NGC 3603の中には、若く大質量の星団があることがわかっており、その中心で一際明るい光源は、ヘンリー・ドレイパーカタログにおいてHD 97950として収録されていたが、ユニオン天文台での観測により、1928年にはHD 97950の位置には6つの恒星があると報告され、それぞれAからFまでの記号が付与された[9]。その後、スペックル観測によって、更に中心の明るいAB星が分解され、まずA1、A2、A3、Bの4つの恒星の存在を確認、続いてもう2つの恒星が発見された[10][11][12]。現在では、宇宙望遠鏡や補償光学を用いることで、直接撮像によって分離できる[2]。
NGC 3603-A1系の2つの恒星は、いずれもウォルフ・ライエ星で、そのスペクトル型はWN6hとなっている[6]。WNというスペクトル型は、スペクトルの中で電離窒素の輝線が目立つウォルフ・ライエ星であることを示し、WN6はヘリウムや窒素の輝線の強度が中間的なもの、また、添え字の"h"はスペクトルに水素の輝線がみえていることを表す[15]。この種のウォルフ・ライエ星は、ヘリウム燃焼層がむき出しになっている進化した恒星、というウォルフ・ライエ星の古典的な描像とは異なり、進化がまだ進んでいない高温の恒星が、非常に高い光度ゆえに高密度で高速な恒星風を生じ、それによってみかけ上ウォルフ・ライエ星とそっくりになった天体と予想される[5]。NGC 3603-A1の場合、質量における水素の比率は、まだ60%から70%はあると予想される[6]。
NGC 3603-A1は非常に若く、誕生から150万年程度しか経過していないとみられるが、既に初期質量からかなりの質量を失っている。初期質量は、A1aが太陽の148倍、A1bが太陽の106倍あったと予想されるが、現在はそれが120倍と92倍になっているので、既に太陽の28倍、14倍の質量をそれぞれ失った計算になる[6]。
^ abcdeMoffat, A. F. J.; et al. (2004-12), “Hubble Space TelescopeNICMOS Variability Study of Massive Stars in the Young Dense Galactic Starburst NGC 3603”, Astronomical Journal128 (6): 2854-2861, Bibcode: 2004AJ....128.2854M, doi:10.1086/425878
^van den Bos, W. H. (1928-09), “Another nebulous multiple star”, Bulletin of the Astronomical Institutes of the Netherlands4: 261-262, Bibcode: 1928BAN.....4..261V
^Hofmann, K.-H.; Weigelt, G. (1986-10), “Speckle masking observation of the central object in the giant H II region NGC 3603”, Astronomy & Astrophysics167: L15-L16, Bibcode: 1986A&A...167L..15H
^Moffat, A. F. J.; Seggewiss, W.; Shara, M. M. (1985-08-01), “Probing the luminous stellar cores of the giant H II regions 30 Dor in the LMC and NGC 3603 in the Galaxy”, Astrophysical Journal295: 109-133, Bibcode: 1985ApJ...295..109M, doi:10.1086/163356
^Smith, Lindsey F.; Shara, Michael M.; Moffat, Anthony F. J. (1996-07), “A three-dimensional classification for WN stars”, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society281 (1): 163-191, Bibcode: 1996MNRAS.281..163S, doi:10.1093/mnras/281.1.163