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タイ湾における摂餌の光景
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タイ湾にて
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タイ湾にて
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タイ湾にて
カツオクジラ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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カツオクジラ Balaenoptera edeni
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保全状況評価[1] | |||||||||||||||||||||||||||||||||
LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | |||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Balaenoptera edeni Anderson, 1879[2] | |||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
カツオクジラ[2] | |||||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Eden's whale[2] | |||||||||||||||||||||||||||||||||
カツオクジラの通常の生息域[注釈 1]
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カツオクジラ(鰹鯨、学名:Balaenoptera edeni)は、ナガスクジラ科ナガスクジラ属に属するヒゲクジラ亜目の一種であり、非常に近縁であるニタリクジラやライスクジラ(英語版)との外見上の差はほとんど存在しない。
本種はかつて、イワシクジラおよびニタリクジラと同一の種とされていた[3]。
このため、「カツオクジラ」という和名はかつてはイワシクジラやニタリクジラの別名でもあったが、ニタリクジラとイワシクジラが別種であることが判明した際に、ニタリクジラに類する習性であるため、この別名はニタリクジラに引き継がれ、更に本種がニタリクジラから分けられる際にこの和名が付けられた。
なお、正式に決まるまでこの鯨種の和名として「エーデンクジラ(イーデンクジラ)」という名も検討されていた。
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Rosel et al. (2021) によるミトコンドリアDNAに基づくナガスクジラ科の系統図(太字はニタリクジラ種群)[4]。 |
本種は、3種または4種以上存在するとされる「Bryde's Whale complex[注釈 2]」の一角である。
本種が科学的に最初に分類されたきっかけは、ミャンマー西岸のマルタバン湾奥の河川を数十キロメートル遡上した個体であり、別名の「Sittang Whale」もシッタン川に由来する[5]。
比較的新たに分類されたために、情報が少ない種類であるが、東シナ海及び高知県、和歌山県沖の体長が小さい沿岸型のニタリクジラとされていたのはカツオクジラであり、土佐湾のホエールウォッチングの主対象として知られる「ニタリクジラ」と見なされてきたクジラも実際には本種である[6][7][8]。
2014年には、メキシコ湾に定住する絶滅に瀕する小個体群が、独自の亜種であるライスクジラ(英語版)であることが判明し、2021年に正式に新種として分類された[9]。
ニタリクジラ | カツオクジラ | |
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上顎骨の上行突起の形状 | 太く末広がり | 細く幅が一定 |
鼻骨の形状 | 細長い三角形 | 長方形のような形 |
前頭骨の露出 | 狭く帯状 | 広く、台座状隆起がある |
間頭頂骨の露出 | 小さい | 大きい |
翼蝶形骨の露出面の形状 | 細長く不定形でときに境界が不明瞭 | 頭頂骨と翼状骨との間に尾を引いた長方形状に大きく露出し、その側面は鱗状骨にも広く接する。 |
和名の由来は、本種と共にカツオが群れる習性があるためとされており[注釈 3]、共生関係にあるともされている。これはニタリクジラ等と同様に「クジラ付き」と呼ばれる光景である[10]。
本種もニタリクジラも、現生のナガスクジラ科では、ミンククジラと同様に(ザトウクジラよりは大幅に少ないが)ブリーチング・ヘッドスラップ(ジャンプ)やスパイホッピングを行う頻度が比較的に高い。やはりミンククジラと同様に、テイルスラッピングやペックスラップやフルークアップを行う事はほとんどない。
本種は様々な採餌方法を取ることが知られており、中には本種でしか確認されていない物もある。
土佐湾の個体群はザトウクジラと同様のバブルネット・フィーディングを行う点で特徴的である[11]。
北半球の北方に伝わる伝説の生物であるハーヴグーヴァの伝承の由来にもなったとされる「トラップ・フィーディング」は、タイ湾における本種の観察においてはじめて記録された。その後、タイ湾以外でも中東から東南アジアや中国での各海域で確認されており、さらに後年にはバンクーバー島周辺のザトウクジラも「トラップ・フィーディング」を行うことが判明した[12]。
2015年以降、中国・広西チワン族自治区の潿洲島(英語版)と斜陽島(英語版)の周辺において本種の分布が確認され、これは現代の日本以外の東アジアにおけるヒゲクジラ類の安定した生息が判明した初の事例だった。そして、この個体群はこれまで確認されてこなかった世界初の採餌形態である「ピルエット・フィーディング」や本種では初確認の「バブル・トレイリング」を習得している[13][14][15]。
温暖な地域であれば紅海を含むほとんど全域に生息する[注釈 4]。
現代の日本列島においては、高知県の土佐湾一帯と鹿児島県の野間半島周辺が本種の主だった生息域になっている。この両海域には定住群が存在するとされ、同海域での個体識別や繁殖活動の観察など研究が進んでいるだけでなく、両海域間の交流も判明している。土佐湾と野間半島および甑島列島沖に来遊するカツオクジラは、捕鯨以前よりは分布が狭まったであろう現代でも、少なくとも西は長崎県沖・五島列島付近まで、北は対馬市や山口県の沿岸などまで[3]、東は和歌山県・尾鷲沖まで回遊することが知られている。現在の牛深市の沿岸も、おそらくは本種の回遊経路であったと思わしい[注釈 5]。また、瀬戸内海にも短期間滞在した事例も存在し[16]、過去の記録を見ると野間半島周辺の個体は台湾などさらに遠方まで回遊していたと思しい[注釈 6][11]。
以下は、本種やニタリクジラ(ライスクジラは除く)が比較的高頻度で観察される沿岸地域の例である。
2023年の段階では、本種はニタリクジラとは異なり厳密には日本による商業捕鯨の対象にはなっていないが、ニタリクジラと誤認されて捕獲される可能性があり、分類の状況によっては現在も日本による商業捕鯨の対象になっているとされる場合がある[15]。
しかし、商業捕鯨によって本種も多大な影響を受けたと思われ、分布が消滅したり激減した可能性のある海域も存在する[10]。日本列島の沿岸に分布する東シナ海系の個体群は、推定生存数が170頭前後と危機的な状況に置かれているとされる[18][19]。
また、沿岸性である場合が目立つため、混獲、船舶との衝突、ゴミの誤飲、環境汚染などの人類からの影響を受けやすく、また、本種に限ったことではないが「混獲」と称した意図的な捕獲や密猟の対象にされる懸念も存在する[20][21]。
「ボン条約」においては、本種はニタリクジラと一括した形式で保護対象種に指定されている[22]。
本種は、一般的にはニタリクジラよりも比較的に沿岸性であり[注釈 7]、単一海域に定住する個体群も多数存在する。ブリーチングなどの水面行動も頻度は多くないが行う事もあり、ホエールウォッチングの主対象になる事もある。
日本では、土佐湾一帯で現在も本種を対象としたホエールウォッチングが行われている他、鹿児島県の笠沙町でも観察業が行われていた時期が存在する。
日本以外においても本種およびニタリクジラのホエールウォッチングは可能である。世界中の広範囲に棲息しており、2023年現在の時点で、積極的な観光業または研究業が行われている、またはそれらが将来的に期待されている海域に限っても、上記の様に、カツオクジラまたはニタリクジラの定住群を観察することができる地域は少なくない。
上記の通り、2015年以降は中国・広西チワン族自治区の潿洲島(英語版)と斜陽島(英語版)でも本種が頻繁に観察されており、これまで知られてこなかった採餌方法の「ピルエット・フィーディング」や本種では初確認の「バブル・トレイリング」も確認された[13][14][15]。近代以降の大陸側の中国の沿岸において大型鯨類の安定した生息が確認された稀有な例でもあるために社会的な注目度も高く[注釈 8]、保護のためにタイの海洋・沿岸資源局や研究者と共同調査を行ったり、広西チワン族自治区政府と研究者と自治体と中国海警局などが協力して、潿洲島におけるプラスチックごみ[注釈 9]や使い捨ての食品容器の使用の禁止、漁業規制、不適切なホエールウォッチングの取り締まり、迅速な保護区の制定、本種を含めた環境保護活動への大規模な予算の投入などの対策を行っている。この個体群を対象としたホエールウォッチングについては、当初は保全状態が判明したり保護が促進されるまでは禁止が行政によって通達されたり、不適切なツアー業者の摘発も行われていたが、その後は行政や研究者の指導の下で厳格なルールの設定や保護への啓蒙が試みられている[24][25][26]。従来の漁業は毎年死者が出るなど危険であるだけでなく、ホエールウォッチングによる収益よりも大幅に収入が小さいこともあり、エコツーリズムに転向する漁業関係者が増え、漁業規制がより適切になり、人々の環境保護への意識改革も促進され、適切なホエールウォッチングのルール化をツアー業者が率先的に行う様になったなどの好意的な兆候が見られ始めているとされる[23][27]。