KCNA1(potassium voltage-gated channel subfamily A member 1)もしくはKv1.1は、ヒトではKCNA1遺伝子にコードされるShaker型電位依存性カリウムチャネルである[5][6][7]。アイザックス症候群は、Kv1.1イオンチャネルに対する自己免疫反応によって引き起こされる[8]。
KCNA1遺伝子は12番染色体短腕(12p13.32)に位置する。この遺伝子の長さは8,348塩基対で、495アミノ酸(予測分子量56,466)からなるタンパク質をコードする。
Kv1.1カリウムチャネルの各サブユニットは6つの膜貫通領域(S1からS6)を持ち、S5とS6の間のループがチャネルの透過孔を形成すると考えられている。この領域には保存された選択性フィルターモチーフも含まれている。機能的なチャネルはホモ四量体である。タンパク質のN末端はβサブユニットと結合している。βサブユニットはチャネルの不活性化や細胞膜への発現を調節している。C末端は、チャネルの標的化に関与するPDZドメイン含有タンパク質と結合している[9][10]。
Kv1.1チャネルはカリウム選択性チャネルとして機能し、電気化学的勾配に従ってカリウムイオンが透過する。これらのチャネルは膜の再分極化に関与している[9]。
このタンパク質のpre-mRNAはアデニン(A)からイノシン(I)へのRNA編集を受ける[11]。
編集を受ける部位は、タンパク質の400番残基に相当する部位である。この残基は6番目の膜貫通領域、透過孔のinner vestibuleと呼ばれる領域に位置している。RNA編集は、pre-mRNAのこの部分でのステムループ構造の形成によって媒介される。この部位(I/V部位)を選択的に編集する酵素はADAR2である可能性が高い。編集によってコドンはATTからGTTに変化し、コードされるアミノ酸はイソロイシン(I)からバリン(V)に変化する。mFOLDプログラムによって編集に最低限必要な領域が予測されており、不完全な逆向き反復配列がヘアピン構造を形成すると考えられている。この領域は114塩基対から構成される。同様の領域は、マウスやラットでも同定されている。編集を受けるアデノシンは6塩基対の二本鎖領域内に位置する。この6塩基対二本鎖領域近傍の変異実験により、編集が行われるために必要不可欠な塩基が同定されている。この領域は、エクソン配列のみによって形成されるヘアピン構造であるという点で他のものとは異なっている。AからIへの編集が起こるために必要な相補的配列(editing complementary sequence、ECS)は、イントロンに位置しているものが大部分である[11]。
編集はイカ、ショウジョウバエ、マウス、ラットで観察されており、高度に保存されている[11]。
編集頻度は組織によって異なり、尾状核では17%、脊髄では68%、延髄では77%である[12]。
編集によって、編集部位のアミノ酸はイソロイシンからバリンに変化する。この部位はチャネルの高度に保存されたイオン透過孔に位置しており、チャネルの速い不活性化過程に影響を及ぼしている可能性がある[13]。
電位依存性カリウムチャネルは、電位に応答してカリウム選択性透過孔を開閉することで興奮性を調節する。カリウムイオンの流れは、不活性化を担う領域との相互作用によって妨げられる。ヒトのKv1.1チャネルではこうした相互作用は補助タンパク質によって担われているが、他の種ではチャネル内の部分によって行われている。IからVへの変化は不活性化領域と透過孔の内壁との相互作用を妨げると考えられている。その結果、速い不活性化過程が妨げられる。活性化の速度論はRNA編集の影響を受けない[11]。不活性化の速度論的変化は、活動電位の持続と頻度に影響を与える。編集を受けたチャネルは不活性化領域がイオン透過孔と相互作用できないため、未編集型と比較してより多くの電流を流し、活動電位は低くなる。このことは電気生理学的解析によって明らかにされている[14]。膜の脱分極の持続時間は減少し、神経伝達物質の放出効率も低下する[12]。編集はチャネルを構成する四量体のいずれにも生じうるため、チャネルの不活性化には広い範囲の影響が生じる場合がある。
速い不活性化過程の変化は、行動的・神経学的影響を及ぼすことが知られている[11]。