クロタマゴテングタケ

クロタマゴテングタケ
分類
: 菌界 Fungi
: 担子菌門 Basidiomycota
: 菌じん綱 Hymenomycetes
: ハラタケ目 Agaricales
: テングタケ科 Amanitaceae
: テングタケ属 Amanita Pers.
亜属 : マツカサモドキ亜属 Subgen. Amanitina
: タマゴテングタケ節 Sect.Phalloideae
: クロタマゴテングタケA. fuliginea
学名
Amanita fuliginea Hongo[1] (1953)
和名
クロタマゴテングタケ[1] (黒卵天狗茸)

クロタマゴテングタケ(学名: Amanita fuliginea)はハラタケ目テングタケ科テングタケ属菌類

形態

[編集]

子実体はハラタケ型(agaricoid)で全体的に黒色である。小型で傘の直径は3cm-5cm程度[1]。テングタケ属に特徴的なschizohymenial development(和名未定)という発生様式を採り、卵状の構造物内に子実体が形成され、成長と共にこれを破って出てくる。この発生様式の名残で根元には明瞭なツボを持つ。

傘は黒く一般に中心部ほど濃色で辺縁部ほど淡色、かすり模様が現れる個体もある。傘の縁には条線を持たない[1]。成長すると水平かやや反り返る程度まで開く。傘の裏のひだは白色で密で柄に対しては離生[1]、幼菌でも成菌でも色の変化はない。柄は白地に灰色の鱗片が付き、特にツバから下の部分にだんだら模様が現れる[1]。根元には膜質でしっかりとした白色のツボを持つ[1]。ツバも白色の膜質で柄のやや上にあることが多い。胞子紋は白色。胞子ヨウ素水溶液で青く変色する(アミロイド性)[1]

ツバとツボを持ち、かつ傘に条線がない、ひだが白いなどの特徴はテングタケ科猛毒種に共通でタマゴテングタケAmanita phalloides)、ドクツルタケAmanita virosa)なども同じ特徴を持つ。

生態

[編集]

原記載論文Hongo (1953) では模式標本の採取地は滋賀県大津市三井寺境内のShiia属樹林の林床で、時期は7月下旬とされている[1]Shiia属は現在シイ属のシノニムとなっている。他のテングタケ科同様に樹木の外生菌根を形成し栄養や抗生物質のやり取りなどを行う共生関係にあると考えられている。

人間との関係

[編集]

致命的な猛毒種として知られる。特に中国南部を中心に多くの死亡例があるという[2][3]

症状

[編集]

中毒症状は摂食後数時間で嘔吐や下痢(コレラ的ともいわれる水のような下痢)があリ、いったん症状が治まる偽回復期を挟んだ後に、肝臓腎臓[4] [5]を破壊されて多臓器不全で死亡する症例が多いという。

診断と治療

[編集]

問診および食べ残しや採取場所での類似種を採取しての分析による食べたキノコの推定、血液分析によるアマトキシン類の検出など。また、解剖の結果イヌでは回腸小腸の後半)に出血[6]。、人では結腸大腸の一部)に粘液便がある[7]ことなどもアマトキシン中毒の特徴だという。

肝臓及び腎臓を破壊するのが致命的になるので腸肝循環の遮断による毒素の再吸収抑制(活性炭投与やカテーテル挿入による胆汁除去)、ペニシリンの大量投与などが行われる。

類似種

[編集]

中国には形態の類似した以下のテングタケ属の3種が知られる。Amanita fuligineoides(和名未定、中国名:拟灰花纹鹅膏)は子実体が本種よりも大型で、傘径10cm程度になる。Amanita. griseorosea(和名未定、中国名:灰盖粉褶鹅膏)、Amanita subfuliginea(和名未定、中国名:近灰花纹鹅膏)。これらはいずれも猛毒であり当局により注意が呼びかけられている。

日本に分布する種ではコテングタケモドキAmanita pseudoporphyria)が傘の色合いとかすり模様、条線が無いこと、ツバとツボを持つこと、常緑のブナ科林という発生環境などでよく似ているが、コテングタケモドキの方がより大型になる。また柄の色はほぼ純白で傘の縁には白色の外皮膜の残骸が付くことが多い(脱落の可能性に留意)。ドウシンタケAmanita esculenta)は傘の縁に条線が出る。テングタケAmanita pantherina)、ガンタケAmanita rubescens)などは黒色系で色合いが似るが、子実体の大きさ、傘はかすり模様は無く条線が出ること、典型的個体では傘にいぼを乗せていること(脱落の可能性に留意)、ツバとツボの形状も異なる。テングタケ科以外ではオオフクロタケ(Volvopluteus gloiocephalus、ウラベニガサ科)などが傘の色合いやかすり模様、白色のツボなどで若干似る。

Amanita manginiana(和名未定、中国名:隐花青鹅膏菌)は中国南部などに分布する黒色系のテングタケで傘に条線が出ないこと、ひだが白色であること、ツバとツボを持つことなどテングタケ属の猛毒種に共通する特徴を持ち、テングタケ属内での分類も猛毒種が多いタマゴテングタケ節(Sect. Phalloideae)に入ると見られているが、現地では広く食用とされているという。また、Amanita yuanianaという種も中国産で黒色系で傘にかすり模様が出るテングタケである。条線が出ることやツボの形状からこちらはタマゴタケやドウシンタケに近い種類とされ、この種も食用とされているという。中国での誤食事故はこれらの種と本種及び上記のような類似の有毒種を食べて発生していることが多いと考えられている。

名前

[編集]

和名クロタマゴテングタケは子実体が黒色であること、および色以外の形態、毒性ともにタマゴテングタケとよく似ていることからの命名。種小名fuligineaは「黒褐色の」という意味で子実体の色に由来する[1]。和名学名共に命名者は菌類学者本郷次雄(1923-2007)[1]。中国名は灰花紋鹅膏(灰色の花模様のテングタケ)でかすり模様が出る傘の形態に由来。

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e f g h i j k Tsuguo Hongo (1953) Larger fungi of the provinces of Omi and Yamashiro (4). The Journal of Japanese Botany (植物研究雑誌) 28(3), p.69-75. doi:10.51033/jjapbot.28_3_3541
  2. ^ 長沢栄史監修『日本の毒きのこ』(学習研究社、2009年増補改訂版初刷、61頁)
  3. ^ Zuohong Chen & Ping Zhang & Zhiguang Zhang (2014). “Investigation and analysis of 102 mushroom poisoning cases in Southern China from 1994 to 2012”. Fungal Diversity 64: 123–31. doi:10.1007/s13225-013-0260-7. https://www.researchgate.net/publication/263574634. 
  4. ^ 森下啓明・坂本英里子・保浦晃徳・石崎誠二・月山克史・近藤国和・玉井宏史・山本昌弘 (2006) キノコ摂取によるアマニタトキシン中毒の1例. 第55回日本農村医学会学術総会セッションID: 1G109. 日本農村医学会学術総会抄録集. doi:10.14879/nnigss.55.0.120.0
  5. ^ 福内史子・飛田美穂・佐藤威・猪口貞樹・澤田裕介(1995)毒キノコ (ドクツルタケ) 中毒により急性腎不全をきたした1症例. 日本透析医学会雑誌28(11), pp1455-1460. doi:10.4009/jsdt.28.1455
  6. ^ 大木正行(1994)犬における実験的アマニタきのこ中毒. 日本獣医師学会誌47(12), pp.955-957. doi:10.12935/jvma1951.47.955
  7. ^ 村上行雄(1994)ドクツルタケによる食中毒. 食品衛生学会誌35(5), pp568.doi:10.3358/shokueishi.35.568

外部リンク

[編集]