測地実験衛星 「あじさい(EGS)」 | |
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所属 |
宇宙開発事業団(NASDA) (現宇宙航空研究開発機構(JAXA)) 国土地理院 海上保安庁海洋情報部 |
主製造業者 | 川崎重工業 |
公式ページ | 測地実験衛星「あじさい(EGS)」 |
国際標識番号 | 1986-061A |
カタログ番号 | 16908 |
状態 | 運用中 |
目的 |
H-Iロケット試験機の性能確認 国内測地三角点の規正 離島位置の決定 日本測地原点の確立 |
打上げ機 | H-Iロケット 1号機 |
打上げ日時 |
1986年8月13日 5時45分(JST) |
軌道投入日 |
1986年8月13日 6時44分21秒(JST) |
物理的特長 | |
本体寸法 | 直径約2.15m |
質量 | 685.2kg |
姿勢制御方式 |
スピン安定方式 40.3rpm(初期実測値)[1] 28.5rpm(2010年時点)[1] |
軌道要素 | |
周回対象 | 地球 |
軌道 | 円軌道 |
高度 (h) | 約1500km |
軌道傾斜角 (i) | 50.0度 |
軌道周期 (P) | 約116分 |
ミッション機器 | |
太陽光反射系 | Al蒸着鏡面×318枚 |
レーザ反射系 | レーザ反射体×120組 |
あじさいは日本の測地実験衛星(Experimental Geodetic Satellite、略称:EGS)である。高精度測地ミッションの確立を目標とし、1986年8月13日にH-Iロケットにより打ち上げられた。光線を反射する鏡を持つのみの、コマンドの受信機能などは持たないという意味で完全にパッシブな宇宙機である。追跡と測地などに関するデータ及び後述するスピンレートなど宇宙科学・工学に関係するデータの継続などが業務であり、現在も軌道上にあるため運用中扱いとなっている。
あじさいはH-Iロケットの性能確認、国内測地三角網の規正、離島位置の決定(海洋測地網の整備)、日本測地原点の確立を目的とした測地衛星で、1986年8月13日にH-Iロケットで打ち上げられた。当初は測地実験機能部(EGP:Experimental Geodetic Payload)と呼ばれ、川崎重工が開発を担当した初めての人工衛星であった。衛星の表面は太陽光反射用の鏡面とレーザ反射体で覆われており、太陽光反射の写真撮影によって方向測定を行い、地上と衛星のレーザ光往復時間を求めることにより距離測定を行う。
本機は1986年8月13日午前5時45分(JST)にH-Iロケット試験機1号機により種子島宇宙センターから打ち上げられた。この打上げは日本の宇宙機打上げとしては初のピギーバック打上げで、本機の他、日本初のアマチュア衛星の「ふじ」[注 1]と、磁気軸受フライホイール実験装置を搭載した構体ペイロード(「じんだい」という称がある[注 2])が打ち上げられた。
南米上空においてスピンテーブルにより回転を与えられた後に、同日午前6時44分21秒に分離・軌道投入され、「あじさい」と命名された。投入された軌道は高度約1500km、軌道傾斜角約50度、周期約116分の円軌道であった。
あじさいの形状は直径約2.15mの球に内接する多面体で、スピン安定方式の衛星である。スピン軸は赤道と垂直でスピンレートは約40rpm、質量は685.2kgで、構体系、レーザ反射系および太陽光反射系の3つの系で構成されている。電源および電源を必要とする機器類、スラスタ類、等は一切搭載しておらず、スピンは分離前にスピンテーブルにより与えられたものを慣性(角運動量保存)によって保つのみである。
スピンレートの初期実測値は40.3rpmであった。地球磁場(地磁気)と導電性の衛星材料との相互作用によって衛星内にうず電流が生じ、その電流によって発生する磁場と地球磁場は互いに反発する向きとなるため、スピンレートは漸減する。本機は設計で、これを可能な限り防ぐために可能な限り低導電性の材料を用いるなどしており、推定ではスピンレートが半分になるまで約72年と推定していたが、不確定要素が大きいため正確な予測は困難であり、実際の減衰率は運用後の実測値から算出する必要があった。結果として1987年1月までで-0.6665rpm/年と予測の2倍程度大きく、これによるとスピンの半減期は約30年となった。
その後の観測からこの減衰について、スピンレートyは、打ち上げからの経過年数をxとすると、 という式が得られている。
構体系はガラス繊維強化プラスチック (GFRP) 球殻モノコック構造の構体、スピンテーブルと結合されるアタッチフィッティングリングとニューテーションダンパからなる。1500~3000kmの測距で数cmの精度が要求されるため、光学系部品を高精度に取り付けられること、また部品同士の接触を防ぐことができる高い剛性があり、さらに汚染防止のため低アウトガス性を持つことが要求された。また前述したようなスピンの減速を可能な限り避けるため、非磁性で低導電性の材料を多用することが要求され、耐熱性ガラスエポキシ積層材を用いた球殻モノコック構造が採用された。構体本体は直径2mで一体成形品、重量約360kgであった。
120組のレーザ反射体からなる。レーザ反射体は入射方向に入射光を反射させる再帰性反射性を示す。各組のレーザ反射体は石英ガラス製のキューブ・コーナ・リフレクタ12個から構成されている。ただし、各組のレーザ反射体の有効な入射角は±15°と小さいため、観測不能領域が存在しないようレーザ反射体の各組は衛星表面にまんべんなく配置されている。
318枚のアルミニウム蒸着鏡面からなる。鏡面の材料には非磁性、耐振動・衝撃性、紫外線・宇宙線に対する耐環境性、機械加工性などが要求され、アルミニウム合金やベリリウム、各種のガラスやセラミックスなどが検討された。最終的にアルミニウム合金6061-T651に純アルミを蒸着させ、さらにSiOで保護コーティングした物が採用された。鏡面の反射率は0.85以上、曲率半径は8.0~9.0mである。