コンピュータウイルスとワームの年表

このコンピュータウイルスとワームの年表では、著名なコンピュータウイルスワームトロイの木馬など、いわゆるマルウェアの歴史について時系列順に説明する。

自己増殖オートマトンの理論

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フォン・ノイマン

メインフレーム中心の時代

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  • 1971年、最初期の自己複製型プログラムの一つ『クリーパー』が作られた。BBNテクノロジーズ社のボブ・トーマスが作成した[2]。利用したコンピュータはDEC社のPDP-10、OSはTENEXだった。このプログラムは「俺はクリーパー、捕まえられるかな?(I'm the creeper, catch me if you can!)」と表示するものだった。後、レイ・トムリンソンらが改変した[3]。これは、インターネットの前身ARPANETの端末間に広く拡散した。この対策として、トムリンソンは[4]クリーパーを駆除するために『リーパー』というプログラムも作っている[5]
  • 1974年、今でいうFork爆弾の一種、『ラビット』が作られた。このプログラムは複数の自己複製を行い、その動き自体がシステムの能力を低下させ、最終的にクラッシュを引き起こすものだった[6]
  • 1974年頃、プログラマーのジョン・ウォーカー英語版は、UNIVAC 1108英語版向けのプログラム「ANIMAL」を発表した[7]。もともとのANIMALはウイルスではなく、一種の学習型プログラムである。プレイヤーがある動物を頭の中で思い浮かべ、コンピューターからの「その動物の耳は長いですか?」「色は白いですか?」といった質問にイエスかノーかで答えていくうち、コンピューターは過去に登録された動物であれば「それはキリンですね」といった答えを返し、登録されていない動物であればプレイヤーにその動物の名前を入力させて新たに登録する、というものだった。このプログラムは使用希望者が多く、ウォーカーはそのたびにいちいちコピーするのが面倒になったため、まだそのプログラムがインストールされていないディレクトリを見つけたら勝手にインストールするプログラム「PERVADE」を開発した。ウォーカーは、慎重にプログラミングを行ったつもりだったが、結果としてシステムの負荷を異常に高めてしまうものだった。そのため、ANIMALは世界初のトロイの木馬と見なされている[8]
  • 1975年、イギリスのSF作家ジョン・ブラナーは、小説『衝撃波を乗り切れ』を発表し、その中で、コンピュータネットワーク上で増殖するプログラムを初めてワームと呼んだ。

パーソナルコンピュータウイルスの登場

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  • 1981年に作られたElk Cloner英語版は、初のパーソナルコンピュータウイルスであり、初のコンピュータウイルスとされることもある[9]。当時高校生だったリッチ・ストレンカ英語版Apple II向けに作った。Apple IIの主な記憶媒体はフロッピーディスクであり、Elk Clonerはそのブートセクタを利用していた。Elk Clonerは非常に広まった。
  • 1983年11月、フレッド・コーエンは、自己複製するコンピュータ・プログラムを初めて「ウイルス」と呼んだ。1984年には、コンピュータ・ウイルスを「他のプログラムを書き換えて、自分自身をコピーするという手法で『感染』するプログラム」と定義した。コンピュータ・ウイルスの拡散を「感染」と初めて呼んだのもコーエンである。ただしコーエンによれば、この呼び名は彼の師レオナルド・エーデルマンが示唆したものである[10]
  • 1983年に作られた「ARF-ARF」と呼ばれたプログラムは、最初期のIBM PC向けトロイの木馬の一つである。このソフトは「DOSフロッピーディスク中のファイルを直接ソートするプログラム」との触れ込みで、BBSで配布されていた。当時、IBM PC DOSは、ディスク中のファイルの順番が名前順に並んでいなかったため、「ファイルをソートする」という機能は非常に魅力的だった。ところがこのプログラムは、実際にはディスク上の全ファイルを消去するプログラムだった。このプログラムは、実行後にスクリーンに「ARF - ARF」という表示を残す。「ARF」はIBM PCのエラーメッセージAbort, Retry, Fail?の略である。
ケン・トンプソン
  • 1984年、アメリカのコンピュータ学者ケン・トンプソンは、チューリング賞の受賞記念講演で『信用の信用性に関する考察(Reflections on Trusting Trust)』との題で、「ソースコードの中身を十分に検証してからコンパイルしたとしても、コンパイラ中に生成コードに密かにバックドアを埋め込むような仕掛けがなされていたら、バックドアを防ぐことができない」という趣旨の発表を行っている[11]
  • 1986年1月[12]PC/AT互換機に感染する初めてのコンピュータウイルスが見つかった。これは今、Brainと呼ばれており、ブートセクタに感染するタイプである。このウイルスは、19歳のパキスタン人プログラマが作ったものである。
  • 1986年12月[13]、ドイツのハッカー組織カオス・コンピュータ・クラブにて、COMファイルに感染するタイプのウイルスについて発表された。翌1987年、実際にIBMパソコンのCOMファイルに感染するウイルスが発見され、後にウィーン・ウイルス(Vienna virus)と命名された[14]。このウイルスは、後に数多くの模倣品が作られている[15]
  • 1987年にはベルント・フィックス英語版がウィーン・ウイルスの対策ソフトウェアを開発し、これが文書に残っている最初期のアンチウイルスソフトウェアであるとされる[16]

以後、パーソナルコンピュータで動作する様々なコンピュータウイルスが見つかった。

  • 1987年、ブートセクタに感染する「リーハイ・ウイルス」(アメリカ合衆国)が見つかっている。ただし、これは発見されたリーハイ大学以外での感染例は見つかっていない。この他、「ストーンド・ウイルス英語版」(ニュージーランド)、 「Ping Pong英語版」(イタリア)もブートセクタ感染タイプである。
  • 1987年、プログラムの主要部分が暗号化された初めてのウイルス「Cascade」が見つかっている。このウイルスは、ベルギーIBMでも感染が見つかったこともあり、IBMがウイルス対策ソフト作りに本格的に取り組むきっかけとなった。日本では「1701」の名でも知られる[17]
  • 1987年10月、エルサレム・ウイルス英語版が見つかっている。このウイルスは、「13日の金曜日」にすべての実行ファイルを破壊するというもので、1988年には世界的な流行となった。
  • 1987年11月、当時IBMパソコンと並んで人気があったAmigaのブートセクタに感染するタイプのウイルスが登場し、多数の模倣ウイルスが作られた。この少し後、スイスクラッキング会英語版がより巧妙なウイルス「Byte Bandit英語版」を発表した。
  • 1987年12月、電子メール(と電話帳)を利用して広がるウイルス、Christmas Tree EXEC英語版が発生し、世界中のいたるところでコンピュータネットワークを麻痺させた。
  • 1988年4月、ウイルス対策を目的としたメーリングリスト、「VIRUS-L」が始まり[18]ジョン・マカフィーユージン・カスペルスキーなど、アンチウイルスソフト開発者が参加した。
  • 1988年6月、草の根BBSApple II用のウイルス「Festering Hate英語版」が発生し、やがて大きく広まった。
  • 1988年11月2日、ロバート・T・モリスが作った「Morris worm」は、インターネットに接続しているDEC VAXSun BSD UNIXといったマシンに非常に広く感染した。これは、バッファオーバーランを利用した初のウイルスとしても知られる。
  • 1989年10月、複数の感染手法を有する「Ghostball英語版」が発見された。
  • 1989年に発見された[19]「WDEF」は、Macintoshをターゲットにしたウイルス。当時、MacintoshのOSはディレクトリごとに「DESKTOP」という隠しファイルを持っており、WDEFはこのファイルに感染した。WDEFは本来はリソースタイプの一種であり、ウィンドウの形状などが記録される。ウイルス「WDEF」はこの「DESKTOP」が隠しファイルであること、およびClassic Mac OSがWDEFリソースが容易に作成できるよう設計されていたことを利用していた。
  • 1989年、シマンテックがMacintosh向けウイルス対策ソフト「SAM」を発売[20]
  • 1990年、マーク・ウォッシュバーン(Mark Washburn)は、「Cascade」を参考に、ポリモルフィックコードを用いたウイルス「1260英語版」を開発した。このウイルスはいくつかの変種が作られ、「カメレオン・シリーズ」として知られる[21][22][23]
  • 1992年、時限式のウイルス「ミケランジェロ英語版」の感染が広まった。マカフィーの設立者、ジョン・マカフィーは、このウイルスに設定されている3月6日には500万台以上のコンピュータが被害に合うだろうと予測したが、実際には数千台に留まった。後にマカフィーは、「予言した数字は5千〜5百万台だったが、メディアが大きい方の数字ばかり強調して数字が独り歩きしてしまったのだ」と語っている。
  • 1992年、コンピュータウイルス作成支援プログラムVirus Creation Laboratory英語版が発表されたが、生成されたウイルスはこのプログラムの作者が考えていたほどオリジナリティの高いものでは無く、対策が簡単で、あまり広まらなかった。
  • 1995年、初のマクロウイルスであるMicrosoft WordをターゲットとしたConceptが作られた[24]
  • 1998年5月6日、Macintosh用のフリーのアンチウイルスソフトウェアDisinfectantが、急増したマクロウイルスに対応できないとして、バージョンアップを断念した[25]
  • 1998年9月、12年も前に起きたチェルノブイリ原子力発電所事故をヒントにしたともいわれるチェルノブイリが見つかった。

メール利用型ウイルスの登場

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  • 1999年1月20日、当時人気のソフトウェアOutlook ExpressInternet Explorerを利用したワーム、Happy99英語版が登場した。
  • 1999年3月26日、 Microsoft Outlookを利用したウイルスMelissaが登場した。このウイルスには多くの亜種が作られた。
  • 2000年、VBScriptで作られたウイルスLOVELETTERが発見された。これは非常に広まり、数時間で世界中に拡散した。
  • 2001年1月17日[26]LinuxRed Hat Linux)をターゲットにしたウイルス「Ramen」が見つかった。後、同じ感染機構を使い、バックドアを仕込む亜種も作られた[27]
  • 2001年、ターゲットユーザーに電子メールの添付ファイルを開かせることで、Microsoft Outlook[28]のアドレス帳登録のユーザーに拡散させることを目的としたウイルス、アンナ・クルニコワ英語版が見つかった。このウイルスの作者はオランダ人で、後に150時間の社会奉仕を命じられている[29]
  • 2001年3月22日[30]に見つかったL10n(「Lionウイルス」ともよばれる)ウイルスは、Linuxシステムに感染するウイルス。BIND DNSサーバーのバッファオーバーフローを利用して感染した。基本的な構造はRamenウイルスを元にしていると見られる。
  • 2001年5月8日、Sun SolarisMicrosoft IISの両方のセキュリティホールを狙えるワームエスアドミンディー英語版 が登場した。このワームはマシンのWebページを改竄する[17]
  • 2001年7月に見つかったサーカム英語版は、既知のセキュリティホールを利用したもので、メールシステムを利用して広がるだけでなく、ファイル共有を介しても感染した。
  • 2001年7月13日に見つかったCode Redは、Microsoft IISの脆弱性を利用した。8月4日にはこれを改良したCode Red IIが登場した。
  • 2001年9月18日に見つかったNimdaは、Microsoft IISの脆弱性[17]、電子メール、Code Red IIが作成したバックドアなど数多くの感染手段を持っていた。
  • 2001年10月26日に見つかったクレズ英語版はMicrosoft Internet Explorerのセキュリティホールを狙ったウイルスで、Outlook Expressではメールをプレビューしただけで感染した[17]
  • 2002年に発表されたBeast英語版は、ウィンドウズマシンをターゲットにしたトロイの木馬作成ツール。Delphiで作られた。
  • 2002年3月に見つかったMylife英語版は、マイクロソフトアウトルックをターゲットにメールで拡散するワーム[31]
  • 2003年1月24日に見つかったSQL Slammerは、Microsoft SQL Serverのセキュリティホールを狙ったワームで、動作は感染のみであったが、そのためもあって爆発的に広がり、多くのサーバーをダウンさせた[32]。また、発見から15分後には、インターネットそのものに大規模なネットワーク障害が発生した[33]
  • 2003年8月12日に見つかったBlaster英語版(別名Lovesan)は、Windows XPWindows 2000の脆弱性(TCPポート135番)を狙ったワームで、未対策のマシンはインターネットに接続するだけで感染した。
  • 2003年8月18日に見つかった Welchia英語版、別名Nachiは、Blasterの感染機構を参考にしたと思われるウイルス。Blasterを除去し、さらにBlaster対策用の修正パッチを勝手にダウンロードして適用し、さらには2004年に自分自身を無効とする機能も備えていた。ただし、ネットワーク負荷が高いという点ではBlasterと同様で、当時ICMPトラフィックが増大した[34]
  • 2003年8月19日に見つかったSobig英語版は、メールの添付ファイルを開くことで感染するタイプのウイルスで、ウイルス自身がメール送信機能を持っているため非常に広まった。ただし、目新しい技術は使われていなかった[35]。特に亜種のSobig.Fは、後にMyDoomウイルスが登場するまで「史上最悪」と呼ばれた[36]
  • 2003年8月[37]に発生したAntinnyは、ファイル共有ソフトWinnyなどをターゲットにしたウイルス。当初は偽のエラーメッセージを表示する程度だったが、後のバージョンで、デスクトップ画面のキャプチャ画像をアップしたり、パソコン内のファイルを勝手に共有フォルダに入れたりする機能が加えられた。このウイルスは、2005年10月にマイクロソフトが駆除ツールを発表した後も、感染パソコンの半分近い17万台が依然として感染したままだった[38]
  • 2003年11月10日[39]に見つかったAgobot英語版はウィンドウズの脆弱性を利用したウイルスで、IRCコントロール型のバックドアを仕込む[40]。ソースコードが出回ったため、いくつもの亜種が作られた。この作者は2004年5月に逮捕され、21歳の失業者だったと判明した[41]
  • 2004年1月18日に見つかった Bagle英語版は、メールの添付ファイルを開くと感染するタイプのウイルス。 メールの送信者を偽装する機能を持っていたため、欧米ではかなり流行した[42]。このウイルスは多くの亜種が作られた。日本でも感染例があったが、送られてくるメールのタイトルが英文だったため、欧米ほどには広まらなかった[43]
  • 2004年1月下旬に見つかったMyDoomは非常に速く広まり、一時はこのウイルスの送信がインターネット上のメールの1割近くを占め、Sobig.Fを越える過去最悪規模となった[36]
  • 2004年2月16日に見つかったNetsky英語版も非常に広まった。これはウイルス作者が、より多彩な感染機構を持ち、セキュリティソフトのウイルス定義ファイルをすり抜けるような亜種を次々に作り、リリースしたためでもあった。特に3月29日に見つかった「Netsky.Q」は、ウイルス対策ソフトの対応が遅れたため、非常に広まった[44]
  • 2004年3月19日に見つかったWitty英語版は、特定のセキュリティソフトを対象としたウイルス。コンピュータシステムを破壊する機能を持つ。一般にコンピュータウイルスは、感染速度と感染マシンに対する破壊力を両立するのが難しいとされるが、このウイルスは破壊的機能を持ちながらもわずか45分で世界中に感染したという驚異の感染力を持つ。例えば感染対象のIPアドレスをランダムに選んでいるため、ファイアーウォールの自動防御機能が働きにくかった。ただしワーム作者が感染対象を絞り込んでいたため、感染台数は1万2千台と少数だった[45]。このウイルスは最近のものにしては珍しく、アセンブラで作成されたと考えられている[46]
  • 2004年5月1日に見つかったSasserは、Microsoft Windowsの脆弱性を利用したワームで、作者は17歳の少年だった。このワームはコンピュータの性能を大きく低下させる他に、 MyDoom英語版Bagle英語版といった他のウイルスを除去した。
  • 2004年6月15日、携帯電話をターゲットとした初のワーム、Cabirが発見された。このワームはSymbian OSをターゲットにしたもので、無線通信Bluetoothを通じて感染する[47][48]
  • 2004年8月20日に見つかったVundo英語版はトロイの木馬で、自己増殖はしない。ブラウザの脆弱性を利用してウェブサイトを見ることで感染したり、マルウェアによってダウンロードされたりする。ポップアップの広告を表示する機能があった[49]
  • 2004年12月、ウェブを通じて感染する初のワームSantyが発見された。これはPhpBBの脆弱性を利用したもので、Googleを使って次のターゲットを見つける点も特徴的だった。これはGoogleが対策するまでの間、4万ものサイトに感染した。
  • 2005年3月に見つかったCommwarrior-A英語版は、携帯電話のマルチメディアメッセージングサービス(MMS)を狙った初のコンピュータウイルス[50]
  • 2005年5月10日に見つかった山田ウイルスは、日本の電子掲示板である2ちゃんねるを主に活動したウイルス。2ちゃんねるなどのリンクをクリックすることにより感染する。感染後、そのパソコンのデスクトップ画面を勝手にアップロードしたり、2ちゃんねるの掲示板に勝手に文字を書き加えたりした[51]
  • 2006年1月20日、アンチウイルスソフトを無効する能力を備えたワーム、Blackwormが発見された。
  • 2006年2月16日に見つかったLeap英語版は、2001年にリリースされたMac OS Xをターゲットとした初のウイルスだった[52]
  • 2006年3月末[53]に見つかったBrontok英語版は、マレーシアなどで非常に広まった[54]
  • 2006年9月に見つかったStration英語版 は、感染後、インターネットから改良版ウイルスを自動でダウンロードする機能を備えていた。このためパターンマッチングで検出するのが難しかった[55]
  • 2007年1月17日に見つかったStorm Worm英語版は、電子メールを通じてマイクロソフトのシステムに侵入するワーム。電子メールから直接感染するのではなく、電子メールに表示されたウェブサイトを閲覧することで感染する[56]。感染したコンピュータをStorm botnet英語版に組み込む。これは主にロシアで広まり、6月30」日には170万台が感染した。9月までには1千万台が感染したとも言われる[57]
  • 2007年7月に見つかった Zeus英語版はマイクロソフトウィンドウズシステムをターゲットにしたトロイの木馬作成ツール。Zeusで作られたマルウェアは「Zbot」と呼ばれ、銀行口座情報を盗もうとする。2008年頃から広まりだした[58]。(ツール作成自体は2006年と見られる[59]。)Zbotはブラウザに侵入すると、ネットバンクなどのサイトを装い、個人情報を入力させる。ただし単なるだまし画面ではなく、その個人情報を使って実際にネットバンク決済などを行うため、発覚がしにくかった[60]。Zeusは少なくとも当初は、このソフトの作者が金銭で売買していた[61]。2009年には15万台が感染している[58]。2010年、Zeusのソフト作成者はバージョンアップを断念し、ソースコードが別のマルウェア作成ソフトSpyEyeの作者に無償譲渡された[59]。2011年にはAndroid用の作成機能が付け加えられている[62]。2013年にはFacebookを通じての感染が広まり、問題となった[63]
  • 2008年5月に発見された「Rustock.C」は、ボットネットを利用したマルウェア。マイクロソフトのシステムをターゲットとする。ウイルス登場は2007年10月と見られ、数ヶ月にわたって発見されなかったことになる[64]
  • 2008年7月31日に見つかった Koobface英語版は、FacebookMyspaceの利用者をターゲットとしたマルウェア。「友人」からのメッセージを装い、動画を再生するよう即し、その際にEXEファイルを実行させて感染する[65]。多くの亜種が作られた[66]
  • 2008年11月21日、Microsoft Windows 2000Microsoft Windows 7ベータの脆弱性をターゲットにしたワーム、Confickerが発見され、9百万〜1500万台のサーバーシステムに影響を与えた。被害はフランス海軍[67]イギリス国防省[68]などにも及んだ。マイクロソフトはこのワームの作者逮捕の情報に対して25万ドルの賞金を付けた[69]。このワームには亜種も作られ、A〜Eの添字が付けられている。2008年12月16日に、この脆弱性を解決するパッチを公開している[70]

サイバーテロと政府によるマルウェア作成疑惑

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  • 2009年7月4日(アメリカ合衆国の独立記念日)、アメリカ合衆国と韓国に対して大規模なサイバーテロが仕掛けられた[71]2009年7月サイバーテロ英語版)。これは、電子メールを利用して広まったマルウェアの「W32.Dozer」がDDoS攻撃を仕掛ける仕組みだった[72]
  • 2010年1月に見つかったWaledac英語版は、感染したパソコンを スパムボットに変える。これは全世界数十万台のパソコンに感染し、1日当たり15億通のスパムメールの原因となった。マイクロソフトはバージニア州東地区の連邦裁判所と連携し、277個のドメインを遮断することで、これの抑え込みにある程度成功した[73]
  • 2010年2月18日、マルウェアのAlureonが発見された。これは、マイクロソフトが提供するパッチを当てた後、マシンがブルースクリーンとなる現象が発生し、この原因を突き止める過程で発見された[74]
  • 2010年6月17日[75]に発見されたスタックスネット(Stuxnet)は、コンピュータによる産業制御システムSCADAをターゲットにした初のワームである[76]。これは、元々はイランの核関連設備をターゲットにしたものとも言われている[77]。ニューヨーク・タイムズは2011年1月16日、イスラエルとアメリカ合衆国の共同開発であると報じている[78]。侵入方法はゼロデイアタック、つまりセキュリティホールが見つかった際、その修正プログラムが提供される前に素早く利用する方法だった[79]
  • 2010年9月9日に見つかったhere you have英語版は、「Here you have」というタイトルでメールを送り、ポルノサイトへの勧誘を装って「scr」の拡張子のファイルを開かせ、感染させる[80]
  • 2010年9月15日に発見されたKenzero英語版は、Winnyなどのファイル共有ソフトを通じて感染する。このウイルスは有用そうなソフトに擬装されており、感染すると実行者に個人情報を入力させる画面を表示し、入手した個人情報をメールで「国際著作権機構」を名乗る団体のウェブサイトに送信し、さらにそのウェブサイトから和解金と称した金銭振り込みを要求する。感染者数こそ5500名に過ぎなかったが、内661名が振り込み詐欺に応じてしまっている[81]
  • 2011年夏に見つかったMortoは、マイクロソフトウィンドウズのRemote Desktop Protocol(RDP)を利用して感染する。RDPを感染ルートに利用するウイルスはMortoが初めてとみられる[82]。Mortoは、RDPログインを許可しているウィンドウズサーバーを探し、そのサーバーのアドミニストレータアカウントにパスワード辞書を使ってパスワード破りを試みる[83]
  • 2011年秋に見つかったDuqu英語版は、特定の相手を攻撃するために作られたと思われるウイルスで、期間限定で動作して、期間終了後は自己消滅する機能を持つ。このため正体がなかなか分からなかったが、ブダペスト工科経済大学のチームが解明に成功し[84]スタックスネットと同じ作者によるものである可能性が高いと明らかになった[79]
  • 2012年5月29日に見つかったFlameは、中東の政府機関・研究機関をターゲットにしたと思われるマルウェア。ロシアのコンピュータセキュリティ会社、カスペルスキー・ラボ[85]CrySyS Lab英語版[86]などが発見した。このウイルスは何年も使われていたものとみられる。発見後すぐ、おそらくマルウェアを仕込んだ者によって、コンピューター上からの削除が試みられたと伝えられている[87]
  • 2012年8月16日に見つかったShamoon英語版は、中東のエネルギー関連施設をターゲットにしたとみられる別のマルウェア。ワークステーション3万台が攻撃を受けた[88]

脚注

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  1. ^ von Neumann, John (1966年). “Theory of self-reproducing automata”. June 12, 2010閲覧。
  2. ^ The Evolution of Viruses and Worms” (2004年). 2009年2月16日閲覧。
  3. ^ Deborah Russell, G. T. Gangemi (1991). Computer Security Basics. O'Reilly Media, Inc. p. 86. ISBN 9780937175712 
  4. ^ 高橋 正和 (2010). “情報セキュリティの課題と対応策”. サイエンティフィック・システム研究会. http://www.ssken.gr.jp/MAINSITE/download/newsletter/2009/20100120-stg-2/lecture-1/paper.pdf. 
  5. ^ Russell, Deborah; Gangemi, G T (1991). Computer Security Basics. O'Reilly. p. 86. ISBN 0-937175-71-4. https://books.google.co.jp/books?id=BtB1aBmLuLEC&printsec=frontcover&redir_esc=y&hl=ja 
  6. ^ Robin Wielputz (2007). Evolution! From Creeper to Storm. https://cosec.bit.uni-bonn.de/fileadmin/user_upload/teaching/07ws/malware/evolution_report.pdf. 
  7. ^ ANIMAL Source Code”. Fourmilab.ch (1996年8月13日). 2012年3月29日閲覧。
  8. ^ The Animal Episode”. Fourmilab.ch. 2012年3月29日閲覧。
  9. ^ 高橋正和 『「なめ猫」と、情報セキュリティの今昔』、2008年
  10. ^ Fred Cohen 1984 "Computer Viruses – Theory and Experiments"”. Eecs.umich.edu (1983年11月3日). 2012年3月29日閲覧。
  11. ^ Communication of the ACM, Vol. 27, No. 8, August 1984, pp. 761-763.
  12. ^ John Leyden (2006年1月19日). “PC virus celebrates 20th birthday”. 2013年6月27日閲覧。
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外部リンク

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