EIF2S1(eukaryotic translation initiation factor 2 subunit 1)またはeIF2α(eukaryotic translation initiation factor 2 subunit alpha)は、ヒトではEIF2S1遺伝子にコードされるタンパク質である[5][6]。
EIF2S1は翻訳開始因子eIF2複合体のαサブユニットである。eIF2は、α(36 kDa)、β(38 kDa)、γ(52 kDa)という3つの異なるサブユニットから構成される。eIF2は翻訳開始における初期の調節段階を触媒し、リボソーム40Sサブユニットへの開始tRNA(Met-tRNAiMet)の結合を促進する。この結合は、Met-tRNAiMet、eIF2、GTPからなる三者複合体として行われる。三者複合体の形成速度はeIF2αのリン酸化状態によって調節されている[6]。eIF2キナーゼによるeIF2αのリン酸化は、統合的ストレス応答の調節に重要な役割を果たしており[7]、また小胞体ストレス時に細胞保護効果をもたらす[8][9]。
脳の虚血再灌流後の神経細胞では、eIF2αのリン酸化によるタンパク質合成の阻害が生じる。このとき、リン酸化eIF2とアポトーシス時にミトコンドリアから放出されるシトクロムcとの共局在がみられる。リン酸化eIF2はシトクロムcの放出よりも先に出現するため、eIF2のリン酸化がアポトーシス時のシトクロムcの放出を開始していることが示唆される[10]。
eIF2αにヘテロ接合型S51A変異を有するマウスは、高脂肪飼料による飼養時に肥満や糖尿病を発症する。耐糖能異常の原因は、β細胞におけるインスリン分泌の低下、プロインスリン輸送の欠陥、インスリン顆粒数の減少である。このように、食餌性の2型糖尿病の防止にはeIF2αの適切な機能が必要不可欠なようである[11]。
サルブリナルは、eIF2αを脱リン酸化する酵素の選択的阻害剤である[12]。サルブリナルは、単純ヘルペスウイルスタンパク質によるeIF2αの脱リン酸化も遮断し、ウイルスの複製を阻害する。