キレスクス

キレスクス
生息年代: 168.3–166.1 Ma
生態復元想像図英語版(2019年作)
地質時代
約1億6830万年前 - 約1億6610万年前
バトニアン
中生代ジュラ紀中期(中期ジュラ紀
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 竜盤目 Saurischia
亜目 : 獣脚亜目 Theropoda
階級なし : 鳥吻類 Averostra
下目 : テタヌラ下目 Tetanurae
階級なし : (未整理)コエルロサウルス類 Coelurosauria
階級なし : ティラノラプトラ Tyrannoraptora
上科 : ティラノサウルス上科 Tyrannosauroidea
: プロケラトサウルス科 Proceratosauridae
: キレスクス属 Kileskus
学名
Kilesukus Averianov et al., 2010
和名
キレスクス
下位分類(
  • Kilesukus aristotocus Averianov et al., 2010(模式種)

キレスクス学名Kileskus)は、中生代ジュラ紀中期(中期ジュラ紀バトニアン(約1億6830万年前 - 約1億6610万年前)[注 1]シベリア(出土地はロシア連邦クラスノヤルスク地方イタット累層英語版)に棲息していた恐竜ティラノサウルス上科の1に分類される、比較的小型の獣脚類である。

ホロタイプ標本は、上顎骨前上顎骨上角状骨、および、四肢の複数の骨を含む化石が発見されている。頭蓋骨プロケラトサウルスのものに類似する。下位分類については、目下のところ、アレクサンドル・O・アヴェリアノフ (Alexander O. Averianov)古生物学者3名によって[2]2010年記載された aristotocus (アリストトクス種)のみが知られている。

名称

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属名 Kileskus は「トカゲ」を意味する現地語であるハカス語の "килескíラテン翻字: kileskí、日本語音写: キレスキ)" と名詞作成用ラテン語接尾辞 "-us[注 2]" で構成された混種語である[1][2][3][注 3]

発見された部位は、実線で描かれている部位の中の濃灰色で塗り潰されている部分
推定された本種とヒトの大きさ比較

原記載

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ホロタイプは不完全な右の上顎骨、左の前上顎骨、左の上角状骨の断片、左第2中手骨指骨、左第1中足骨、第3中足骨・趾骨、足の末節骨である[4]

左の前上顎骨には4つの歯槽が保存され、そのうち2番目の歯槽では成長途中の歯冠が観察される。ホロタイプ標本である右の上顎骨では5番目の歯が確認できる。いずれの歯も前縁と後縁に鋸歯が確認されている。また、断面はティラノサウルス上科に共通のD字型である[5]

キレスクスが鼻骨の突起を持っていたかは不明であるが、頭骨長の20%以上を占めるほどに外鼻孔が長く伸びている、前上顎骨の腹側の縁がごく短い、前眼窩窓の真下に位置する前眼窩窩がその下の上顎骨よりも上下方向に長い、といった数多くの特徴から、プロケラトサウルス科に分類可能である。また、外鼻孔が40度の角度で後背側に傾斜しているという特徴も共有する。上顎骨の上昇的突起と繋がり、後背側へ緩やかに傾斜もしている上顎骨の前方の縁により、キレスクスは他のプロケラトサウルス科から区別される[4]

2010年にドイツ人古生物学者オリバー・ラウフット (Oliver Rauhut)らがプロケラトサウルス科を「ティラノサウルスアロサウルスコンプソグナトゥスコエルルスオルニトミムスディノニクスよりもプロケラトサウルスに近縁な全ての獣脚類恐竜」として系統学的に定義した[5]が、形態的な定義付けは行われていなかった。そこでアヴェリアノフらは上述した特徴に加えて、鼻骨で形成され、鼻骨と前上顎骨の境界に端を発する鶏冠とさか)をプロケラトサウルス科の特徴とした[4]

新標本

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同じくジュラ紀中期バトニアンにあたるイタット累層から、頚椎尾椎血道弓骨腓骨からなる新標本が発見された。この新標本から以下に示すキレスクスの3つの固有派生形質が明らかにされた[6]

  • 神経腔と関節前突起の間の前方に深い溝が存在する。
  • 中央の頚椎神経棘の根元に明瞭な窪みが存在する。
  • 中央の尾椎の腹側に溝が存在する。

また、中央から後方の頚椎に存在するほぼ水平の後方中央骨突起の板状構造と、その板状構造の主に背側に位置する関節下後突起の孔が、新たにプロケラトサウルス科共有派生形質と判明した。さらに同論文では、腓骨の中央表面に存在して明瞭な縁を持つ楕円形の深い孔は、キレスクスに見られるティラノサウルス上科の共有派生形質であるとされている(キレスクス以外のプロケラトサウルス科においては、腓骨が産出していないか詳細に記載されていない)。キレスクスの脛骨の初生皮層に分布する縦および網状の血管から、大型のティラノサウルス科よりも成長速度は遅かったことが示唆されている[6]

古環境と食性

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棲息図:赤丸の地点に棲息

パンゲア大陸は分裂を始めて久しいが、まだまだ超大陸の状態を崩してはいない。
イタット累層はシベリア卓状地(シベリア大陸)と呼ばれるクラトン(安定陸塊)の上にあって、形成期の後半が続いている。
シベリア卓状地の東にはシナ地塊英語版があり、狭い海峡を挟んで隣接しているか、あるいは、辛うじて陸続きになっている。南には遠浅で温暖なテティス海があり、広大な地中海を形成している。西にはウラル山脈が聳えているが、大きくは東ヨーロッパ・クラトンとその先にある北アメリカ・クラトンにまで陸地が続いている。

本種が発見されたのは現在の西シベリア平原に所在するイタット累層英語版(下層のバッジョシアンと上層のバトニアン階からなる。年代は170.3–166.1 Ma。)の上層部(年代は 168.3–166.1 Ma)である。西シベリア平原は現世における世界最大の炭化水素盆地である西シベリア石油盆地英語版とその領域において同一と言ってよいが、本種が棲息していた当時では、ローラシア大陸の中央部のかなりの部分(北寄り)を占めており、本種を産出した地点は当該地域のやや東寄りに位置していた。

イタット累層からは、軟骨魚類ヒボドゥス)、硬骨魚類チョウザメ目アミア目ハイギョ、ほか)、両生類(無尾目〈カエル〉、有尾目)、カメ鱗竜形類スキンク類コリストデラ類 (Choristodera)、ゴニオフォリス科絶滅ワニ形類)、翼竜、恐竜(竜盤類ヘテロドントサウルス科英語版鳥盤類マメンチサウルス科英語版剣竜類)、キノドン類トリティロドン類など)、哺乳形類、そして多丘歯目等の哺乳類といった、多種多様な脊椎動物が出土している[4]植生としては、トクサ科薄嚢シダ類イチョウ類球果植物などが認められる。なお、キレスクスなどプロケラトサウルス類は主として小動物を捕食していたと考えられているため[7][8]、共産した中でも小型の生物、例えばハラミヤ目 (Haramiyida) もしくは真ハラミヤ目 (Euharamiyida) に分類されるキノドン類(もしくは哺乳形類)のシネレウテルス (Sineleutherus) などは、キレスクスの餌になっていたかもしれない。ただし、キレスクスの推定全長は代表的なプロケラトサウルス類であるグアンロンよりも大きく、これが獲物の選択に変化を与えた可能性もある。

キレスクスの想像生態復元図

なお、2020年代初期の知見では、原鳥類および鳥群はまだ地球上に出現しておらず、既知で最古の例は約1億6500万年前であるから、時期的には出現前夜と言ったところである。

分類

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キレスクスは、2010年アレクサンドル・O・アヴェリアノフらによる)と2013年マーク・A・ローウェン[Mark A. Loewen]らによる)の2度にわたって系統解析に組み込まれ、いずれにおいても基盤的なティラノサウルス上科に分類された[4][9]。プロケラトサウルス科の中でも基盤的な位置付けとされたため、プロケラトサウルス科がアジア寄りの地域で誕生した可能性が浮上している[4]

以下に示すクラドグラムはローウェンらが2013年に発表したものである[9]

Tyrannosauroidea ティラノサウルス上科  
Proceratosauridae プロケラトサウルス科  

Proceratosaurus プロケラトサウルス

Kileskus キレスクス

Guanlong グアンロン

Sinotyrannus シノティラヌス

Juratyrant ジュラティラント

Stokesosaurus ストケソサウルス

Dilong ディロング

Eotyrannus エオティラヌス

Bagaraatan バガラアタン

Raptorex ラプトレックス

Dryptosaurus ドリプトサウルス

Alectrosaurus アレクトロサウルス

Xiongguanlong シオングアンロング(シオングアンロン)

Appalachiosaurus アパラチオサウルス

Alioramus altai アリオラムス・アルタイ

Alioramus remotus アリオラムス・レモトゥス

Tyrannosauridae ティラノサウルス科

関係者

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主要な研究者
  • Alexander O. Averianov (Aleksandr Olegovich Averyanov)(アレクサンドル・O・アヴェリアノフ)[10][11][12][13]
(1965- )  ロシア人古生物学者。本種の学名記載者。記載当時(2013年当時)の所属大学はカザン大学ロシア科学アカデミー会員。
  • Sergei Anatolyevich Krasnolutskii(セルゲイ・アナトリエヴィッチ・クラスノルツキー)[14] - ロシア人。古生物学者。本種の学名記載者。
  • Stepan V. Ivantsov(ステパン・V・イヴァンツォフ)[15] - ロシア人。古生物学者、地史学者。本種の学名記載者。トムスク大学所属。
  • Oliver Rauhut (Oliver Walter Mischa Rauhut)(オリバー・ラウフット、オリヴァー・ヴァルター・ミーシャ・ラウフット)[16]
(1969- )  ドイツ人。古生物学者。2010年当時も現在(2021年時)も所属大学はミュンヘン大学

論文

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記載論文

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他の論文

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脚注

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注釈

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  1. ^ ティムール・B・ダヴレトフ博士によれば、約1億6800万年前[1]
  2. ^ 技術的トラブルか何かのため、"-us" のページの "Latin" 節へのリンクが現状では機能せず、関係の無い "Lithuanian" 節を示してしまうので、閲覧の際は注意すること。
  3. ^ なお、ハカス語とラテン語の解説は『よみがえる恐竜 最新研究が明かす姿』を典拠としていない。ハカス語は先述のティムール・B・ダヴレトフ博士のツイート[1]を、ラテン語はラテン語辞書を典拠としている。

出典

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  1. ^ a b c Davletov 20200714a.
  2. ^ a b Kileskus (Kileskus aristotocus)” (English). State Darwin Museum. 2021年4月20日閲覧。YouTube動画(ロシア語)もあり。
  3. ^ 『よみがえる恐竜 最新研究が明かす姿』 (2017), p. 30.
  4. ^ a b c d e f Averianov et al., 2010.
  5. ^ a b Rauhut et al., 2010.
  6. ^ a b Averianov et al., 2019.
  7. ^ Yun, 2016.
  8. ^ Wick et al., 2015.
  9. ^ a b Loewen et al., 2013.
  10. ^ Alexander Averianov” (English). ResearchGate. 2021年4月25日閲覧。
  11. ^ Alexander O. Averianov - Staff” (English). Zoological Institute of Russian Academy of Sciences. Zoological Institute RAS (ZIN RAS). 2021年4月25日閲覧。
  12. ^ Alexander O. Averianov” (English). Laboratory of Theriology. 2021年4月25日閲覧。
  13. ^ Alexander O. Averianov - Institute of Earth Sciences” (English). Saint Petersburg State University. 2021年4月25日閲覧。
  14. ^ Sergei Anatolyevich Krasnolutskii” (English). ResearchGate. 2021年4月25日閲覧。
  15. ^ Stepan V. Ivantsov” (English). ResearchGate. 2021年4月25日閲覧。
  16. ^ Oliver W M Rauhut” (English). ResearchGate. 2021年4月25日閲覧。
  17. ^ Mark A. Loewen” (English). ResearchGate. 2021年4月25日閲覧。

参考文献

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書籍、ムック

関連項目

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外部リンク

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