渦扇-10(中国語: 涡扇-10、ウーシャン(wō shàn)-10、略称WS-10)は、中国が開発したターボファンエンジンである。コードネームは太行。2019年の時点で1,000台近く生産されている[1]。
WS-10のルーツはJ-9向けに開発が始められ、1980年代に放棄されたWS-6にある[2]。
WS-10の開発は1985年(正式には1987年)に瀋陽航空エンジン研究所(606研究所)と中国航空工業集団公司(AVIC)の合同で始められた。中核となるエンジンコアは1982年にアメリカより入手したCFM56-3をベースに開発した(CFM56は、B-1に搭載されたゼネラル・エレクトリック F101に基づくものである)。しかし、こうしてできたWS-10は性能が不足していることが判明したため、搭載しての運用は行われず、改良型の開発が行われることとなった。
1990年代後半からは、Su-27のAL-31Fエンジンを参考に開発を加速した[3]。改良型のWS-10Aは2001年に完成し、6月にJ-11の右エンジンを換装した機体(J-11W)が初飛行に成功した。空中試験ではそれまでの地上試験では見つからなかった問題が多く明らかとなった。特に、CFM56のものをベースとしたエンジンの推力制御装置は問題であったため、既に実績が有り、信頼性も高いAL-31Fの機械式制御装置がコピー搭載された[3]。
WS-10AはAL-31Fに匹敵する推力と7.5の推力重量比を有しており、7段の高圧圧縮機、空気噴射噴霧器及びエアフィルム冷却ブレードを有する短いアニュラー型燃焼機で構成されている。WS-10Aは中国で初めてニッケル系の単結晶タービンブレードを使用したエンジンであり、それにより高い推力と入り口温度を実現した。ノズルはコンバージェンス・ダイバージェンス・ノズルを採用しており、AL-31FPなどと似た非対称推力偏向ノズルも試験中であると報告されている[16]。なお、ノズル形状については確認されているだけでも4種類存在する[3]。
エンジン制御は機械式であったが、2002年からFADECの試験が開始され、より発展したバージョンが2012年の中国国際航空宇宙博覧会で明らかとなった[17]。その後FADECは、改良型WS-10に導入された模様である[3]。性能に関して中国メディアはエンジンブレードやタービンの改良、FADEC技術の導入により改良型WS-10は、AL-31F-M1に近い性能を備えているとしている[3]。
寿命に関しては当初WS-10Aは30時間ほどでしかなかったが[18]、AL-31F用に独自に開発した寿命延長技術(中国側はこの寿命延長技術によりロシア製AL-31Fエンジンの使用寿命を900時間から1,500時間まで延長することに成功したとしている)と類似の技術を採用し改善したことが報じられている[19]。この技術についてはウクライナの5719工場からの支援が取り沙汰されている[10]。
WS-10Aは、初期には生産ラインにおける品質管理手順での問題を抱えており、信頼性に問題があったが[20]、2009年には、WS-10Aを搭載したJ-11Bが部隊運用されている写真が見られる様になったことから、この頃には同エンジンの信頼性に関する問題が一定の解決を見たものと推測される。生産面でも、加熱部分の改良や生産技術面での厳格化により、性能は安定化してきており、信頼性と稼働率の面でAL-31Fを次第に追い上げていると報じられている[3]。それもあってか、2014年中に生産されたJ-11B/BSは全ての機体がWS-10Aを搭載しており[21]、配備が開始されたJ-16も同様にすべてがWS-10Aを搭載している。しかし、単発のJ-10や艦上戦闘機であるJ-15の遼寧での運用機にWS-10A系エンジンの搭載が見送られ続けられ、依然としてAL-31Fエンジンを搭載している点から、未だAL-31F系に比べると信頼性の面で遜色が有るとされていた[3]。
2020年以降は信頼性の改善により、単発のJ-10や艦上戦闘機のJ-15もWS-10派生型の搭載・換装が行われるようになったため、長い間ロシア製エンジンに依存していた中国空軍の主力戦闘機は、全て国産エンジンを搭載していることになった[22]。
WS-10のコアをベースに開発されている高バイパス型。推力は12トンで、搭載機としてはY-20輸送機とC919旅客機を想定している[30]。
一般的特性
構成要素
性能