逆使役態(ぎゃくしえきたい、英語: anticausative、antic)、もしくは反使役とは、使役的な意味をもった他動詞が非他動詞化の標示を受け、動作主が表現されない態。バントゥー研究の伝統では「状態化接尾辞」と呼ばれてきた。このたぐいの構文は、スワヒリ語などのバントゥー語群に見られる。[1]また、アイヌ語にも見られる[2]。
受動態の接尾辞と区別されるため別の態であるとされる。[1]
imevunjika
i-me-vunj-ika
3SG-PERF-壊す-ANTIC
「それは壊れている」
imepotoka
i-me-poto-ka
3SG-PERF-ねじる-ANTIC
「それはねじれている」
[1]
アイヌ語には、si-とyay-という二つの再帰的な接辞があり、前者が逆使役態に対応し、後者が再帰態に対応する[3][4][2]。
sipusu.
∅=si-pusu
3SG/3PL.SUBJ=ANTIC-起こす
「彼が自ずから浮かび上がる」
mintar ka ta aynu kurmam ci-si-pusu-re
土間 上 LOC 人 影 1PL.EXCL.SUBJ=ANTIC-起こす-CAUS
「土間の上に人間の影が現れた」 [5]
yaypusu.
∅=yay-pusu
3SG/3PL.SUBJ=REFL-起こす
「彼が自分の力で(泳いで)浮かび出る」
hekaci pet or un raw-kus-te ayne ∅=yay-pusu
男の子 川 所 ALL 水中-通る-CAUS やがて 3SG.SUBJ=REFL-起こす
「男の子が川の中へくぐってやがて浮び出た(「自分の力で泳いで浮び出る」の意味)」[6]
リンゼイ・J・ウェイリー(2006)言語類型論入門―言語の普遍性と多様性,岩波書店(原書であるan Introduction to Typologyは1996年)
- ^ a b c ウェイリー(2006: 190)
- ^ a b アンナ・ブガエワ(著)、早稲田大学高等研究所(編)「北海道南部のアイヌ語」『早稲田大学高等研究所紀要』第6巻、2014年3月、33–76頁。
- ^ 佐藤知己 (2007), アイヌ語千歳方言の再帰接頭辞yay-とsi-について, 室蘭認知科学研究会
- ^ 小林美紀 (2010), “アイヌ語の動詞接頭辞 si- と yay- の項同定機能”, 千葉大学人文社会科学研究
- ^ 平賀さだも (2015), “ウエペケㇾ「ウラユシウンクㇽ」(ウラユシの人)”, 第2年次調査研究報告書2/3 (文化庁 アイヌ語の保存・継承に必要なアーカイブ化に関する調査研究事業)
- ^ 金田一京助 (1960), アイヌ語学講義, 三省堂