ADAR PDBに登録されている構造 PDB オルソログ検索: RCSB PDBe PDBj PDBのIDコード一覧 1QBJ , 1QGP , 1XMK , 2ACJ , 2GXB , 2L54 , 2MDR , 3F21 , 3F22 , 3F23 , 3IRQ , 3IRR
識別子 記号 ADAR , ADAR1, ADAR2, ADAR3, ADARB1, ADARB2, ADAR1p150, ADAR1p110, IFI-4, DSH, P136, adenosine deaminase RNA specific, DRADA, IFI4, AGS6, G1P1, K88DSRBP, DSRAD外部ID OMIM: 146920 MGI: 1889575 HomoloGene: 9281 GeneCards: ADAR オルソログ 種 ヒト マウス Entrez Ensembl UniProt RefSeq (mRNA) RefSeq (タンパク質) 場所 (UCSC) Chr 1: 154.58 – 154.63 Mb Chr 1: 89.62 – 89.66 Mb PubMed 検索[ 3] [ 4] ウィキデータ
ADAR (adenosine deaminase RNA specific、adenosine deaminase acting on RNA)またはADAR1 は、ヒトではADAR 遺伝子 にコードされている酵素 である。二本鎖RNA特異的アデノシンデアミナーゼ(double-stranded RNA-specific adenosine deaminase)とも呼ばれる[ 5] [ 6] 。
ADARは二本鎖RNA (dsRNA)に結合し、アデノシン (A)の脱アミノ化 によるイノシン (I)へ変換を担う酵素である[ 7] 。ADARはRNA結合タンパク質 であり、mRNA 転写産物の転写後修飾 過程においてRNA編集 によってヌクレオチド 構成を変化させる機能を持つ[ 6] 。AからIへの変換は正常なA:U 対合を破壊し、RNAを不安定化する。イノシンは構造的にグアノシン (G)に類似しているため、IはC と結合する。翻訳 時には、イノシンは典型的にはグアノシンを模倣する[ 8] 。RNA編集によるコドン の変化はタンパク質 のコーディング配列や機能の変化を引き起こす可能性がある[ 9] 。編集部位の大部分は非翻訳領域 (UTR)、Alu要素 、LINE などRNAのノンコーディング領域に存在する[ 10] 。ADAR 遺伝子の変異は遺伝性対側性色素異常症 (英語版 ) やエカルディ・グティエール症候群 と関係している[ 11] 。また、選択的スプライシング によるアイソフォーム が同定されている[ 6] 。ADARはRNA編集とは関係ない方法でも、おそらくは他のRNA結合タンパク質に干渉することによって、トランスクリプトーム に影響を与える[ 12] 。
ADARとその遺伝子は、Brenda BassとHarold Weintraubによる研究の結果、1987年に偶然発見された[ 13] 。研究者らはアンチセンスRNA による阻害効果を利用して、アフリカツメガエル Xenopus laevis の胚 で重要な役割を果たしている遺伝子を決定する実験を行っていた。アフリカツメガエルの卵母細胞 を用いた研究には成功しており、同じプロトコルを胚へ適用したものの胚発生 に関する遺伝子を決定することができなかった。この手法がうまくいかなかった理由を理解するため、卵母細胞と胚の二本鎖RNA(dsRNA)の比較を行った。その結果、発生過程で調節されている何らかの活性によって、胚ではRNA:RNAハイブリッドの変性が起きていることが発見された。
1988年Richard Wagnerらは、胚で生じている活性についてさらなる研究を行った[ 14] 。彼らはプロテイナーゼ 処理後にRNAの巻き戻し活性がみられなくなることから、タンパク質 がその活性を担っていることを明らかにした。また、このタンパク質はdsRNAに対する特異性があり、ATP を必要としないことも示された。さらに、このタンパク質の活性は完全な再ハイブリダイゼーション が起こらないようdsRNAを修飾するが、完全な変性を引き起こすわけではないことが明らかとなった。最終的に、このRNAの巻き戻しはアデノシンからイノシンへの脱アミノ化によって引き起こされていることが決定された。この修飾によってイノシンとウリジンというミスマッチ塩基対が形成され、dsRNAの不安定化と巻き戻しが引き起こされていた。
ADARのRNAに対する作用は、RNA編集の最も一般的な形式の1つであり、選択的活性と非選択的活性の双方が存在する[ 15] 。細胞はイノシンをグアノシンとして解釈するため、ADARは遺伝子産物のアウトプットの修飾と調節を行うことができる。近年、ADARが編集活性もしくはRNA結合機能によってスプライシング の調節因子として機能することも発見された[ 16] [ 17] 。ADARは後生動物 の初期段階で、全ての真核生物 に存在する重要なタンパク質ADAT(tRNA に作用するアデノシンデアミナーゼ)から遺伝子重複 とdsRNA結合ドメインの付加によって進化したと考えられている。ADARファミリーの遺伝子はその全歴史を通じて大部分が保存されている。このことやADARが現代の門 の大部分に存在することからは、ADARが後生動物で必須の調節遺伝子であることを示している。ADARは後生動物以外の植物 、菌類 、襟鞭毛虫 などでは発見されていない[ 18] 。
哺乳類では、ADARファミリーには1から3の3つのタイプが存在する[ 19] 。ADAR1とADAR2 (英語版 ) は体中の多くの組織に存在しているが、ADAR3 (英語版 ) は脳にのみ存在する[ 9] 。ADAR1とADAR2は触媒活性を有することが知られているが、ADAR3は不活性であると考えられている[ 9] 。ADAR1にはADAR1p150とADAR1p110という2つのアイソフォームが存在する。ADAR1p110は通常核 にのみ存在し、ADARp150は核と細胞質 を往来し、大部分は細胞質に存在する[ 19] 。ADAR1とADAR2は多くの共通のドメインを持ち、発現パターン、タンパク質構造、二本鎖RNAという基質要求性も共通であるが、その編集活性には差異が存在する[ 20] 。
ADARは加水分解的脱アミノ化によるAからIへの変換反応を触媒する[ 7] 。求核攻撃には活性化された水分子が利用される。アデノシンのC6位に水分子が付加され、水和中間体からアンモニア が脱離することでイノシンが形成される。
ヒトでは、酵素の活性部位はN末端の2つから3つのdsRNA結合ドメイン(dsRBD)とC末端の触媒デアミナーゼドメインから構成される[ 19] 。dsRBDは保存されたα-β-β-β-α型配置からなる[ 9] 。ADAR1には、Zα、Zβと呼ばれるZ-DNA 結合領域が存在する。ADAR2とADAR3はアルギニン に富む一本鎖RNA結合ドメインを持つ。ADAR2の結晶構造は解かれている[ 19] 。酵素の活性部位にはグルタミン酸 残基(E396)が存在し、水分子と水素結合 している。また、ヒスチジン (H394)と2つのシステイン (C451、C516)が亜鉛 イオンを配位している。亜鉛は、求核的な加水分解による脱アミノ化反応のために水分子を活性化する。触媒コア内にはイノシトール6リン酸 が存在し、アルギニンとリジン 残基を安定化している。
哺乳類では、AからIへの変換にはADAR1とADAR2のホモ二量体化が必要であるが、ADAR3は二量体化しない[ 9] 。RNAの結合に二量体化が必要であるか、in vivo での研究による確定的な結果は得られていない。dsRNAには結合しないADAR1と2の変異体も二量体化を行うことから、二量体化はタンパク質間相互作用に基づいている可能性が示されている[ 9] [ 21] 。
ADARの機能の研究にはモデル生物 が利用されている。ハイスループットな変異導入によって疾患のモデルマウスを作出し科学者に配布するプロジェクトである国際ノックアウトマウスコンソーシアム (英語版 ) プログラム[ 22] [ 23] [ 24] の一環として、Adartm1a(EUCOMM)Wtsi と呼ばれるコンディショナルノックアウトマウス 系統が作出されている[ 25] 。オスとメスのマウスは標準的な表現型スクリーニングが行われ、欠失の影響が決定された[ 26] [ 27] [ 28] 。変異体マウスに対し25の検査が行われ、2つの大きな異常が観察された。妊娠中にホモ接合型 変異体胚は少数しか同定されず、離乳期まで生存したものはなかった。残りの検査はヘテロ接合型 の成体マウスに対して行われ、これらの動物では異常は観察されなかった[ 26] 。
エカルディ・グティエール症候群と両側性線条体壊死/ジストニア[ 編集 ]
ADAR1は、変異がエカルディ・グティエール症候群に寄与する複数の遺伝子の1つである[ 11] 。この遺伝性炎症疾患は、主に皮膚と脳に影響を与える。炎症は、ウイルスを撃退する目的で活性化されるインターフェロン 誘導性遺伝子が不適切に活性化されることによって引き起こされる。ADAR1の変異や機能喪失はdsRNAの不安定化を防ぎ、その結果、体はこれをウイルスRNAと誤認識し自己免疫応答が引き起こされる[ 29] 。Adar ノックアウトマウスの表現型は、Zαドメインを含むp150型のADAR1によってレスキューされる。ZαドメインはZ-DNAとZ-RNAの左巻き二本鎖構造に特異的に結合するが、p110アイソフォームにはこのドメインは存在しない[ 30] 。ヒトでは、ZαドメインのP193A変異はエカルディ・グティエール症候群の原因であり[ 11] 、両側性線条体 壊死/ジストニア でみられる重篤な表現型の原因でもある[ 31] 。これらの知見によって、左巻きZ-DNA構造の生物学的役割が確立されている[ 32] 。
ADAR1は細胞のHIV 感染を撃退する能力に対し、有益とも障壁ともなりうることが研究からは示されている。ADAR1タンパク質の発現レベルはHIV感染時に上昇することが示されており、HIVゲノムのAをGへ変異させて複製を阻害することが示唆されている[ 33] 。この研究の著者らは、ADAR1によるHIVゲノムの変異は一部の場合では、ウイルスに有益な、薬剤耐性に寄与する変異をもたらす可能性もあることも示唆している。
肝細胞がん 患者由来の試料の研究からは、この疾患ではADAR1は高頻度でアップレギュレーションされており、ADAR2は高頻度でダウンレギュレーションされていることが示されている。肝細胞がんで見られるAからIへの編集のパターンの破壊はこれが原因であり、この状況ではADAR1はがん遺伝子 、ADAR2はがん抑制遺伝子 として機能していると示唆されている[ 34] 。ADARの発現の不均衡はタンパク質コード領域でのAからIへの変換の頻度を変化させ、疾患を進行させる変異タンパク質が生じている可能性がある。ADAR1とADAR2の調節異常は予後の悪さの指標として利用できる可能性がある。
肝細胞がんとは対照的に、ADAR1の喪失がメラノーマ の成長と転移 に寄与していることをがいくつかの研究から示唆されている。ADARはmiRNA に作用し、その生合成、安定性、その結合標的に影響を与えることが知られている[ 35] 。ADAR1はCREB によってダウンレギュレーションされ、miRNAへの作用が限定されていることが示唆されている[ 36] 。そうした例の1つが、ADAR1によって編集されるmiR-455-5pである。ADARがCREBによってダウンレギュレーションされると、未編集のmiR-455-5pはCPEB1 (英語版 ) と呼ばれるがん抑制タンパク質をダウンレギュレーションし、メラノーマの進行に寄与することがin vivo モデルで示されている[ 36] 。
ADAR1のG1007R変異や、他の切り詰められた型のADAR1は遺伝性対側性色素異常症の一部の原因として示唆されている[ 37] 。この疾患は手足の過度の色素沈着で特徴づけられ、日本と中国の家族で生じている。
ADAR1は、病原体やウイルスに応答するインターフェロン誘導性タンパク質であり、細胞の免疫経路を補助するのは理にかなっている。HCV レプリコン、リンパ球性脈絡髄膜炎 ウイルス(LCMV)、ポリオーマウイルス に対して当てはまるようである[ 38] 。
ADAR1は他の状況ではウイルスを活性化することが知られている。ADAR1によるAからIへの編集は、麻疹ウイルス [ 39] [ 40] 、インフルエンザウイルス [ 41] 、LCMV[ 42] 、ポリオーマウイルス[ 43] 、D型肝炎ウイルス [ 44] 、HCV[ 45] を含む多くのウイルスで見つかっている。これらのうち広く研究が行われているのはわずかであり、その1つが麻疹ウイルスである。麻疹ウイルスを用いて行われた研究では、ADAR1はウイルスの複製を向上させることが示されている。これは、RNA編集と、dsRNAによって活性化されるPKR の阻害という2つの異なる機構によって行われている[ 38] 。具体的にはウイルスは、dsRNA依存性経路と抗ウイルス経路を選択的に抑制する正の複製因子としてADAR1を利用していると考えられている[ 46] 。
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