カイカイフィル | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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復元図
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Kaikaifilu Otero et al, 2016 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
種 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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カイカイフィル(学名: Kaikaifilu)は、白亜紀末の大量絶滅直前にあたる南極の Lopez de Bertodano 累層から産出した、後期白亜紀に生息したティロサウルス亜科のモササウルス科の属。白亜紀に生息した海トカゲのグループであるティロサウルス亜科では最大の属の1つであり、南極に生息したものでは唯一大型のティロサウルス亜科である[1]。
カイカイフィルのホロタイプ標本に指定された頭骨は、保存された部位で長さ0.7メートルに達し、完全な頭骨長では1.1-1.2メートルに及んだことが示唆されている。全長は10メートルと推定されている。これは頭骨長0.65メートルのタニファサウルス・アンタークティクスなどの同時期のモササウルス科爬虫類よりも大型であり、カイカイフィルは南半球から産出した既知のモササウルス科爬虫類では最大となる。頭骨の縫合線は癒合し、外上顆と内上顆(筋肉が附随する上腕骨の隆起)が発達し、内側のテクスチャは比較的密で、この個体が成体であったことが示唆されている[1]。
体躯の他にも、カイカイフィルを近縁属から際立たせる特有の特徴がある。眼窩の上部縁の正面に卓越した隆起が存在し、タニファサウルスとは違って鼻孔の間にも隆起が存在する。前頭骨の形状はモアナサウルスのものとも異なり、三角形をなして鼻孔と松果孔に接する。加えて、頭骨の幅は眼下の前方で狭くなり、上腕骨頭は垂直方向に非常に厚い[1]。
特に、カイカイフィルの歯は異歯性、すなわち複数の異なるタイプの歯が存在する。咬耗症が全く存在しない中型の円錐形の歯、内外側に2,3の咬耗症がある中型の円錐形の歯、咬耗症の全くない非常に大型の円錐形の歯、そして断面がD字型をなして柔らかいエナメル質に覆われた、おそらく成長中の丸身を帯びた小さな歯が確認されている[1]。他に異歯性が確認されているモササウルス科爬虫類には、モササウルス亜科モササウルス族のエレミアサウルス[2]やモササウルス亜科グロビデンス族のカリノデンスがいる[3]。
2011年1月のチリの古生物学遠征で、南極大陸沿岸のシーモア島の Lopez de Bertodano 累層の上層から大型のモササウルス科の頭骨・繋がった顎・上腕骨断片・30本の孤立した歯と上腕骨断片が収集された。標本番号 SGO.PV.6509 が付けられたホロタイプ標本は後期マーストリヒチアンにあたる岩から発見され[4]、暁新世と白亜紀の境界から200メートル下に位置した[1]。
シーモア島で発見されるほかの脊椎動物化石とは異なり、カイカイフィルの化石は黄色がかった色を呈し、標本が一貫して鉱物変質を受けたことが示唆されている。標本が発見されるまでに著しい風化を受け、さらに、右側を上にして保存されていた頭骨は複数のブロックに分断されていた。頭骨の複数の部分は雄型としてのみ保存された[1]。
カイカイフィルの属名はマプチェ族の宇宙論で海の神である爬虫類 Coi Coi-Vilu にちなみ、種小名 hervei はチリと南極の地質学に大きな貢献を残したチリの地質学者フランシスコ・エルベへの献名である[1]。
2016年に複数の系統解析が行われ、カイカイフィルの関係が決定された。どの系統解析でもティロサウルス亜科のティロサウルスやタニファサウルスに近縁であることが示された。4つの解析の結果が以下の系統樹に纏められている[1]。
モササウルス上科 |
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Lopez de Bertodano 累層から産出したモササウルス、プログナトドン、プリオプラテカルプス、モアナサウルス、リオドンはかつてモササウルス属として同定されていたが、現在は独立した属と考えられている。しかし、これらの分類は歯に基づいており、そのうちいくつかはカイカイフィルに見られる歯の形態に合致した。このため、これらの属の全てが独立属として存在するわけではない可能性がある[1]。1つの生態系に大型の捕食者が多く生息することは滅多にないことであるため、その意味の解明が待たれる。また、カイカイフィルは首長竜アリストネクテス亜科に属するアリストネクテスと共存しており、おそらく機会があればアリストネクテスを捕食していた[5]。