キアンゾウサウルスはアリオラムスとの間に上述した共有派生形質が共通する一方で、本属のみにしか存在しない固有派生形質も持つ[6]。Lü et al. (2014)時点では、上顎骨の上行枝に大型の含気窓が存在すること、前上顎骨の最大前後長が頭蓋底の約2.2%まで極端に縮小すること(他のティラノサウルス科では4.3 - 4.6%程度)、腸骨の外側面に発達した垂直稜が存在しないことが挙げられた[6]。ただし、このうち腸骨の稜の不存在はラプトレックスとも共有されている可能性がある[6]。
その後、Foster et al. (2022)はLü et al. (2014)の記載を掘り下げ、頭蓋骨の詳細な再記載を行った[8]。新たに見出された固有派生形質には、鼻骨が鼻孔の周囲で外側に張り出さず直線状かつ棒状であること、涙骨の腹側突起が前腹側に傾斜すること、鱗状骨の前側枝の背側先端が華奢かつ浅いこと、歯骨の前縁が腹側縁と合流すること、上歯骨の背側縁が大きく窪むことがある[8]。前関節骨の内側面に存在する楕円形の孔や冠顎骨が内側にあまり露出しないことも固有派生形質の可能性があるが、断定は見送られている[8]。
キアンゾウサウルスの発見により、アリオラムスの既知の2種とキアンゾウサウルスから吻部の長いティラノサウルス科の新たな分岐群が構築された[6]。Brusatte and Benson (2013)のデータセットを用いて実施された系統解析では、アリオラムス族と命名された当該の分岐群は2個の最節約樹から形成された厳密合意樹においてティラノサウルス科に位置付けられており、特にアルバートサウルスよりもティラノサウルスに近縁な位置に置かれた[6]。アリオラムス族内の類縁関係は多分岐をなしたため不明であるが、これは A. remotus の化石が部分的であり、情報が大幅に欠落しているためであると考えられている[6]。
なおLü et al. (2014)はLoewen et al. (2013)のデータセットも用いて予備的な解析を実施したが、この結果ではアルバートサウルス亜科とティラノサウルス亜科とを加えた分岐群よりも基盤的な位置にアリオラムス族が再現された[6]。すなわちBrusatte and Benson (2013)とLoewen et al. (2013)のどちらのデータセットを利用するかによってティラノサウルス上科内での位置づけが変化することになるが、後者のデータセットでもアリオラムス族が分岐群として再現されたことから、キアンゾウサウルスが吻部の長い小さな分岐群に属することは依然示唆されている[6]。以下はBrusatte and Benson (2013)のデータセットを用いた厳密合意樹に基づくクラドグラムである[6]。
Carr et al. (2017)はキアンゾウサウルスとアリオラムスが系統解析で姉妹群として再現されたことから、キアンゾウサウルスをアリオラムスのジュニアシノニムと見なした[9]。しかし、Foster et al. (2022)がキアンゾウサウルスの頭蓋骨の詳細な再記載を行って本属の固有派生形質を新たに報告しているため、アリオラムスとキアンゾウサウルスを別属とする見解が再度提唱されている[10]。
Foster et al. (2022)では、アリオラムス族に固有の成長パターンも発見された[8]。それは頬骨の粗い突起の形態に関するものであり、突起はより若い個体で小型かつ円錐形であるが、成長につれてより大型で不明瞭なものに変化する[8]。また、他のティラノサウルス類が細い幼若個体から頑強な成熟個体に成長するのに対し、アリオラムス族はそのような成長に伴う変形を遂げない[8]。これは素早い獲物の追跡に適した生理機能を維持したことを示唆している[10]。
Foster et al. (2022)は、キアンゾウサウルスを含むアリオラムス族はその細長く華奢な体格から小型で機敏な獲物を狩猟していた可能性があり[8]、大型動物の殺害に特化したより大型で頑強な近縁属との競争を避けていた可能性があると示唆した[8]。また頭部形態から、等しい体サイズであればアリオラムスの咬合力はタルボサウルスの幼若個体を下回ったと推定されている[8]。タルボサウルスは場合によってアリオラムス族自体を獲物とした可能性があるが、ララミディア大陸に生息して競争を避けられなかったダスプレトサウルスとゴルゴサウルスと異なり、アリオラムス族は別の分岐群との生態的地位の分割を示す新たな形態を獲得していたとされる[8]。
^ abcdefghijFoster, William; Brusatte, Stephen L.; Carr, Thomas D.; Williamson, Thomas E.; Yi, Laiping; Lü, Junchang (11 February 2022). “The cranial anatomy of the long-snouted tyrannosaurid dinosaur Qianzhousaurus sinensis from the Upper Cretaceous of China”. Journal of Vertebrate Paleontology41 (4): e1999251. doi:10.1080/02724634.2021.1999251. hdl:20.500.11820/85571b5c-0e63-4caa-963a-f16a42514319.
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^Zheng, Wenjie; Jin, Xingsheng; Xie, Junfang; Du, Tianming (2024-07-25). “The first deep-snouted tyrannosaur from Upper Cretaceous Ganzhou City of southeastern China” (英語). Scientific Reports14 (1). doi:10.1038/s41598-024-66278-5. ISSN2045-2322.
^Chun Li; Xiao-chun Wu; Scott Rufolo (2018). “A new crocodyloid (Eusuchia: Crocodylia) from the Upper Cretaceous of China”. Cretaceous Research94: 25–39. doi:10.1016/j.cretres.2018.09.015.
^Mo, J. Y.; Xu, X.; Evans, S. E. (2012). “A large predatory lizard (Platynota, Squamata) from the Late Cretaceous of South China”. Journal of Systematic Palaeontology10 (2): 333. doi:10.1080/14772019.2011.588254.