コンビーノ (Combino) は、シーメンス (Siemens AG) 交通システム部 (Verkehrstechnik-Sparte) 製の低床路面電車である。
それまでも低床型路面電車を開発していたデュワグ(DUEWAG)社が、1996年に新設計のコンビーノ試作車を発表した。その後デュワグがシーメンス傘下に入ったため、現在はシーメンスの名で販売されている。ドイツを中心に500編成以上が納入されており、低床路面電車としては最大の勢力となっている。3車体連接車に関してはバンビーノ (Bambino) という愛称もある。
さまざまな仕様に対応可能なモジュール構造をとっている。車体はアルミニウム製で、台車を持つ短車体と、この間をつなぐ台車のない長車体(フローティング車体)を交互につないだ、3車体連接(約19m)、5車体連接(約30m)、7車体連接(約42m)、9車体連接(約53m)の編成が組め、車体幅も2300mm、2400mm、2450mm、2650mmの4種類の製作実績がある。2000年のエアフルト投入車から車体デザインが変更され、先頭部モジュールの長さが5840mmから6320mmに、車体高さが3200mmから3300mmに変更された。軌間はメーターゲージから標準軌までに対応、また一方向のみ運行の仕様(片運転台、一方の側面に客用扉)とすることも両方向運行の仕様(両運転台、両側面に客用扉)とすることも可能となっている。完全低床を実現するため、車輪は左右独立とし、両軸の主電動機を軸間の台車外側に配置し、ベベルギア、直角中空軸積層ゴム駆動方式で前後の車輪を駆動している。左右の主電動機は1台のインバータで駆動される。台車には撒砂機・フランジ塗油機の取り付けが可能。電気部品の大半は屋根上に装備している。動力は全台車に搭載可能だが、要求される性能次第で付随台車にする場合も多い。ノルトハウゼンに導入されたコンビーノデュオ (CombinoDuo) はディーゼル発電機を搭載し、非電化区間では電気式気動車 (気動車・ディーゼル機関車の動力伝達方式を参照) として走行できるようになっている。
以下の諸元は過去の実績に基づく標準的な数値。
都市 | 事業者 | 形式 | 投入時期 | 全長 | 空車重量 | 着席定員 | 編成数(受注数) | 備考 |
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デュッセルドルフ | 1996年 | 5/7車体 | 99編成 | |||||
ポツダム | 1998年 | 5車体 | 16編成 | 当初48編成の予定だったが32編成はキャンセル | ||||
アウクスブルク | 1999年 | 41960mm(7車体) | 43.7t | 101人 | 41編成 | |||
フライブルク | 1999年 | 41960mm(7車体) | 44.0t | 82人 | 9編成(18編成) | |||
広島 | 広島電鉄 | 5000形 | 1999年 | 30520mm (5車体) | 35.0t | 52人 | 12編成 | 宮島線ホーム高さにあわせ床面高さを330mmとしている。 先頭部デザインをカスタマイズ。 パンタグラフを2基装備。 車掌乗務に対応。 |
バーゼル | 2000年 | 42860mm (7車体) | 47.468t | 99人 | 28編成 | パンタグラフをポイントの制御に使用しているため、パンタグラフを先頭車体に装備。 | ||
エアフルト | 2000年 | 20040mm (3車体) 31480mm (5車体) |
23t / 34t | 37人 / 60人 | 31編成 | 備考 | ||
ノルトハウゼン | 2000年 | 8(10)編成 | ||||||
アムステルダム | アムステルダム市営交通会社 | 2001年 | 29200mm (5車体) | 34.5t | 60人 | 120編成(155編成) | 先頭部デザインをカスタマイズ。 中間車体に7400mmと5770mmを使用しており、前後非対称。 車掌乗務に対応。5770mmの中間車体に車掌スペースを設置している。 | |
メルボルン | 2002年 | 20040mm (3車体) 29850mm (5車体) |
25.8t / 35.3t | 36人 / 64人 | 59編成 | 5車体連接車は中間車体に7400mmと5770mmを使用しており、前後非対称。 | ||
スル・ド・テージュ (Sul do Tejo、リスボン南郊) |
24編成 | |||||||
ウルム | 2003年 | 8編成 | ||||||
ベルン | 2003年 | 5車体 | 15編成 | |||||
ポズナニ | 2003年 | 14編成 | ||||||
ヴェローナ | 2004年 | 全長 | 空車重量 | 22編成 | ||||
バレンシア | 2005年 | 10編成 | ||||||
ブダペスト | コンビーノ・プラス | 2005年 | 約54m (6車体) | 空車重量 | 着席定員 | (40編成) | 貫通編成の路面電車としては世界最長である。 |
2004年3月12日、シーメンスはコンビーノの車体強度に問題があることを明らかにした。衝突時に天井が抜け落ちる可能性があり、120000km以上を走行したコンビーノを営業運転から外すように運営各事業者に要請した。実際、古いコンビーノからはアルミ車体の継ぎ目にヘアークラックが見つかっている。そのためシーメンスは補強工事を行った。これに伴い、ポツダムは32編成の導入予定を取り消した。
前述のリコール以降、シーメンス社は全くの新設計となる「コンビーノ・プラス」を開発した。これは従来のフローティング構造を採用したDUEWAG社以来の客室モジュール設計を廃し、各車輌に台車を設ける構造に改め、車輌鋼体の強度を高めた設計である。なおこれは旧ADtranz社(現ボンバルディア社)のブレーメン形に近い設計となる。2006年以降、ブダペスト(ハンガリー)、アルマダ(ポルトガル)等で採用されている。
シーメンスの路面電車としては部分低床で高速運転 (最高速度105km/h) を可能としたS70(ヨーロッパ市場向け)/アヴァント (Avanto、その他市場向け)やウイーンに1995年に登場した世界最低床 (客用扉部はレール面上197mm) のウルフ(ULF)がある。
また、コンビーノに代わるシーメンスの超低床電車として、コンビーノ・プラスを発展させたアヴェニオ(Avenio)が存在する。