Miracast(ミラキャスト)とはWi-Fi Allianceによって策定された、1対1の無線通信によるディスプレイ伝送技術である[1]。ストリーミング技術を用いてホストの画像、音声、動画を、無線でペアリングされた別のデバイスに送ることができる。現在の技術仕様ではマルチキャストはできない。
通常は専用のケーブルで接続するディスプレイ表示を無線(ワイヤレス)化することができる。HDMIが実現している機能を無線化しているため、ワイヤレスHDMIと呼ばれることもあるが、共通部分も多いもののHDMIとの直接の関係はない。現在の仕様は、ホストの表示レンダリングデータをWi-Fiと同じ電波帯域を使ってストリーミングで送信し、表示させるデバイス側のWi-Fiで受信する技術を使っている。この技術はWi-Fi Direct(英語版)と呼ばれ、ホストからの電波が届く範囲にあるデバイスとの 1対1通信 (Peer to Peer) で接続する[2][3][4][5][6] ので、ルーターや認証を必要としない(一般的なSSIDを使うWi-Fiネットワークでは接続できない。ただしパスワードやPINを使うなどのセキュリティを考慮した仕様もある)。実装例としては、ディスプレイ機器側に搭載したWi-Fi用アンテナで受信する方式のほかに、別の外部アンテナで受信したデータをディスプレイの HDMI 入力に送信する方式があり、後者が一般的になっている。
伝送プロトコルは RTP、伝送制御プロトコルはRTSP、映像はH.264、音声はLPCM / AAC / AC3、多重化はMPEG2-TS、著作権保護技術としてHDCP 2.0/2.1が使用される。レンダーによる圧縮は送信側で行うため、無線の伝送経路で不可逆な劣化が生じる。
Wi-Fiに相当するWirelessHD、WiGigは、60GHz帯を使った次世代の無線通信規格(IEEE 802.11adなど)であり直接の競合ではない。
この技術に競合している Apple のAirPlayのミラーリングに対抗するオープンな技術と銘打たれた。一般的なアプリケーションは以下のようなものがある。
- ホストとなるデバイスから、別のディスプレイデバイスにホストの画面をミラーリング表示する。
- 会議室の映像をカメラで撮影し、別のノードのプロジェクターに映し出す。
- 会議室内でメンバーのノートパソコンの画面をお互いに共有する。
- 家庭内のメディアプレイヤーの動画を、タブレット端末で視聴する。
- PCの画面を HDMI のある表示機器でマルチディスプレイ化する(仕様のため1台まで)。
ハードウェアではクアルコムや NVIDIA 、テキサス・インスツルメンツといったスマートフォン、タブレット向け SoCベンダーが対応を表明している。
オペレーティング・システム (OS) 側の対応も進んでいる。
2012年10月29日、GoogleはAndroid 4.2にてMiracastに標準対応することを発表した[7]。
2012年12月4日現在、Nexus 4、Sony Xperia T、Sony Xperia Vなどが公式にサポートしている[8][9]。ELUGA X P-02E などAndroid 4.1以前にも対応端末があり、また、Android 4.2以降でも非対応端末がある。しかし今後のAndroidではAPIを利用してアプリ開発が簡略化できるため、対応端末が増えると予想されている。
2013年10月18日リリースされたWindows 8.1以降にてMiracast対応をうたっている。インテルはそれまで同様の規格であるWiDiを開発していたが、Version 3.5からMiracast準拠となり、ブロードコム、マーベル、MediaTek、Ralink、Realtekも対応製品を提供し、Miracast対応を認証された最初のコンシューマ向け製品は Nexus 4、LG Optimus G、Samsung Galaxy S III、Samsung Echo-Pシリーズテレビなど[10]。
2017年6月、Miracast仕様に準拠していたインテルのWiDiも、完全にMiracastに移行して自社開発やサポートサービスを終了した。
- パソコン
- Windows搭載機(マイクロソフト Windows 8.1以降の対応機)
- Windows 8.1で拡張された 新しいディスプレイドライバ規格である Windows Display Driver Model (WDDM) 1.3でMiracast規格への対応がサポートされている。これはOSでのOptional(任意)対応となっており、実際に販売されるPCが必ずしも対応機種とはかぎらない。
- スマートフォン
- Android搭載機(主にVersion 4.2以降の対応機)
- タブレット
- ゲーム機
- テレビ (Miracast機能対応機)
- ワイヤレスディスプレイアダプター
- Miracast機能未対応のテレビ受像機の HDMI 端子にケーブルで接続 / 直接取り付けるタイプ。給電をUSBで受けるものが多い。
- ASUS 90XB01F0-BEX060
- アイ・オー・データ機器 WFD-HDMI
- ネットギア PTV3000
- パナソニック EB-L70181
- プリンストン Miracastデジ像 PTW-MA[11]
- マイクロソフト 「Wireless Display Adapter」
- 初代(型番:CG4-00009) - 2.4GHz帯のみ対応
- 第2世代(型番:P3Q-00009)- 2.4 GHz/5GHz帯対応
- 第3世代 4K対応(型番:UTH-00036)- 2.4 GHz/5GHz帯対応
業界アナリストは、2012年から今後4年以内にMiracast認定デバイスの年間出荷台数は1億台を超えると予測している[12]。
- ^ Wi-Fi CERTIFIED Miracast
- ^ http://www.engadget.com/2012/07/26/nvidia-throws-support-behind-miracast/
- ^ http://gigaom.com/mobile/with-miracast-nvidias-tegra-3-enables-wireless-displays/
- ^ http://www.forbes.com/sites/greatspeculations/2012/06/15/windows-rt-compatibility-miracast-certification-to-enhance-tis-connectivity-solutions/
- ^ http://arstechnica.com/information-technology/2012/07/airplay-for-all-miracast-promises-video-streaming-without-the-router/
- ^ http://www.theverge.com/2012/10/29/3569244/android-4-2-new-features-miracast-gesture-keyboard-multiple-users-photo-sphere/in/3335719
- ^ Android 4.2 adds officeal support for Miracast wireless display
- ^ http://phandroid.com/2012/11/19/psa-nexus-7-and-nexus-10-do-not-support-miracast-wireless-display/
- ^ http://www.xperiablog.net/2012/12/03/wi-fi-miracast-screen-mirroring-demoed-on-the-xperia-t-video/
- ^ Parrish, Kevin (19 September 2012). “Wi-Fi Alliance Announces First Miracast-Certified Devices”. Tom's Hardware. http://www.tomshardware.com/news/Wi-Fi-Direct-Miracast-Wi-Fi-Alliance-WiDi-HDMI,17746.html
- ^ ドコモとauのMiracast搭載シャープ製スマホとタブレットで映像の転送不可能(デジ像の機能設定アプリだけは正常に使用可能)な不具合がある。
- ^ Wi-Fi Alliance press release|September 19, 2012