ひとみ[1] (ASTRO-H) | |
---|---|
![]() | |
所属 | 宇宙航空研究開発機構(JAXA) |
主製造業者 | NECスペーステクノロジー |
公式ページ | ASTRO-Hホームページ |
国際標識番号 | 2016-012A |
カタログ番号 | 41337 |
状態 | 運用終了 |
目的 | 宇宙の大規模構造と、その進化の解明 |
観測対象 | 極限宇宙・銀河団 |
設計寿命 | 3年[2] |
打上げ機 | H-IIAロケット30号機[3] |
打上げ日時 | 2016年2月17日17時45分00秒[4] |
通信途絶日 | 2016年3月26日[5] |
運用終了日 | 2016年4月28日[5] |
物理的特長 | |
質量 | 約2.7トン[2] |
発生電力 | 3,500W[2] |
軌道要素 | |
周回対象 | 地球 |
軌道 | 円軌道[2] |
高度 (h) | 575 km[2] |
近点高度 (hp) | 574.4 km[6] |
遠点高度 (ha) | 576.5 km[6] |
軌道傾斜角 (i) | 31度[6] |
軌道周期 (P) | 96.2分[6] |
観測機器[2] | |
HXT | 硬X線望遠鏡 |
SXT-S,SXT-I | 軟X線望遠鏡 |
HXI | 硬X線撮像検出器 |
SXS | 軟X線分光検出器 |
SGD | 軟ガンマ線検出器 |
SXI | 軟X線撮像検出器 |
ひとみ[1] (第26号科学衛星 ASTRO-H) は、2016年2月17日に打上げられた日本のX線天文衛星[7]。宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 (JAXA/ISAS) が中心となり、日本国内の諸大学、アメリカ合衆国およびヨーロッパ諸国との国際協力によって計画が推進された[8]。
2016年3月26日に姿勢制御系の異常によって姿勢回転の速度が上がり続け、通信途絶・機体の分解・制御不能となったため、短期間で運用を終了した[5]。
すざくに続く日本で6番目のX線天文衛星として、New exploration X-ray Telescope (NeXT) の検討が進められてきたが、2008年7月に開催された文部科学省宇宙開発委員会において、26号科学衛星として計画が推進されることが正式に決定された。
国際協力ミッションであり、アメリカ航空宇宙局 (NASA) がNeXT-SXSをエクスプローラー計画 (SMEX) の協同ミッション (MOO) に採択したほか、欧州宇宙機関 (ESA)、オランダ宇宙研究機関 (SRON)、カナダ宇宙庁 (CSA) などのチームが競争的資金を獲得して参加していた。また、国内の28の大学や研究機関、海外の23の大学や研究機関のグループが参加しており、約180名の研究者がプロジェクトチームと連携していた[9]。 日本の負担総額は衛星打上げを含めて約310億円[10]。
2015年12月11日、宇宙航空研究開発機構と三菱重工業は、2016年2月12日に種子島宇宙センターからH-IIAロケット30号機(202型)で打ち上げることを発表[11]。2016年2月10日には、打上げ時刻を同年2月12日17時45分と発表したが[12]、規定以上の氷結層を含む雲の発生と強風が見込まれることから翌11日に打上げ延期を発表した[13]。その後、天候が回復した2月17日17時45分に打上げに成功し[4]、名称をひとみと決定したことを発表した[1][注釈 1]。
2016年2月29日、JAXAは、クリティカル運用期間[注釈 2]を終えたことを発表した[14]。この後、搭載機器の初期機能確認、較正観測を経て、運用が開始される予定[14]であったが、3月26日に姿勢制御系の不具合により通信を途絶、4月28日に復旧を断念した[5]。
名称の由来についてJAXAは、
という三つの理由を挙げている[1]。
総重量約2.7トン[2]、望遠鏡伸展後の全長14mと、ひとみ以前に計画された日本の天文衛星では最大規模となる[15]。打上げロケットはH-IIAロケットで、高度575km、傾斜角31度の円軌道を取った[2]。
従来より10倍以上優れたX線エネルギー計測精度を持つ革新的な軟X線超精密分光望遠鏡システム、広い視野を持つX線CCDカメラ、高精度イメージング能力により従来より10倍以上の高感度を持つ硬X線/ガンマ線検出器を搭載していた。また、すざくでは失敗したマイクロカロリメータによる観測を予定していた。複数の観測機器を組み合わせて観測することで最大ですざくの100倍の感度で天体を観測できる能力を持っていた[16]。
2月17日に打ち上げられたひとみは、同月29日にクリティカル運用期間を終え、3月は初期機能確認期間にあった。3月26日までには全観測機器の立ち上げを一通り完了しており、異常が発生した25日から26日にかけては、複数のX線天体による試験観測が行われていた[5]。
JAXA内之浦局 (USC) では、USCの可視時間の終了直前となる26日3時1分に、ひとみを活動銀河核に指向させるべくコマンドを送信。3時13分に可視時間を終了した。しかし、続いて5時49分のスペインJAXA GNマスパロマス局 (MSP) の可視時間に行われた通信において、姿勢の異常と発生電力の低下ならびに機体温度の変動を検知。最終的に16時40分のオーストラリアJAXA GNミンゲニュー局 (MGN) の可視時間において、通信途絶が判明した。後の推定では、ひとみはこの間の10時42分±11分頃に分解していたとみられる[5]。
通信途絶直後は原因が特定できず、復旧への期待ももたれた。しかし、すばる望遠鏡などによる観測で、大小合わせて11個の物体に分解していることが明らかになったこと、事故原因が推定されたことから、4月28日に復旧を断念したことが発表された[5]。
ひとみの破片のうち2つは、4月20日と4月24日に大気圏に突入しており、燃え尽きたと推定される[5]。
事故原因の推定シナリオの第一報は4月15日に公開された。このシナリオでは、ひとみは姿勢制御機能の異常により自ら回転を起こし、それが複数の事象と不具合の連鎖により、高速回転からの分解に至ったと推定されている。事象の詳細は次の通りである[5]。
以上の事象の結果、最終的にひとみは大きな角速度で回転しており、太陽電池パドル両翼とEOBが破断し分離、バッテリーは枯渇状態にあると推定。復旧は期待できないと判断された[5]。
最終的に分解に至った原因は、不適切なスラスタ制御パラメータであるが、この不具合やそれまでの一連の動作が発生した背景も含めた原因調査が行われた[5]。
直接的な再発防止策としては、以下の3点が提示されており、他の衛星への水平展開が行われた[5]。
さらに、本件はISASプロジェクトの運営に起因する部分も大きいことから、組織改革も図られる[5]。
JAXAはひとみの再製作を基本とし、対策を取り入れたひとみ後継機の打上げ目標を2020年としていたが[19]、その後数回延期され打ち上げは2023年度となった[20][21]。
ひとみの後継であるX線分光撮像衛星(XRISM)は2023年9月7日に打ち上げられた[21]。