ロクソマ科 (ロクソマか、学名 :Loxsomataceae )は、ヘゴ目 に属する大葉シダ植物 の科の1つである。ロクスソマ科 とも表記される。
現生ではロクソマ属とロクソモプシス属の単型属 2属からなり、2種 のみを含む。また、白亜紀からの化石属 Loxsomopteris も記載されている。
タイプ属 である Loxsoma は、1837年にアラン・カニンガム の著書中で Loxoma として記載された。翌年、ウィリアム・ジャクソン・フッカー により(明言されていないもののおそらくロバート・ブラウン の手稿に基づいて) Loxs oma の誤記であったとして訂正された。正書法における誤字・脱字の訂正とみなされる場合には国際藻類・菌類・植物命名規約 (ICN) 第60.1条に基づいて訂正することができるとされる。なお、Loxsoma は古代ギリシア語 の λοξός (loxos 「斜め」)と σώμα (-sōma 「体」)の合成語である。そのため、Loxsoma ではなく Loxosoma が正書法上の正しい綴りに当たり、フッカーによる訂正は規約において認められた修正ではないと考えられる。しかしこの綴りは正しいと考えられて多くの著者に引用されてきたため、Alfarhan et al. (2009) により、学名の安定化のために Loxsoma を保存名 とすることが提案された。
ICN の第18.1条に基づき、科の学名は属格 単数形 の屈折語尾 を語尾 -aceae に置き換えて形成されるため、Loxsomaceae ではなく Loxsomata ceae と綴られる[ 注釈 1] 。この著者であるプレスル は Loxsomaceae という綴りを用いたが、これは第16.3条のもと著者の変更なしに語尾が訂正される。
ロクソマ・クンニングハミイの
葉 の
背軸面 は白っぽい。
木生シダ を擁するヘゴ目 に属するが、木生ではない。根茎 は匍匐する。ロクソマ属の根茎に比べ、ロクソモプシス属の方が長い。中心柱 は両篩管状中心柱 である。皮層 内層には厚壁細胞 に柔細胞 群が交じる。茎や葉柄 には鱗片 を持たない。毛 は基部が多細胞の円錐体で、先端に向かってだんだん細くなり、先端では1細胞列となる。
葉 は3回羽状複葉 (ロクソマ属)または3回羽状深裂 (ロクソモプシス属)で、前者は長さ 1 m(メートル ) 程度であるが、後者は 4 m に達する。
胞子嚢群 は葉縁 に付着する。コップ状包膜 を持ち、成熟すると胞子嚢が突出する。形状はコバノイシカグマ科 やコケシノブ科 に似ている。ロクソマ属では胞子嚢 に不完全環帯を持ち、縦裂開するのに対し、ロクソモプシス属では完全環帯を持ち横裂開を行う。
ロクソマ・クンニングハミイの生育環境。
現生の2属や化石種はいずれも分布域が大きく異なる。
ロクソマ属はニュージーランド 北島 の固有属 である。低地や低山の明るい林縁や伐採跡地に生息している。
ロクソモプシス属は中央アメリカ および南アメリカ (ボリビア からコスタリカ )に分布する。標高 1,600–2,900 m の雲霧林 に生息し、周囲の木にもたれかかっている。
現生種は Hassler (2024) に基づく。かつてロクソモプシス属には3–4種が含まれるとされたが、現在は1種にまとめられ、いずれも Loxsomopsis pearcei のシノニムであるとされる。化石種は西田 & 西田 (1982) に基づく。
ロクソマ科 Loxsomataceae C.Presl (1847 )
白亜紀 から化石記録(Loxsomopteris )が知られる。この属は1976年にスコーグ (スペイン語版 ) によりアメリカ合衆国 メリーランド州 の下部白亜系 (バレミアン またはアプチアン )から得られた根茎の化石 Loxsomopteris anasilla に基づいて記載されたものである。
日本では、北海道 夕張市 の上部白亜系 (コニアシアン –サントニアン )から Loxsomopteris loxsomoides が産出している。これは1930年に小倉謙 により Solenostelopteris loxsomoides として記載されたものである。
1947年 のコープランド の分類でも既に独立した科として認識され、その後もほとんどの分類体系において、独立した科に位置付けられてきた。かつては原始的で孤立した科であると考えられていたが、分子系統解析によりキジノオシダ科 に近縁であることが明らかとなった。
Christenhusz & Chase (2014) では、ヘゴ科 にまとめられ、そのうちの1亜科 Loxsomatoideae Christenh. (2014 ) とされた。しかし、海老原 (2016) や PPG I (2016) ではこれは支持されず、ヘゴ目の1科としての分類が踏襲されている。
分子系統解析では、ロクソマ科は何れの系統仮説においてもヘゴ目に属することが示されている。その中でも、ティルソプテリス科、クルキタ科、キジノオシダ科とともに単系統群をなし、クルキタ科とキジノオシダ科を合わせた単系統群の姉妹群となる。
^ ギリシア語第3格変化中性名詞である σώμα (-sōma ) の属格単数形は σώμᾰτος (sōmatos ) であり、Loxsomat- に -aceae が付される。
^ 現記載は誤記に基づく Loxoma として行われたが、後に Loxsoma であるとして訂正された(#学名 節を参照)。
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