IDT R4700 の底面。設計はQED、販売はIDT
QED RM5230 の底面
QED RM7000 の底面
Quantum Effect Devices (QED ) は、半導体 集積回路 の設計製造を行うアメリカ合衆国 の企業。2000年に買収され、消滅した。
QEDは1991年、Quantum Effect Designとして設立された。創設者はMIPSコンピュータ のマネージャーだったTom Riordan、Earl Killian、Ray Kunitaである。当時、MIPS社はコンピュータシステム (MIPS Magnum) の販売で苦戦していた。彼らはMIPSの本来の目的であるマイクロプロセッサ の設計に集中するために新たにQEDを設立したのであった。その後間もなく MIPSはSGI に買収された。QEDはマイクロプロセッサの設計を請け負う業務を開始した。主な出資者であるIDT は、QED初の設計を発注した顧客でもあった。
当初のQEDの製品計画は、ノート型コンピュータ向けにMIPSアーキテクチャ のマイクロプロセッサを設計することであった。当時、マイクロソフト が Windows NT でいくつかのRISC アーキテクチャをサポートしていた。RISCベースのパーソナルコンピュータ (PC) が主流になると考えたいくつかのベンチャー企業がシステムやボードを開発していた。結局、それは市場を形成できなかったが、R4600 ("Orion") が完成し、ルーター やアーケードゲーム 機で使われた。その後、東芝 とIDT 向けにR4700、IDTとNKK 向けにR4650、SGIと日本電気 向けにR5000を設計した。
モトローラ 向けにPowerPC アーキテクチャの603Qを設計したが、これはApple のホームPCとゲーム機 向けであった。しかし、それらの製品は市場に出ることなく開発が中止されたため、603Qは量産されることなく消えていった。
数年後、売り上げ拡大を図るため、自社製MIPSマイクロプロセッサの販売に踏み切った。このとき、社名をQuantum Effect Devicesに変更した。RM5200、RM7000などの製品が成功すると、同社は2000年 2月1日 に株式公開 を果たした。そして同年10月、PMC-Sierra に買収され、PMCのマイクロプロセッサ部門となった。買収は株式交換で行われ、売値は23億ドルであった。PMC配下でRM9x00シリーズを完成させたが、これは市場には受け入れられなかった。QEDからPMCに移ってきていた開発チームの人員は、2005年 6月までにほとんどが解雇され、一部残っていた人員も2006年 1月までに全て解雇された。
社名はTom Riordanが考案した。これは、量子効果が集積回路に影響するようになる時代まで同社が存続することを信じて付けられたものである。
R4600
R4000 に基づいた設計。QED創設者はR4000の開発にも関わっており、もっと単純な実装をすれば価格性能比が向上すると考えていた。そのため R4600ではパイプラインを5段に戻し、キャッシュメモリ を大容量化した。この方針は成功し、当時としては高性能を誇るマイクロプロセッサとなった。当初はラップトップ型コンピュータへの搭載を意図していたが、そのような市場は形成されなかった。シスコシステムズ はルーターにこれを採用した(RISCとしては初)。アタリ などがモータルコンバット などのアーケードゲームに使用した。R4600の製造・販売はIDTと東芝が行った。
R4700
SGI向けに浮動小数点演算 性能を強化した設計。浮動小数点数の乗算を反復できる回数を増やした(乗算にかかるサイクル数を短縮した)。SGIのIndyというローエンドのワークステーション で使われた。R4700の製造・販売もIDTと東芝が行った。
R4650
NKKが安価なゲーム機用として発注した。R4650はキャッシュを半分にし、浮動小数点演算を単精度 のみにしてダイサイズを小さくした。QEDとしては初めて積和演算 命令を実装し、ソフトモデム を実装可能となっている。マイクロソフト はこれをWebTV 機器に使用した。R4650の製造・販売はIDTとNKKが行った。R4640も基本的には同じだが、バス幅が64ビット から32ビット に縮小されている。
R5000
SGIの依頼を受けて設計された。キャッシュを増やして、命令もデータも32KBとしている。浮動小数点演算機能が強化されている。限定されたスーパースケーラ であり、整数演算と浮動小数点演算を同じサイクルで並行して実行可能である。SGI O2で使われた。設計の権利はSGIが保有し、IDTと日本電気 が製造・販売した(後に東芝も製造した)。
603Q
モトローラの依頼を受け、アップルの低価格ホームコンピュータとビデオゲーム機Pippen で使う予定であった。603QはR4600の内部設計にPowerPC の命令セットを実装したものである。アップルのプロジェクトが中止されると、モトローラも603Qの開発中止を決定したが、既にQEDは実働する最初のチップを完成させていた(実際に製造したのはモトローラ)。
RM52XX
QEDが自社で販売した最初の製品シリーズ。R5000のキャッシュを小さくしてピン配置を変更した低価格な製品として登場した。初期のRM52X0のキャッシュは16KBだったが、RM52X1になると32KBになっている。RM523Xはバスが32ビットで、RM526Xは64ビットである。レーザープリンター に良く使われた(ヒューレット・パッカード 、レックスマーク 、リコー 、サムスングループ )。
RM70XX
256KBの二次キャッシュを内蔵。組み込み市場向けマイクロプロセッサとしては初めて二次キャッシュを内蔵した。整数実行ユニットを2つ持ち、スーパースケーラを実現している。RM7061はRM526Xとピン互換だった。RM52XXの後継として売れた。
RM9x00
QEDによるSOC 実装。7段のパイプラインを持ち高い動作周波数が実現できる Apolloマイクロプロセッサコアが使われている。分岐時のレイテンシを改善するため、動的分岐予測 機能を追加している。RM9x00はApolloコアを2個搭載したマルチコア 実装となっていた。動作周波数は1GHz を達成している。DDRメモリコントローラ 、バスコントローラ、DMA コントローラ、HyperTransport コントローラなどの周辺回路を集積している。第二世代ではギガビット・イーサネット コントローラ、PCI コントローラも備え、キャッシュコヒーレンシ にも対応している。しかし、市場に出るのが遅れたためにあまり売れなかった。開発が遅延したため同社は財政的苦境に陥り、PMC-Sierraへの身売りをすることになった。完成したころには既にSibyteなどの競合他社が同様の製品を出荷済みだった。