『神道集』(しんとうしゅう)は、日本の中世の説話集・神道書。
安居院唱導教団の著作とされ、南北朝時代中期に成立したとされている。全10巻で50話を収録。
関東など東国の神社の縁起を中心としつつ、本地垂迹説に基づいた(当著に、「神々は仏の救いによって神となることができた」とする)神仏に関する説話が載っている。「諏訪縁起事」は甲賀三郎伝説を伝えるものとして知られる。
江戸時代の考証学者小山田(高田)与清(1783年 - 1847年)が、本文の内部微証から文和・延文(1352年 - 1361年)頃と推定している。
「安居院」(あぐい)は比叡山竹林坊(竹林院)の里坊で、上京区大宮通一条北大路にあって、応仁の乱で途絶えたが後に再興し、現在は浄土真宗本願寺派の安居院西法寺となっている。この安居院に唱導に優れた澄憲・聖覚親子が住み、その唱導は子々孫々受け継がれていった。そしていつしか彼らの唱導を安居院流というようになったらしい。『神道集』は「安居院作」とある以上、この安居院流の人達の手になったと思われるが、それを裏付ける確かな史料は現在のところまでない。安居院は日光・鹿嶋にもあって、これらとの関連も考慮しなければならない。
全10巻50章。全国の神社縁起を集める。多くは東国に関するものとなっている。内容は、筑土鈴寛が、「神道論的なもの」と「垂迹縁起的なもの」とに分類したのが現在でも踏襲されている。「神道論的なもの」は神道教義について論じたものである。「垂迹縁起的なもの」は、公式的縁起と物語的縁起に分類され、前者は神社の由来や本地物を記すのに対し、後者は神々の苦しみや悲しみを基調として神々や神社の由来を説く。典型的な例が「熊野権現事」(二ノ六)の五衰殿である。かつて和辻哲郎は、この五衰殿から「苦しむ神」「悩める神」の観念を見出したように、中世文学史・思想史などを考える上で非常に重要な内容となっている。
『神道集』が何を目的として成立したのか、不明である。ただ近世浄土宗の説教僧が『神道集』を活用していたことから考えて、説教資料を目的として成立したのではないかと考えられる。
『神道集』は、現存・不明を含めて、二十本近い写本がある。それらは古本系統と流布本系統に分かれる。古本系統は、赤木文庫本(現天理図書館蔵)、真福寺本、天理図書館本など。流布本系統は東洋文庫本、旧豊宮崎文庫本・旧林崎文庫本(現神宮文庫蔵)、静嘉堂文庫本、無窮会本、河野省三旧蔵仮名本(現國學院大學蔵)など。最近確認されたものでは、天海旧蔵本(現盛岡市願教寺蔵)、国立歴史民俗博物館本(田中穣旧蔵)、同志社大学本がある。他に茨城県常福寺、東京大学にもあったようである。また慶応三年豊後国東郡田染の八幡宮に、多くの神道関係の書籍が奉納されたが、その内に神道集があったそうである[1]。