Wee1 | |
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ヒトWEE1タンパク質の結晶構造 | |
識別子 | |
略号 | Mitosis inhibitor protein kinase Wee1 |
他の略号 | wee1 dual specificity protein kinase Wee1 |
Entrez | 2539123 |
UniProt | P07527 |
他のデータ | |
EC番号 (KEGG) | 2.7.11.1 |
Wee1は、分裂酵母Schizosaccharomyces pombeの核内にみられるプロテインキナーゼである。約96 kDaのタンパク質であり、細胞周期の進行を調節する重要な因子である。Wee1はCdk1(Cdc2)を阻害して有糸分裂の開始を阻害することで、細胞のサイズに影響を及ぼす。Wee1のホモログは、哺乳類を含む多くの生物種に存在する。
細胞のサイズの調節は、細胞の機能性を保証するうえで重要である。細胞のサイズは、栄養素、成長因子、機能的負荷といった環境因子以外に、cell size checkpointと呼ばれるチェックポイントによっても制御されている。
Wee1はこのチェックポイントの構成要素の1つである。Wee1は有糸分裂へ移行する時点を決定するキナーゼであり、娘細胞のサイズに影響を及ぼす。Wee1の機能が失われると、細胞分裂が早期に生じるため娘細胞のサイズは正常よりも小さくなる。
Wee1の名称は「小さい」を意味するスコットランド英語"wee"に由来し、発見者であるポール・ナースは発見時にスコットランドのエディンバラ大学に勤務していた[1][2]。
Wee1は、Cdk1の2つの部位、Tyr15とThr14をリン酸化することで阻害する[3]。Cdk1は、さまざまな細胞周期チェックポイントのサイクリン依存性経路に重要である。Wee1によるCdk1の阻害が重要となるチェックポイントは少なくとも3つ存在する。
Wee1キナーゼのエピジェネティックな機能も報告されている。Wee1はヒストンH2BのTyr37残基をリン酸化し、ヒストンの発現を全般的に調節していることが示されている[8][9]。
human WEE1 homolog (S. pombe) | |
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識別子 | |
略号 | WEE1 |
Entrez | 7465 |
HUGO | 12761 |
OMIM | 193525 |
RefSeq | NM_003390 |
UniProt | P30291 |
他のデータ | |
遺伝子座 | Chr. 11 p15.3-15.1 |
human WEE1 homolog 2 (S. pombe) | |
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識別子 | |
略号 | WEE2 |
Entrez | 494551 |
HUGO | 19684 |
RefSeq | NM_001105558 |
UniProt | P0C1S8 |
他のデータ | |
遺伝子座 | Chr. 7 q32-q32 |
ヒトには、WEE1(WEE1A)、WEE2(WEE1B)という2種類のWee1ホモログの存在が知られている。これらはCdk1のホモログであるCDK1に対して作用する。出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeのWee1ホモログはSwe1と呼ばれる。
Cdk1とサイクリンBは成熟促進因子(MPF)を構成し、有糸分裂への移行を促進する。MPFはWee1によるリン酸化によって不活性化され、ホスファターゼCdc25によって活性化される。Cdc25はPoloキナーゼによって活性化され、Chk1によって不活性化される[6]。分裂酵母におけるWee1の調節は主に、Cdr2やCdr1を含むPom1経路によるリン酸化の制御下に置かれている[10][11][12][13]。G2/M期の移行時には、Cdk1はCdc25によるTyr15の脱リン酸化によって活性化され、それと同時にWee1はNim1/Cdr1によるC末端触媒ドメインのリン酸化によって不活性化される[12]。また、活性型MPFはCdc25の活性化とWee1の不活性化によって自身の活性を促進するポジティブフィードバックループを形成するが、その詳細は解明されていない[6]。
高等真核生物においては、Wee1の不活性化はリン酸化と分解の双方によって行われる[14]。タンパク質複合体SCFβ-TrCP1/2はWee1Aのユビキチン化を担うE3ユビキチンリガーゼである。M期キナーゼPlk1とCdc2はWee1Aの2つのセリン残基をリン酸化し、このリン酸化がSCFβ-TrCP1/2によって認識される[15]。
出芽酵母では、サイクリン依存性キナーゼCdc28(Cdk1ホモログ)はSwe1(Wee1ホモログ)によってリン酸化され、Mih1(Cdc25ホモログ)によって脱リン酸化される。Hsl1(Nim1/Cdr1ホモログ)は関連キナーゼGin4、Kcc4とともにSwe1をbud neck(出芽のくびれ部分)へ局在させる。この部位と関連したキナーゼであるCla4とCdc5(Poloキナーゼホモログ)は細胞周期のさまざまな段階でSwe1をリン酸化する。Swe1はClb2-Cdc28によってもリン酸化され、このリン酸化はCdc5によるさらなるリン酸化のための認識シグナルとして機能する。Swe1は分解によっても調節されている。Swe1はClb2-Cdc28とCdc5によって高リン酸化状態となり、このことが高等真核生物と同様にSCFユビキチンリガーゼによるユビキチン化と分解のシグナルとなっている可能性がある[16]。
WEE1はDNA損傷によって誘発されるアポトーシスを阻害する。KLF2はヒトのWEE1の発現を負に調節しており、KLF2の発現はがん細胞のDNA損傷によるアポトーシス感受性を高める[17]。
Wee1は、有糸分裂に対し用量依存的な阻害因子として作用する[18]。そのため、Wee1タンパク質の量は細胞のサイズと相関する。分裂酵母のwee1変異体(wee1−)は、野生型細胞と比較して有意に小さなサイズの時点で分裂する。Wee1は有糸分裂の開始を阻害するため、Wee1が存在しない場合には正常よりも早期の小さなサイズの段階で分裂が引き起こされると考えられる。逆にWee1の発現が増大した場合には有糸分裂は遅延し、細胞はより大きなサイズへと成長する。