ゴロニオサウルス

ゴロニオサウルス
発見部位のダイアグラム
地質時代
後期白亜紀マーストリヒチアン, Maastrichtian
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
: 有鱗目 Squamata
: モササウルス科 Mosasauridae
亜科 : モササウルス亜科 Mosasaurinae
: ゴロニオサウルス属 Goronyosaurus
学名
Goronyosaurus
Azzaroli et al., 1972
シノニム
  • Mosasaurus nigeriensis (Swinton, 1930)
  • G. nigeriensis (Swinton, 1930)(タイプ種)

ゴロニオサウルス学名: Goronyosaurus)は、モササウルス科に属する海生のトカゲの絶滅した属。ゴロニオサウルスの化石はニジェールナイジェリアの Dukamaje 累層から特に産出しており、時代は後期白亜紀マーストリヒチアン期にあたる。化石はまず1930年代にモササウルス・ニジェーリエンシス (Mosasaurus nigeriensis) として記載されたが、極めて特異的な適応を示した化石が発見され、1972年に新属ゴロニオサウルスの唯一の種として再分類された。ゴロニオサウルスが示す適応はモササウルス科に分類するには難しく、系統解析で本属は除外されることが多い。

ゴロニオサウルスの歯は特異的であり、他のモササウルス科爬虫類と特徴を異とする。モササウルス科の間では切断用の歯が一般的であるが、ゴロニオサウルスの歯は食料の破砕に適した丸い頂点を持ち、かつ真っ直ぐである。

発見と命名

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保存されたホロタイプの頭骨

ナイジェリア北西部初のモササウルス科化石はフランツ・ノプシャが1925年に言及し、1930年にW・E・スウィントンがより完全に記載した。骨格要素は乖離した椎骨、1本の大腿骨下顎骨断片と歯が知られており、スウィントンはこれを新種モササウルス・ニジェーリエンシスとして記載・命名した。1970年代には、イタリアフィレンツェから研究チームが Dukamaje 累層へ遠征し、地層の露出した複数の産地が調査された。さらなる椎骨や上腕骨断片、部分的な骨盤、下顎骨の一部と頭蓋後方を欠いたほぼ完全な頭骨が発見された。ナイジェリアの同地域の同一層準から発見され、さらに大きさと解剖学的特徴が類似するため、これらの新たな標本は Augusto Azzarolli によりモササウルス・ニジェーリエンシスと判断された[1]

新たな骨格要素の記載の間に、モササウルス属との重大な相違点があることが判明し、Azzarolli らはこの化石のために新属ゴロニオサウルスを命名した。属名は化石が発見されたナイジェリアのゴロニオ地方に由来する。新たに発見された化石の頭骨 N.G.1 はゴロニオサウルス属のネオタイプに選ばれた。ゴロニオサウルス属には、明らかに巨大な3体の標本を除いて、かつてモササウルス属とされた全ての標本が割り当てられた。全ての骨格要素のキャストはフィレンツェ大学地質古生物学博物館に所蔵されている[1]

形態

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ゴロニオサウルスとヒトの大きさ比較

ゴロニオサウルスは小型のモササウルス類であり、Soilar (1988) では全長5.14メートルで復元されている。かつては全長7.8メートルと推定されていたが、これは基準とした頭部と全身の比率が誤っていると Soliar は断定した。全長の9.1% が頭部であるという比率はティロサウルス亜科と大きく異なっており、ティロサウルス亜科では全長に対する頭部の比率は 13.8% である[2]

頭骨

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ゴロニオサウルスの頭骨の大部分は大きく潰れて変形してはいるものの、骨格に保存されている。頭骨全体は他のモササウルス科爬虫類よりも細長く、完全な頭骨長は71センチメートル、幅はわずか11.2センチメートルと推定されている。この6.31:1という比率は他のモササウルス科爬虫類では Tylosaurus nepaeolicus (6.18:1) に近く、次いでプレシオティロサウルス (5.64:1) と Tylosaurus proriger (5.3:1) に近い[2]

復元された頭骨

前上顎骨上顎骨鼻骨の吻の骨は歪んで外側に平坦化している。前上顎骨歯は強健で、前方の歯の大半は吻の始まりの直後に位置する。大型の神経孔が前上顎骨の組の背側表面に位置する。モササウルス科には珍しく、上顎骨が眼窩正面の後方に伸びる。破損のため上顎骨に正確に何本の歯が存在したかは不明だが、約11本であると考えられている。鼻骨は外鼻孔の間で突出しており、頑強である。鼻骨の幅は長さとほぼ同等で、表面には起伏が多く、これはティロサウルス亜科と同様である。外鼻孔は比較的小型で後方に位置する[2]。吻部は細く、水の抵抗を軽減していた[3]

頬骨に関して Soliar (1988) では大きく議論されており、これは既知のドノモササウルス科の形態とも完全に異なるからである。Azzaroli et al. (1972) では、ゴロニオサウルスの頬骨が極端に長く高く、他の鱗竜類における薄く細長い頬骨と対照的であることが指摘されている。Azzaroli が提唱した機能的意味は、そのような適応の先例がないため1988年に Soliar が否定した。頬骨の正体は Halstead & Middleton (1982) で疑念をかけられ、Soliar (1988) は Azzaroli らが頬骨として発表した部位は頬骨と下顎の烏喙状突起が化石化の過程で結合した物であると提唱した。真の頬骨は厚さ約19ミリメートルにすぎず、リオドンの解剖学的特徴と類似する[2]

ホロタイプの頭骨後部の大部分は潰れているか破損している。頑強な構造をした頭頂骨は非常に狭く、前頭骨との関節は非常に複雑であったと推察されるが破損している。前頭骨は三角形で、外鼻孔間の骨と強固に関節する。前前頭骨は著しく潰れて元の関節から大きく歪んでしまっているが、生きていた頃にはティロサウルスと同様の位置にあった。前頭骨は前前頭骨に阻まれて眼窩形成に関与していない[2]

生体復元

口蓋の翼状骨には他のモササウルス科と同様の歯が並ぶ。翼状骨の2つの主要な突起は細長い形状ゆえに破損しているが、関連する分類群のものに類似していたと推測される。外翼状骨と関節する翼状骨の突起はティロサウルスのものと似ており、垂直方向に平たく、大きく又状に分かれる[2]

一般的にゴロニオサウルスの後頭部部位の保存状態は良くない。後頭部は狭く、ティロサウルス亜科の特徴を持つだけでなく、上後頭骨の形態が特異的である。上後頭骨が平たい他の分類群と異なり、ゴロニオサウルスでは正中線を横切って明瞭な溝が走る。基蝶形骨の側面は異様に急勾配であり、翼状管は湾曲せず、これは通常翼状管を覆う薄い骨の板が破損したからであると思われる。これらの特徴はプリオプラテカルプスの特徴と比較されている一方で、細長さはティロサウルスの方が近い[2]

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特異的な解剖学的特徴ゆえにゴロニオサウルスに割り当てられた乖離した歯が、ナイジェリア中の白亜系の層から発見されている。これらの歯は多形性の先細りを見せ、歯冠は歯列の後方になるほど大きくなる。これらの歯は溝を持たないという点を除けば、他のモササウルス科から除外されるゴロニオサウルスの形態に合致している。歯骨の正面に由来する歯はわずかに後方のものよりも大きいが、わずかに後方に湾曲している。中央の歯は非常に大きい切断縁を持ち、非常に多様な厚さのエナメル質に覆われている[4]

また、歯と歯の間隔が広いことも特徴の1つである。これにより、上下の歯が確実に噛み合うことが可能となっていた[3]

軸骨格

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環椎軸椎は発見されていないが、他の複数の頸椎は首の周囲に保存されている。神経棘は太く、椎弓突起[5]はよく発達しているが、神経弓と椎骨の関節は存在しない。頚肋と関節する突起は首の後方ほど顕著になる。背中周辺には複数の脊椎が発見されており、椎体は円筒形として始まるが、骨盤に近づくにつれ平らになる。神経弓はどの脊椎にも保存されていない。椎弓突起は頸椎のものと違って小さいが、関節はやはり存在しない。側方の突起はわずかに前側と背側を向き、骨盤方向にはあまり卓越しない[6]

分類

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特異な特徴ゆえ、ゴロニオサウルスを分類することは難しく、大半の系統解析からは除外されている。ゴロニオサウルスは元々自身の亜科であるゴロニオサウルス亜科に分類されていたが、これは誤りと判明した頬骨の特徴に基づくものであった。Soliar は1988年にゴロニオサウルスを頭蓋だけの特徴に基づいてティロサウルス亜科に位置付けた。モササウルス亜科はモササウルス属だけに崩壊したため、モササウルス亜科内でのゴロニオサウルスとの関係性は確かめられなかった[2]。しかし、ティロサウルス亜科に位置付けることも必ずしも正しくはない。2010年に行われたオオトカゲ下目の包括的解析では、モササウルス亜科に置かれたプログナトドンプレシオティロサウルスおよびエクテノサウルスとともにモササウルス亜科を形成した。現生種・化石種の形態学的特徴の解析結果のうち、モササウルス科に関する部分のみ以下に示す[7]。プログナトドン族とモササウルス族の位置付けは Russell (1967) に従う[8]

首長竜の幼体を狩るゴロニオサウルス
モササウルス科
ハリサウルス亜科

Eonatator sternbergii

Halisaurus arambourgi

Halisaurus platyspondylus

ルッセロサウルス類

Plioplatecarpus primaevus

Platecarpus tympaniticus

ティロサウルス亜科

Lakumasaurus antarcticus

Taniwhasaurus oweni

Tylosaurus proriger

Tylosaurus nepaeolicus

Hainosaurus bernardi

モササウルス亜科
プログナトドン族

Ectenosaurus clidastoides

Goronyosaurus nigeriensis

Plesiotylosaurus crassidens

Prognathodon solvayi

Prognathodon overtoni

モササウルス族

Clidastes liodontus

Globidens alabamaensis

Mosasaurus hoffmanni

Mosasaurus lemonnieri

Moanasaurus mangahouangae

Plotosaurus bennisoni

Plotosaurus tuckeri

ゴロニオサウルスとプログナトドンおよびモササウルス族の他の分岐は、外鼻孔の境界を前頭骨が作らないことと、関節窩の裏側に上腕骨が鉤状の突起を持つことの2つの特徴でまとめられている[7]。2010年の解析の早期版では、モササウルス科のより典型的な系統が発見され、ゴロニオサウルスは派生的なモササウルス亜科のプロトサウルスに近縁で、プリオプラテカルプス亜科エクテノサウルスプログナトドン(後者は通例モササウルス亜科に分類される)を含むとされた[9][7]。ゴロニオサウルスとプロトサウルスは以下の特徴でまとめられた[9]

  • 前上顎骨の非常に前方に歯が存在する。
  • 歯列が眼窩の後側まで伸びる。
  • 上顎骨が正面で接触する。
  • 頭蓋天井と上側頭弓骨の接触が分岐しない。
  • 翼状管が後方へ位置する。
  • 椎弓突起の関節が存在しない。
  • 上腕骨の三角筋稜と胸筋稜が完全に分離する。

古生物学

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食性

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ゴロニオサウルスはモササウルス科の中でも特異的な形態の歯を持つ。切断用の歯を持つモササウルス科の多数派とは異なり、ゴロニオサウルスの歯は真っ直ぐで、頂点は丸みを帯びて食料の破砕に向いていた。これは、切断用の歯を持つモササウルス科爬虫類やワニ首長竜といった大型の捕食動物と競合していた可能性を意味している[10]。現在のワニが淡水域で行うように、海辺に接近した動物を襲った可能性もある[3]

出典

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  1. ^ a b Azzaroli, A.; De Guili, C.; Ficcarelli, G.; Torre, D. (1972). “An aberrant Mosasaur from the Upper Cretaceous of North-Western Nigeria”. Atti della Accademia Nazionale dei Lincei. Rendiconti. Classe di Scienze Fisiche, Matematiche e Naturali series 8 52 (3): 398–402. 
  2. ^ a b c d e f g h Soliar, T. (1988). “The mosasaur Goronyosaurus from the Upper Cretaceous of Sokoto State, Nigeria”. Palaeontology 31 (3): 747–762. http://cdn.palass.org/publications/palaeontology/volume_31/pdf/vol31_part3_pp747-762.pdf. 
  3. ^ a b c 土屋健『海洋生命5億年史 サメ帝国の逆襲』田中源吾・冨田武照・小西卓哉・田中嘉寛(監修)、文藝春秋、2018年7月20日、136頁。ASIN 4163908749ISBN 4163908749NCID BB26567419OCLC 1050222541全国書誌番号:23092762 
  4. ^ Michaut, M. (2013) (PDF). Mosasaures du Maastrichtien au sud du Niger. pp. 1–75. https://hal.archives-ouvertes.fr/hal-01063581/document. 
  5. ^ 中村健児疋田努、松井正文『動物系統分類学』 第9巻 下 B1、内田亨・山田真弓(監修)、中山書店〈脊椎動物 2b1 爬虫類 1〉、1988年7月、88頁。ASIN 4521071910doi:10.11501/1383851ISBN 978-4-521-07191-6NCID BN02394478OCLC 673760002全国書誌番号:88047838 
  6. ^ Azzarolli, A.; De Guili, C.; Ficcarelli, G.; Torre, D. (1975). “Late Cretaceous mosasaurs from the Sokoto District, Nigeria”. Atti della Accademia Nazionale dei Lincei. Memorie de la Classe di Scienze Fisiche, Matematiche e Naturali. Sezione 2. Fisica, Chimica Geologia, Paleontologia e Mineralogia. series 8 13 (2): 21–34. 
  7. ^ a b c Conrad, J.L.; Ast, J.C.; Montanari, S.; Norell, M.A. (2010). “A combined evidence phylogenetic analysis of Anguimorpha (Reptilia: Squamata)”. Cladistics 27 (3). doi:10.1111/j.1096-0031.2010.00330.x. ISSN 0748-3007. https://www.academia.edu/386721/A_Combined_Evidence_Phylogenetic_Analysis_of_Anguimorpha_Reptilia_Squamata_. 
  8. ^ Russell, D.A. (1967). “Systematics and Morphology of American Mosasaurs” (PDF). Bulletin of the Peabody Museum of Natural History 23: 1–241. http://peabody.yale.edu/sites/default/files/documents/scientific-publications/ypmB23_1967.pdf. 
  9. ^ a b Conrad, J.L. (2008). “Phylogeny and systematics of Squamata (Reptilia) based on morphology”. Bulletin of the American Museum of Natural History (310): 1–182. doi:10.1206/310.1. ISSN 0003-0090. 
  10. ^ Ross, M.R. (2009). “Charting the Late Cretaceous seas: Mosasaur richness and morphological diversity” (PDF). Journal of Vertebrate Paleontology 29 (2): 409–416. doi:10.1671/039.029.0212. http://digitalcommons.liberty.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1114&context=bio_chem_fac_pubs.