生活保護の不正受給(せいかつほごのふせいじゅきゅう)は、生活保護制度の保護費を正しくないやり方で受給することである。
2010年時点における不正受給は、件数ベースで見ると2万5355件で、全体に占める率は1.8%であり、金額ベースで見ると不正受給額は128億7425万円で、全体に占める率は0.38%であった[1]。
同年の内訳としては、「賃金の無申告」が不正の中で約45%を占め最も多く、次いで「年金の無申告」が約25%、「収入を少なく申告したケース」が約10%であった[2]。
所得税の源泉徴収による申告をしない雇用主の下での現金払いによる就労や、友人の名義を借りた不正就労による賃金の受給、日払いの給与支払い、ネットオークション、フリマアプリ、中古リサイクル店への売却金、別れた配偶者からの養育費、慰謝料の受け取り、仕送りの受け取り、質屋からの借入金、世帯主ではない18歳未満の受給者(主に高等学校在学生)のアルバイト収入、生命保険解約返戻金、事故・犯罪被害による賠償金、慰謝料、犯罪被害者給付金、児童扶養手当、公営競技による払戻金、宝くじ・サッカーくじの当選金、株取引、先物取引、外国為替証拠金取引、貸金業者から受け取った過払い金、フードバンク・子ども食堂から貰った食品、折詰弁当、生活必需品(日用品、衣類、寝具など)は本来、生活保護法の規定によって、全て「収入」として福祉事務所に申告するべきものである[3][4][5]。
通常はその収入分を減額した金額で保護費が支給される[6]。もっとも、申告した収入が正当な労働による収入である場合の必要経費や、事故・犯罪被害の賠償金、慰謝料、給付金を治療費、通院費、自立更生に当てるなど、生活費に用いる資産ではないことが明らかな場合は、その分を収入認定から控除することができる。ただし、その判断は福祉事務所で行うため、あらゆる収入は申告しなければならない。
昭和50年代後半には、全国の被保護者数が150万人に達した。それまでたびたび問題視されてきた暴力団組員による不正受給が発覚した。厚生省社会局は1981年11月17日付けで「生活保護法123号通知」を出した[7]。その後、保護規準の適正化が進んだ[8]。1983年には第二次臨時行政調査会答申を受け、厚生省は、保護を求める世帯の資産や収入を厳しくチェックするよう福祉事務所への指導を強化した[9]。以後10年間で約4割が減った。しかし「適正化」の名のもとに「締め付け」が強化された面もあるとの指摘もある[9]。また、実際には暴力団を辞めていないのに、福祉事務所に虚偽の脱会届を出した上で不正受給を行なったとして、逮捕された例がある[10]。
2010年頃から全国の福祉事務所の一部の窓口に警察官OBや刑務官OBを採用し、暴力団関係者による不正受給や虚偽申請の防止や告発に取り組んでいるが[11][12]、暴力団関係者や不正申請者以外の正当な申請者に対しても威圧的であったり、申請書を渡さずに追い返すなどの事例があるとして、2012年に日本弁護士連合会が「警察官OBの福祉事務所配置要請の撤回を求める意見書」を厚生労働省に提出している[11][13]。
大阪府河内長野市の調査では、市職員が生活保護費を着服していたとみられる問題で、2009年から2011年に渡り、2億6000万円の被害があったとされている[14]。
東京都北区では、生活福祉課相談係の通称「住所不定チーム」に所属して住所不定者を取り扱う40代と、60代職員が、調査時点で各8600万円、1,300万円の生活保護費を、死亡者が生きているように装いまたは転出の事実を隠して不正に支出し、横領していた[15]。
2007年、北海道滝川市で生活保護費不正受給事件が発生。暴力団組員による2億円の生活保護費詐取事件であった。不正受給していた元暴力団員の夫婦のみならず、介護タクシー会社の役員が、不正受給に関与していたとして逮捕されている[16]。
生活保護受給の要件を満たしているにもかかわらず、自治体の窓口に申請に行くと、他の自治体(日雇い労働者の保護が整備されているとされる大阪市が多い。いわゆる「大阪への片道切符」)に行くことを勧められる事例が、在阪局を中心とした報道で明らかになっている[25]。
2009年度〜2013年度までの間に5080件(約20億5000万円)の不正受給があったことが判明している。うち2013年度は1188件(約3億9500万円)であり、最も多かったのは収入の無申告(526件)であった[40]。2014年には長田区の韓国籍男性が多額の生活保護費を不正に受給していたと報道され、神戸地検により詐欺罪として起訴されている[41]。
2000年、香川県高松市では受給件数が45件にすぎないのに、1億7,200万円の不正支給額があったことが会計検査院の調べで判明した[9]。一つの事業主体で不正受給額が1億5,000万円を超えたのは初めてのことであった。年金や就労収入の未申告などによる。また、暴力団が絡むことも多く、同市では暴力団幹部ら3人が生活保護費をだまし取ろうと、高松市役所に虚偽の住民異動届を提出する事件が起こった。高松北署は、この3人を詐欺の疑いで逮捕したが、この事件は警察側から行政に確認し発覚したもので、香川県県警本部は「全国的にみてもまだ行政側から告発することは少ない」と指摘した[9]。高松市保護課長も「警察と連携し、暴力団だと確認されれば支給しない、というシステムづくりも考えなければならない」「不正受給は詐欺罪。毅然とした態度で臨まなければならない」とのコメントをしている。また、担当職員が半分脅迫されるような形で保護認定したケースもあるという[9]。同年、高松市は生活保護事務庁内検討委員会を設置し、対策にのりだした。
東京都三鷹市において生活保護を受けていた女性が、神奈川県川崎市や相模原市など複数の自治体からも、住所不定を装う形で三重に多額の不正受給を行っていたことが、一部メディアの報道により発覚した[43]。
会計検査院の平成22年度決算監査報告は、「収入を得ていた世帯員本人に申告義務を十分に周知していなかったこと」「被保護世帯において、収入申告をしていなかったことについて反省し、収入が未申告であったことが判明した後の調査に協力的であること」などを理由として不正受給の意図はなかったとして、生活保護法第78条(不正受給)を適用することについて十分検討することなく、法第63条(急迫の場合等において資力があるにもかかわらず保護を受けたときの返還)を適用して勤労控除を認定することは、適切とは認められないとして福祉事務所での不正受給の判定及び返還金等の額の算定が適切に行われていないことを指摘した[44]。
また、遡及して受給した年金収入に係る返還対象額から不適切に自立更生費等を控除しているものも指摘している。事業主体である福祉事務所に対して、法第63条又は法第78条を適用する場合の考え方を明確に示し、収入申告がなされていない事態について検討を十分行った上で、法第78条を厳格に適用するよう徹底を図ること(会計検査院法第36条による改善の処置を要求するもの)としている。平成20年度〜22年度にかけて県7、市105、特別区5、計117事業主体を調査したのみで3億6041万余円の不適切な算定処理があった[44]。本来法第78条の不正受給規定を適用すべき事例もそのように取り扱っていない場合が存在し、上記会計監査院調査報告によると少なくとも平成20〜22年度においては、従来公表されている不正受給の件数、金額より本来の実態は大きかった。
これまで、近隣住民からの通報があっても受給者の人権・プライバシー保護や民事不介入を理由に刑事告訴にまで発展するケースはほとんどなく、警察及び検察も立件に消極的だったことが各地方自治体から指摘され[45]、厚生労働省が2011年8月16日に開いた「生活保護制度に関する国と地方の協議」事務会合でも、地方自治体から、司法対応について「現行規定でも不正受給事案を事件化するかどうか、警察当局内で温度差が激しい」「刑事告発に関する統一的基準を示してほしい」という意見が出た。これを受けて、同省は全国統一の告発基準について警察庁との協議を検討するとした[45]。
また、2010年7月に大阪府警は貧困ビジネス業者などの摘発強化に取り組む「不正受給事犯対策本部」を設置し、計52件187人を摘発したと発表[注 1]。被害総額は約3億5,000万円で、摘発件数の約5割に暴力団関係者が関与しており、受給金は暴力団の資金源になっていたことが明らかになった[46]。
不正受給が発覚した場合に保護が打ち切りにならない場合には、保護を受けつつその費用の中から返還していくが、最低水準とされる保護費からの返済となるため受給者の同意が前提で役所との交渉によって月々の支払額が決まり、完済までに受給者が90歳を超える例があるなど、全額回収は事実上不可能な事例も存在する。また、過去の不正受給などが理由で廃止になったとしても、再申請が阻まれることはない[47]。不正受給が発覚すると他自治体に転居などする事例や「返還に応じないだけで刑事罰を科すのは不可能」なため「逃げ得」のことも多い[48]。
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