 |