アカキア・ドレパノロビウム [ 3] (学名 : Vachellia drepanolobium )とはマメ科 (クロンキスト体系ではネムノキ科 )の樹木の一種である。ケニア 、タンザニア などアフリカ に分布する(参照: #分布 )。
1908年 に Acacia drepanolobium として記載 されて以来この学名で知られていたが、近年一部の専門家によりアカシア属 のうちオーストラリア 産のもののみをアカシア属、それ以外のものを他属とする動きがあり[ 4] 、本種は2008年になってバケリア属 (英語版 ) に移された[ 5] [ 1] 。
本種の特徴はアリ が棲んで共生 する虫こぶ のようなものをいくつも持っていることであり、他の伝統的にアカシア属とされてきた木本と同様に刺も有する(参照: #特徴 )。共生するアリは本種を好んで食べるキリン などが1株ばかりに集中することを抑制する役割を持つ(参照: #アリとの共生関係 )。なお、この「虫こぶ」はヒト が食べることも可能である(参照: #ヒトによる利用 )。
フルートアカシア という和名をあてた資料が存在する[ 6] 。また、アリ植物 の一つとして紹介され、和名としてアリアカシア があてられている例も存在する[ 7] が、これは別種 Vachellia sphaerocephala にも用いられている(参照: #関連項目 )。
本種の分布域
スーダン 、南スーダン 、エチオピア 、ソマリア 、ケニア 、タンザニア 、ウガンダ 、コンゴ民主共和国 に分布する[ 1] 。
ウガンダにおいてはカラモジャ地方 やムバレ県 で、ケニアにおいてはナイロビ国立公園 で、タンザニアにおいてはモシ やドドマ州 、セレンゲティ国立公園 にてよく見られる[ 8] 。
ケニアにおいては(木や藪の混じる)草原 地帯、特にリフトバレー においては普通黒綿土 [ 注 1] 上に豊富に見られ[ 10] 、標高1,300-2,400メートル地帯において最も普通に見られる[ 11] 。ケニア中央部の半乾燥性の低木サバンナ 地域であるライキピア地区 では、アリと共生 するアカシア類の樹木の95パーセントがこのアカキア・ドレパノロビウムであることが多い[ 12] 。
アリとの共生などについては#他の生物との関係 を参照。
高さ1-6メートルの低木 あるいは高木 で扁平あるいは広がった樹冠 を持つ[ 10] 。幹はほとんど分枝しないものの、通常細い小枝(長さ2-7センチメートル)が水平に密に生える[ 13] 。樹皮は灰色あるいは黒色、粗く、最後は割れる[ 10] 。刺はまっすぐで灰色あるいは白っぽい色、長さ(0.6)1.5-6(8[ 13] )センチメートルで節で対になり、大きく紫色あるいは黒色の膨れた基部(径3.5センチメートル以下)を持つものがある[ 10] 。この基部は虫こぶ (のようなもの。詳細は#他の生物との関係 を参照)であり、数が多く後に硬化し、黒くなり[ 13] 、主にシリアゲアリ属 (Crematogaster )のアリ の巣となる[ 注 2] 。
葉は2-6センチメートル[ 13] 、羽状葉で3-13対の羽片を持ち、小葉は11-22対、1.5-5.5×0.7-1.2ミリメートルである[ 10] 。
花は頭状花 となり、白色あるいはクリーム色で[ 10] 芳香がある[ 13] 。
果実は莢果 で平滑あるいはほぼ平滑、狭披針形で[ 13] 赤茶色あるいは黒色、鉤 形または螺旋 形で4-7×0.5-1センチメートル、裂開 (英語版 ) 性である[ 10] 。
全体。
全体。ケニアの
ナニュキ (
Nanyuki )近郊にて。
枝先。
「虫こぶ」と葉。
花。白っぽい頭状花である。ナニュキ近郊にて。
花。ナニュキ近郊にて。
莢果。ナニュキ近郊にて。
枝先に群がるアリ(Crematogaster nigriceps )たち。
伝統的にアカシア属とされてきた種で刺を有するもののうち約10パーセントは刺の基部が大きく膨張して虫こぶ のようなものとなるが、これはアリによって誘導されたわけではないので真正の虫こぶとは言えないものである[ 12] 。アリたちは新しくて軟らかく緑色の「虫こぶ」の穴を噛んで内側を空洞にして小規模なコロニー を形成するが、この「虫こぶ」は時が経つにつれて暗い色となり、硬化して防御性も上がる[ 12] 。樹上のアリのコロニーは他の草食性昆虫 を捕食をはじめとする攻撃的な手段で追い払い、キリン など草食性哺乳類 すらも攻撃する[ 12] 。
#特徴 節でも触れたようにアカキア・ドレパノロビウムの場合は主にシリアゲアリ属 のアリを樹上に棲まわせているが、これはアリにとってはシェルターが提供されている上に葉茎から蜜 を分泌してコロニーを潤して貰っている状態である[ 14] 。アカキア・ドレパノロビウムはキリンに好まれるが、アリがキリンの顔や首にたかって刺すことでキリンは長時間1つの木ばかりを狙うことができず、食べ過ぎが抑制されている[ 14] 。こうした仕組みに関して生物学者たちは、蜜がアリにとっての「みかじめ料 」の役割を担っているのでは、と考えている[ 14] 。なお、アカキア・ドレパノロビウムを防御するアリの種類に着目した研究も行われ、それによるとケニアでマサイキリン とアミメキリン がアカキア・ドレパノロビウムに近接している時間と食事の時間を計測したところ、Crematogaster mimosae が最も攻撃的で C. nigriceps がこれに次ぎ、別属(ナガフシアリ属 (英語版 ) )の Tetraponera penzigi は全くキリンたちを遠ざけた様子が見られなかった(Martins 2010)[ 15] 。
アリと共生する植物は本種の他にも何種類も存在する(参照: #関連項目 )。
ケニアでは新鮮な虫こぶは食用となり[ 10] 、甘味のほかしばしばかすかな苦みがあり牧人に好まれるが、あまりに若く(暗)緑色のものは苦い上に分泌液が多く、熟して赤紫色となり中が空洞化してからが食べ頃である[ 11] 。また内樹皮 の繊維は甘みを帯びた苦味を持ち、マチャコス においては噛んで味わわれる[ 11] 。また枝は柵 作りに用いられ、成木は薪 としてうってつけであり、葉・若枝・新鮮で軟らかい「虫こぶ」は家畜のヤギ やラクダ 、それにウシ やロバ の飼料 として優れている[ 11] 。他には木炭 作り、薬用 (樹皮)、蜜源 といった使い道もある[ 16] 。
英語 : whistling thorn[ 10] [ 17] 、black galled acacia[ 10] - 空洞な「虫こぶ」にあいた穴に風が当たると口笛のような音が鳴る場合があり、「口笛を吹く刺」と呼ばれる[ 18] 。
ケニア:
^ 英 : black cotton soil(s) 。vertisols とも呼び、深く粘土質に富むことが特徴で、インド 中央部および南部には黒綿土の平原が見られる[ 9] 。
^ このアリは Acacia drepanolobium としての原記載文献である Schwed. Zool. Exped. Kilimandjaro 8 において Cremas togaster admota Mayr [ママ]などとされている。
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日本語:
ドイツ語:
Sjöstedt, Yngve , Wissenschaftliche Ergebnisse der Schwedischen zoologischen Expedition nach dem Kilimandjaro, dem Meru und den umgebenden Massaisteppen Deutsch-Ostafrika 1905–1906 8: 116 , t. 6 fig. 7-8 , t. 7 fig. 2-a (1908) - Acacia drepanolobium としての原記載文献。書名は『キリマンジャロ 、メル、ならびに周辺のマサイステップ へのスウェーデン動物学学術調査の学術的成果』と訳し得るが、この書で個別の項目を設けて解説されている対象の大半は昆虫である。本種について最初に命名を行った人物はヘルマン・ハルムス (Hermann Harms )という植物学者・分類学者であったが、彼による学名を有効な状態としたのは本来昆虫学 を専門とするシェーステットであった。
英語:
Mabberley's Plant-book ed. 3 1021 (2008) NCID BA85923337 - Vachellia drepanolobium という組み替え名が発表された文献。
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