アルマディロスクス | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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生体想像復元図(胴部は想像、皮骨板が皮膚に覆われていない旧復元)
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地質時代 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
後期白亜紀(チューロニアン - サントニアン) | |||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Armadillosuchus Marinho & Carvalho, 2009 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
種 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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アルマディロスクス[1](学名:Armadillosuchus)は、ブラジルに分布する後期白亜紀の地層から化石が産出した、ノトスクス亜目に属する偽鰐類の属[1]。全身の化石は発見されていないものの、頭骨長は40センチメートル弱に達する[1]。頭蓋骨の吻部は狭く、頭頂部は現生のアルマジロと同様に骨片で被覆される[1]。
アルマディロスクスの骨格はブラジルのバウル盆地で発見された。アルマディロスクスの記載に先駆けてバウル盆地の層序については細分化の提案が2004年になされていたが、新たな提案に基づく露頭の整理は行われていなかったため、記載時点では従来のアダマンティナ層から産出したものとして扱われた。Fernandes and Coimbra (1996) はバウル盆地に分布するバウル層群を3つの層に区分しており、そのうちアダマンティナ層は最古の層である。アダマンティナ層は砂岩・泥岩・シルト質および粘土質砂岩から構成されており、Castro et al. (1999)によればチューロニアン階からサントニアン階とされる[2]。
リオデジャネイロ連邦大学のマリーニョとカルバーリョは、記載論文においてホロタイプ標本とパラタイプ標本を記載している[2]。ホロタイプ標本UFRJ DG 303-Rはほぼ完全な頭蓋骨、完全な頸椎と頸肋、胴椎と胸肋、肩甲骨、部分的な左烏口骨、前側に外れた左上腕骨、左尺骨、左橈骨、左手の大部分、および皮骨板が保存されている[2]。パラタイプ標本MPMA-64-0001-04は吻側と背側で破損した前上顎骨、第二歯と後側で破損した左上顎骨、第四歯と背側で破損した右上顎骨、下顎結合においてほぼ完全な歯骨が保存されている[2]。
属名は現生の被甲目アルマジロ科の哺乳類のスペイン語名と、古代ギリシア語で「ワニ」を意味する "souchus" をラテン語化した "suchus" を合成したもの。種小名はサンパウロ州の General Salgado County での化石採集に貢献した Tadeu Arruda への献名である[2]。
アルマディロスクスはスファゲノサウルス科に属するが、その中でも特に本属を表徴する形質がある。アルマディロスクスは2本の前上顎骨歯を持ち、うち二番目のものが肥大した犬歯状である。後側の上顎骨歯は舌側のキールに少数の大型の結節が位置し、歯冠の軸は僅かに傾斜する。下顎は左右に狭く、下顎結合に寄与する領域が伸びる。第一歯骨歯は前側に向く。第四歯骨歯は僅かに側扁しており、前側にキールを持つ。第五歯骨歯は僅かに傾斜した顕著な歯冠軸を持ち、結節を持つキールが唇側に面し、第三上顎骨歯の裏で塞がれる。後頭骨底と基蝶形骨底との間の縫合線は後側で鼓室間孔を縁取り、かつ後側と外側で lateral Eustachian foramina を縁取る格好となり、この時に lateral Eustachian foramina が鼓室間孔と並列する。前眼窩の窪みは二分割されており、滑らかかつ深い窪みと、修飾を受けた浅い窪みに分かれる。外骨格には目立った部位が2つあり、一つは胴部と頸部を被覆する頸椎の鎧、もう一つは頸椎の鎧の大部分を構成する六角形の皮骨板である[2]。
本属が注目を浴びたのはその外骨格である。六角形の皮骨板はドーム状であり、硬さを付与する反面、頭部とは独立に運動するため首を常に固定する効果は無かった。またその後側に位置する頸部から胴部にかけての外骨格もまた約7本のバンドからなる可動式の構造を取っており、現生のアルマジロと類似するものである[3]。現生のワニには角質化した鎧を持つものこそいるが、アルマディロスクスのように甲羅で保護されたものはいない[4]。ただし、皮骨板は生前は皮膚に覆われており、生前は外部からその形態を視認することはできなかったとされる[5]。またこの他に大型の爪を伴う前肢も特筆されており[3]、食餌[3]や日光・天敵からの防御のため地面に穴を掘った可能性がある[4]。
頭蓋骨長は約40センチメートルである[1]。頭頂部の形状はアルマジロに類似するが、口には鋭い歯が並び、他のノトスクス亜目との近縁性が見て取れる[1]。食性は明らかでないが、湾曲した犬歯状の歯、前方に突出した下顎の小さな歯、餌の剪断に用いられる稜を持つずんぐりとした円錐形の歯といった異なる形状の歯を併せ持つ(異歯性)ため、雑食性の可能性が高いとされる[3]。記載論文では、アルマディロスクスが摂食した可能性のある食物として植物の根や軟体動物、乾燥した動物の遺骸が挙げられている[2]。
以下はアプレストスクスが記載された際にGodoy et al. (2014) で行われた系統解析の結果に基づき、アルマディロスクスとその他近縁なノトスクス類の系統関係を示す[6]。
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アルマディロスクスの化石が産出した地層は氾濫原に広がる湖沼性の堆積物であったと考えられている。先述した食物のうちアルマディロスクスと共産した軟体動物の化石は発見されていないが、アダマンティナ層の他の産地では普遍的に二枚貝が見られるため、アルマディロスクスが二枚貝を捕食した可能性も考えられる。殻に被覆された二枚貝や乾燥した遺骸などの硬い食物はアルマディロスクスの歯を削り、摩耗痕や条痕を残したと推測される[2]。
アルマディロスクスが生息した約9000万年前のサンパウロ州は高温の半乾燥地域であり[2]、季節的な降雨しかなかったとされる[4]。このため年間を通して水が豊富な地域に生息する現生のワニと生態が異なっており、先述した穴を掘る能力は炎天下における脱水症状を防ぐために用いられたと考えることができる[4]。また同時代に共存した他のワニ形類の存在も、掘削や甲羅による防御に寄与した可能性がある[3][4]。