1985年~2012年のVIX指数
2004年~2020年7月のVIX指数
VIX指数 (英 : VIX Index )またはCBOEボラティリティ指数 (英 : CBOE Volatility Index )とは、シカゴ・オプション取引所 (CBOE)が、S&P 500 を対象とするオプション取引 の満期30日のインプライド・ボラティリティ を元に算出し、1993年 より公表しているボラティリティ指数 。
VIX指数は今後30日間のS&P 500の予想変動範囲を表現していて、予想変動範囲(%) =
VIX
/
12
{\displaystyle {\mbox{VIX}}/{\sqrt {12}}}
である[ 1] 。例えばVIX指数が18の場合は予想変動範囲が5.2%である[ 1] 。ただし現実にはS&P 500が下落する場合はVIXは上昇する傾向があり、VIXとS&P 500のパフォーマンスは負の相関関係 にある[ 1] 。その統計的傾向から俗に恐怖指数 (きょうふしすう、英 : fear index )とも呼ばれる。
2003年 よりCBOEはゴールドマンサックス と共同して開発したより精度の高い計算方法でのVIX指数を公表するようになっている。
1993年当初のVIX指数はS&P 100 に基づくものであったが、2003年 9月22日 よりS&P 500 に基づく物に変更し、計算方法も修正し、元々のVIX指数をCBOE S&P 100ボラティリティ指数 (VXO指数 )に改名した[ 2] 。2003年9月22日より前のVIX指数はVXO指数の事を指している場合がある。
理論的にはVIX指数は満期までのS&P 500のボラティリティ の平均値の期待値として解釈される。満期を
T
{\displaystyle T}
としたVIX指数は以下の式で算出される[ 3] 。
V
I
X
T
=
100
×
σ
,
{\displaystyle VIX_{T}=100\times \sigma ,}
σ
2
=
2
T
∑
i
e
R
T
Q
(
K
i
)
K
i
2
Δ
K
i
−
1
T
[
F
−
K
0
K
0
]
2
{\displaystyle \sigma ^{2}={\frac {2}{T}}\sum _{i}e^{RT}{\frac {Q(K_{i})}{K_{i}^{2}}}\Delta K_{i}-{\frac {1}{T}}\left[{\frac {F-K_{0}}{K_{0}}}\right]^{2}}
ここで
R
{\displaystyle R}
は金利であり、
F
{\displaystyle F}
は満期を
T
{\displaystyle T}
とするオプションのインデックス価格に対して望ましいレベルの先渡価格 のインデックスである。
K
i
{\displaystyle K_{i}}
はオプションの行使価格の水準を表しており、行使価格の小さい方から昇順で番号付けられていて、
K
0
{\displaystyle K_{0}}
が
F
{\displaystyle F}
を下回る最も大きな行使価格の値となるようになっている。
Δ
K
i
{\displaystyle \Delta K_{i}}
は
K
i
+
1
{\displaystyle K_{i+1}}
と
K
i
−
1
{\displaystyle K_{i-1}}
の差分の2分の1
(
K
i
+
1
−
K
i
−
1
)
/
2
{\displaystyle (K_{i+1}-K_{i-1})/2}
である。
Q
(
K
i
)
{\displaystyle Q(K_{i})}
は行使価格
K
i
{\displaystyle K_{i}}
、満期
T
{\displaystyle T}
のオプション価格のビットアスクスプレッドの中点となる。ただし、
K
i
<
K
0
{\displaystyle K_{i}<K_{0}}
ならばプットオプション、
K
i
>
K
0
{\displaystyle K_{i}>K_{0}}
ならばコールオプションの価格が用いられている。
第2項は補正としての意味合いが強く、VIX指数の理論的なバックグラウンドを理解する上で重要なのは第1項の総和である。そこで第2項は無視して、第1項について考えてみる。第1項は積分を離散化したもので、あらゆる水準の行使価格でのオプションが市場で取引可能であるとすれば、次の積分形式での表示が可能である。
σ
2
=
2
T
(
∫
0
F
e
R
T
P
(
K
,
T
)
K
2
d
K
+
∫
F
∞
e
R
T
C
(
K
,
T
)
K
2
d
K
)
{\displaystyle \sigma ^{2}={\frac {2}{T}}\left(\int _{0}^{F}e^{RT}{\frac {P(K,T)}{K^{2}}}dK+\int _{F}^{\infty }e^{RT}{\frac {C(K,T)}{K^{2}}}dK\right)}
ここで
C
(
K
,
T
)
,
P
(
K
,
T
)
{\displaystyle C(K,T),P(K,T)}
はそれぞれ満期
T
{\displaystyle T}
、行使価格
K
{\displaystyle K}
のコールオプションとプットオプションの価格を指す。この時、リスク中立確率測度 による期待値 を
E
∗
{\displaystyle E^{*}}
で表すと、リスク中立確率測度の定義から
C
(
K
,
T
)
=
E
∗
[
e
−
R
T
max
{
S
(
T
)
−
K
,
0
}
]
,
P
(
K
,
T
)
=
E
∗
[
e
−
R
T
max
{
K
−
S
(
T
)
,
0
}
]
{\displaystyle C(K,T)=E^{*}[e^{-RT}\max\{S(T)-K,0\}],\quad P(K,T)=E^{*}[e^{-RT}\max\{K-S(T),0\}]}
となる。ここで
S
(
T
)
{\displaystyle S(T)}
は満期
T
{\displaystyle T}
におけるオプションの原資産の価格である。よって
σ
2
=
2
T
E
∗
[
∫
0
F
max
{
K
−
S
(
T
)
,
0
}
K
2
d
K
+
∫
F
∞
max
{
S
(
T
)
−
K
,
0
}
K
2
d
K
]
{\displaystyle \sigma ^{2}={\frac {2}{T}}E^{*}\left[\int _{0}^{F}{\frac {\max\{K-S(T),0\}}{K^{2}}}dK+\int _{F}^{\infty }{\frac {\max\{S(T)-K,0\}}{K^{2}}}dK\right]}
と表されることが分かる。ここでCarr-Madan の展開公式[ 4] から次の式変形が可能である。
∫
0
F
max
{
K
−
S
(
T
)
,
0
}
K
2
d
K
+
∫
F
∞
max
{
S
(
T
)
−
K
,
0
}
K
2
d
K
=
−
log
S
(
T
)
+
log
F
+
S
(
T
)
−
F
F
{\displaystyle \int _{0}^{F}{\frac {\max\{K-S(T),0\}}{K^{2}}}dK+\int _{F}^{\infty }{\frac {\max\{S(T)-K,0\}}{K^{2}}}dK=-\log S(T)+\log F+{\frac {S(T)-F}{F}}}
したがって
σ
2
=
2
T
(
−
E
∗
[
log
S
(
T
)
]
+
log
F
+
E
∗
[
S
(
T
)
]
−
F
F
)
{\displaystyle \sigma ^{2}={\frac {2}{T}}\left(-E^{*}[\log S(T)]+\log F+{\frac {E^{*}[S(T)]-F}{F}}\right)}
となる。現時点を
0
{\displaystyle 0}
時点とすると先渡価格の無裁定価格 は
F
=
E
∗
[
S
(
T
)
]
=
e
R
T
S
(
0
)
{\displaystyle F=E^{*}[S(T)]=e^{RT}S(0)}
なので次が得られる。
σ
2
=
2
T
(
R
T
−
E
∗
[
log
S
(
T
)
−
log
S
(
0
)
]
)
{\displaystyle \sigma ^{2}={\frac {2}{T}}{\Big (}RT-E^{*}[\log S(T)-\log S(0)]{\Big )}}
ここで原資産価格
S
{\displaystyle S}
のリスク中立確率測度下での価格変動がボラティリティ が変動する幾何ブラウン運動 に従うとする。つまり
S
(
T
)
=
S
(
0
)
+
∫
0
T
R
S
(
t
)
d
t
+
∫
0
T
v
(
t
)
S
(
t
)
d
W
∗
(
t
)
{\displaystyle S(T)=S(0)+\int _{0}^{T}RS(t)dt+\int _{0}^{T}v(t)S(t)dW^{*}(t)}
であるとする。ただし
W
∗
{\displaystyle W^{*}}
はリスク中立確率測度下でのブラウン運動 で、
v
{\displaystyle v}
は時間によって変動するボラティリティである。この時、伊藤の公式 から
log
S
(
T
)
=
log
S
(
0
)
+
∫
0
T
(
R
−
v
2
(
t
)
2
)
d
t
+
∫
0
T
v
(
t
)
d
W
∗
(
t
)
=
log
S
(
0
)
+
R
T
−
1
2
∫
0
T
v
2
(
t
)
d
t
+
∫
0
T
v
(
t
)
d
W
∗
(
t
)
{\displaystyle \log S(T)=\log S(0)+\int _{0}^{T}\left(R-{\frac {v^{2}(t)}{2}}\right)dt+\int _{0}^{T}v(t)dW^{*}(t)=\log S(0)+RT-{\frac {1}{2}}\int _{0}^{T}v^{2}(t)dt+\int _{0}^{T}v(t)dW^{*}(t)}
となる。これを
σ
2
{\displaystyle \sigma ^{2}}
に代入し、整理すれば
σ
2
=
E
∗
[
1
T
∫
0
T
v
2
(
t
)
d
t
]
−
2
T
E
∗
[
∫
0
T
v
(
t
)
d
W
∗
(
t
)
]
{\displaystyle \sigma ^{2}=E^{*}\left[{\frac {1}{T}}\int _{0}^{T}v^{2}(t)dt\right]-{\frac {2}{T}}E^{*}\left[\int _{0}^{T}v(t)dW^{*}(t)\right]}
が得られる。第2項は確率積分の期待値なので
v
{\displaystyle v}
に妥当な仮定を課せばその値は0である。つまり次の結果が得られる。
σ
2
=
E
∗
[
1
T
∫
0
T
v
2
(
t
)
d
t
]
{\displaystyle \sigma ^{2}=E^{*}\left[{\frac {1}{T}}\int _{0}^{T}v^{2}(t)dt\right]}
よって
V
I
X
T
=
100
×
E
∗
[
1
T
∫
0
T
v
2
(
t
)
d
t
]
{\displaystyle VIX_{T}=100\times {\sqrt {E^{*}\left[{\frac {1}{T}}\int _{0}^{T}v^{2}(t)dt\right]}}}
となる。したがってVIX指数は満期までの平均ボラティリティにリスク中立確率測度で期待値を取ったものを基準化した指数である。CBOEが発表しているVIX指数はS&P 500を原資産としたオプション価格と先渡価格から計算されるので、VIX指数はS&P 500のボラティリティに対するものとなる。またCBOEが発表しているVIX指数の満期は30日である[ 3] 。
VIX指数を原資産とした金融派生商品 であるVIX先物(VX)[ 5] やVIXオプションも取引されている。VIX指数のボラティリティ指数(ボラティリティのボラティリティ)であるVVIX指数[ 6] もCBOEは公表している。
日本国内の証券取引所 においては、VIX先物指数に連動するETF やETN が上場していたが、2024年 現在は全て上場廃止 となっている。
VIX先物取引については、楽天証券 、GMOクリック証券 、IG証券 が、CFD取引 の銘柄 という形で取り扱っている。いずれの証券会社においても、買建て、売建て両方とも可能であるが、市場の変動状況によっては新規の売建てが制限される場合がある。
バリアンススワップとバリアンスリスクプレミアム[ 編集 ]
将来の株価の対数収益率の分散に対する先渡契約 をバリアンススワップ (英 : variance swap ) と言う[ 7] 。またバリアンススワップにおける先渡価格をバリアンススワップレートと言い、S&P 500に対する満期が30日のバリアンススワップレートはその値が理論上はVIXと同じであるため、近似値としてVIXが使用されることがある[ 8] 。
また実現した株価の対数収益率の分散の平均値(実現ボラティリティ)よりVIXの方が高くなることが統計的に確かめられている[ 9] 。このVIXと実現ボラティリティの差をバリアンスリスクプレミアム (英 : variance risk premium ) と呼ぶ。
左がVIXとその後1か月の変動の標準偏差の比較で、右が過去1か月と未来1か月の変動の標準偏差の比較。rは相関係数 。結果に大差がないことが分かる。データは1990年1月~2009年9月。
VIX指数はインプライド・ボラティリティ を用いているが、インプライド・ボラティリティがオプションを利用した複雑な計算をしているにもかかわらず、過去の値動きから単純に標準偏差 を計算しただけのヒストリカル・ボラティリティと結果が大差無いという批判がある[ 10] [ 11] [ 12] 。
2017年5月23日に、VIX指数の計算に使われるS&P 500のオプションは取引の少ない物が含まれていて、それを使用することでVIX指数を操作することが可能であるうえ、その対象となっているS&P 500のオプションだけ不自然に取引が多いという論文[ 13] が発表された。更に、2018年2月12日に実際にVIX指数を不正操作している人がいるという匿名の告発が証券取引委員会 になされた[ 14] [ 15] 。
^ a b c VIX CBOEボラティリティ指数 - S&P Dow Jones indexology
^ Cboe S&P 100 Volatility Index - VXO
^ a b CBOE VIX White Paper
^ Carr, Peter, and Dilip Madan. "Towards a theory of volatility trading." Option Pricing, Interest Rates and Risk Management, Handbooks in Mathematical Finance (2001): 458-476.
^ VX-Cboe Volatility Index (VIX) Futures
^ The Cboe VVIX sup SM sup Index
^ バリアンススワップ :きょうのキーワード :資産力UP :マネー :日本経済新聞
^ Bollerslev, T., Gibson, M., and Zhou, H. (2011). "Dynamic estimation of volatility risk premia and investor risk aversion from option-implied and realized volatilities." Journal of econometrics , 160(1), 235-245.
^ Carr, P., and Wu, L. (2006). "A Tale of Two Indices." The Journal of Derivatives , 13(3), 13-29.
^ Cumby, R.; Figlewski, S.; Hasbrouck, J. (1993). “Forecasting Volatility and Correlations with EGARCH models”. Journal of Derivatives 1 (2): 51–63. doi :10.3905/jod.1993.407877 .
^ Jorion, P. (1995). “Predicting Volatility in Foreign Exchange Market”. Journal of Finance 50 (2): 507–528. doi :10.1111/j.1540-6261.1995.tb04793.x . JSTOR 2329417 .
^ Adhikari, B.; Hilliard, J. (2014). “The VIX, VXO and realised volatility: a test of lagged and contemporaneous relationships”. International Journal of Financial Markets and Derivatives 3 (3): 222–240. doi :10.1504/IJFMD.2014.059637 .
^ John M. Griffin; Amin Shams (May 23, 2017). Manipulation in the VIX? . SSRN 2972979 .
^ VIX指数に不正操作の疑い、米当局が調査開始 - ロイター
^ 高まるVIX指数への注目と不正操作疑惑|2018年|研究員の時事解説|ナレッジ&インサイト|NRI Financial Solutions
日本(現行)
日本(廃止・戦後) 日本(廃止・戦中) 日本(廃止・戦前) 南北アメリカ
ヨーロッパ アジア・オセアニア 中東・アフリカ 報道機関 関連法令・組織 関連項目 一覧
1 2013年7月16日付けの取引より、東証と大証の現物取引の市場統合により、東証によって運営
2 2010年10月12日に(旧)JASDAQ・JASDAQ NEO・大証ヘラクレスの3市場が(新)JASDAQに統合
3 現物取引の東証への市場統合前までは大証によって運営
4 2014年3月24日に、東証と大証の
デリバティブ 取引を統合し、それに特化した「大阪取引所」に転換したため「証券取引所」ではなくなった
5 2022年4月4日、東証の市場第一部・第二部・マザーズ・JASDAQが廃止され、プライム・スタンダード・グロースの3市場に再編された
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