シノカリオプテリクス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ホロタイプ標本
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地質時代 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
白亜紀前期 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Sinocalliopteryx Ji et al., 2007 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
種 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
シノカリオプテリクス(Sinocalliopteryx "中国の美しい羽毛"の意味)は中国の義県累層(尖山溝層、1億2460万年前)の地層から発見されたコンプソグナトゥス科の肉食獣脚類恐竜の属である。
近縁のファシャグナトゥスに似ているが、シノカリオプテリクスの方が大きい。タイプ標本では体長2.37 mで、2007年の時点では既知で最大のコンプソグナトゥス科の種であった。2012年にはさらに大きな標本が報告されている。
シノカリオプテリクスは二足歩行の捕食者である。ホロタイプ標本に保存されていた長さは237 cmであった。グレゴリー・ポールの2010年の推定によれば体重は20 kg[1] 。 シノカリオプテリクスは腕に対して相対的に長い手により、ファシャグナトゥスなどの他のコンプソグナトゥス科の種と識別される。腕と後肢は他の全てのコンプソグナトゥス科の種より長く、おそらく体の大きさと関連する特徴であろう[2]。
シノカリオプテリクスは吻部の尖った細長い頭骨を持ち、上から見ると凸形な輪郭をしていた。小さいが前の縁に非常に小歯状突起のある4本の前上顎骨歯を持っていた。ホロタイプ標本ではより大きな歯が6本だけ上顎骨に保存されていたが、位置の番号は十分に決定されていない。標本CAGS-IG-T1では損傷による2本分以上の空きともに10本分の歯槽が上顎骨に保存されていた。頬骨は頑丈で、上方に突出した前方の分岐を持ち、眼窩の前下端部分を構成していた。外下顎窓がなかった[2][3]。
脊椎は11個の頸椎、12個の胴椎、5個の仙椎、および少なくとも49個の尾椎で構成されていたとみられる。尾の先端は失われている。尾の神経棘と血道弓骨は後に傾斜している。腹肋骨は非常に短い横方向の節を持っていた[2]。
腕においては、上腕骨が短く、下腕も短く華奢で、尺骨には上端後部の肘頭突起があまり発達していなかった。手は非常に細長く、尺骨と上腕を合わせたほどの長さがあった。第2中手骨は第1中手骨の側の上部に拡張していて、中手骨全体がコンパクトになっていた。第2指は細長く、第一指(親指)と同じ位の長さであった。第3中手骨は比較的短く、細い第3指がついていた[2]。
骨盤では腸骨の前の縁に小さな切痕があった。坐骨は骨幹が比較的長く、下方に曲がっていた。脛が長く、大腿骨の90%ほどの長さがあったので、後肢は細長く、大きかった。足も長く、特に中足骨が長かった[2]。
義県累層のほかの獣脚類と同じように、シノカリオプテリクスには「原羽毛」とよばれる単純な糸状の外皮(毛に似た構造の皮膚が変化したもの)が保存されていて、シノサウロプテリクスで見られるものととてもよく似ていた。シノカリオプテリクスの外皮は体の各部で長さが異なり、臀部から太腿の後部、尾の基部を覆う原羽毛が最も長い。最長の原羽毛の長さは10 cmほどである。興味深いことに、原羽毛は中足骨(足の上部)からも見つかる。この原羽毛はミクロラプトルやペドペンナといった「4つの翼」の恐竜の羽毛ほどは長くも進歩的でもないが、足の羽毛やこれにた構造のものが初めて出現したのが今まで知られてよりはるかに系統的には原始的な恐竜からであったことを強く示唆する[2]。
タイプ種であるSinocalliopteryx gigasは2007年に、姬書安、季強、呂君昌、および袁崇喜により命名・記載された。属名はラテン語で「中国」を意味するSinae、ギリシャ語で「美しい」を意味するκαλός, kalos、羽を意味するπτέρυξ, pteryxから派生している。シノカリオプテリクスはコンプソグトゥス科としては巨大であるので、種小名は「巨大な」を意味するgigasとした。 [2]。
ホロタイプ標本である JMP-V-05-8-01は遼寧省、四合屯村、恒道子の義県累層、尖山溝層のバーレミアン-アプチアン、約1億2500万年前の地層から発見された。この標本は頭骨を含むほぼ完全に近い骨格で構成され、平板状につぶされていて、成体の個体のものである。原羽毛の痕跡が広範にわたって保存されている[2]。
2012年に第2の標本であるCAGS-IG-T1が記載された。この標本はホロタイプのものより大きな個体のものである。頭骨は10%ほど大きく、10 cmほどの差は正のアロメトリーで説明される。この標本は頭骨、尾、前肢、後肢、胸郭の部分的な骨格で構成される。尾には糸状のものも見られる[3]。
シノカリオプテリクスは原記載ではコンプソグトゥス科であるとされている[2]。
ここに示すクラドグラムはdal Dasso&Maganuco(2011)に従いコンプソグナトゥス科でのシノカリオプテリクスの位置を示したものである[4]。
Tyrannoraptora |
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近縁種と比較してシノカリオプテリクスのサイズが大きいことは特筆すべきことで、他の恐竜の系統で大型化傾向が見られるように、コンプソグナトゥス科(他の大型獣脚類に比べサイズの小さな恐竜として知られているが)でも大型化傾向があったことを示しているのかもしれない。[2]
保存状態の良いホロタイプ標本には腹部の空洞にドロマエオサウルス科の脚の一部が含まれており、脛、足首、踵、鉤爪が自然な位置で関節状態のまま保存されていた[3]。この脚は30 cmほどあり、シノカリオプテリクスの腹腔に対しては非常に大きいものの、明らかに肋骨の間に位置していた。2007年、季らはこれはより小さな鳥に似た恐竜を狩っていたこと示唆するものだとした。この発見は特に他のコンプソグナトゥス科の種で腹腔内から(すばしこいとみられる)トカゲや小型哺乳類が見つかるのと同じように、シノカリオプテリクスが俊敏で、活動的な獰猛なハンターであったことを示す[2]。2012年、このドロマエオサウルス科の種は仮に体長1.2 mほどのシノルニトサウルスであると同定された。2012年の研究では新たに動物を狩っていた痕跡の発見が報告された。ドロマエオサウルス類の脚の上には羽毛が見て取れる。また下側には2つの消化物の塊が見られる。これは羽が鳥のもので、胃の中に脚とともにまだ存在していたことを示す。スキピオスクスの消化管に保存されていたものを参考に考えると、消化された食物は十二指腸に位置していたもののようだ[3]。
ドロマエオサウルス類の脚に加えて、不規則な形状で直径15-20 mmほどの石が腹部から発見された、この石と同様の形状の石は骨格内や、周囲の岩盤の他のどこからも見つかっていない。季らはこれらをンクウェバサウルス(en)やバリオニクスで見つかった同様のものと同じ胃石だと解釈した。カウディプテリクスやモンゴルのオルニトミムス類のような他の獣脚類でも同様に胃石が見つかるが、これらの場合には石がはるかに多く、小さい。季らはおそらく後者は草食恐竜であったため、胃石の大きさと数は食性と対応しているのではないとしている;肉食動物は、消化を助けるために少数の大きな石を摂取するが、草食動物は、多くの小さな石を摂取する必要があるのだろう[2]。しかし、2012年の研究では、第二の標本には全く胃石が見つからず、タイプ標本の石は偶然に飲み込まれたものだと結論づけられた。いずれの場合しろ、特に砂嚢にあたるものはなかったようだ[3]。
第2の標本CAGS-IG-T1にはいくつかの餌の痕跡が保存されていた。坐骨の下部前方に関節状態に無い骨が見つかり、この地層ではとてもよく見つかる、原始的な鳥類である孔子鳥の2個体のものであると同定されている。また、13.5 cmの肩甲骨が発見されており、体長1.5 mほどの草食の鳥盤類、おそらくユエオサウルス(en)もしくはプシッタコサウルスのものであろう。この肩甲骨の表面は13日ほど胃酸で溶かされたようで、孔子鳥は立て続けに飲み込まれたものだと結論された。これは定期的に食事をとる必要があるほど、シノカリオプテリクスは代謝率が高かったようだ [3]。
第2の標本で短期間に2羽の鳥を捕獲していたことと、ホロタイプで胃の中に鳥の羽毛があったことから、シノカリオプテリクスはこういった鳥の狩りに特化していたことがうかがえる。この食性パターンは季らが考えたようにシノカリオプテリクスは飛べたとではないかということとも合致する。2011年にはミクロラプトルの標本の胃の中から鳥の化石が報告され、ミクロラプトルが樹上生であったことの証拠とみなされている。しかし、2012年の研究ではシノカリオプテリクスは全くの走行性、もしくは地上性であり、飛んでいる獲物を狩ることが出来たこととの関連性は否定されている。例えば、現在の多くの走行性の捕食者が家禽類を襲うときのように、忍び足で近づいて捕食した可能性もある[3]。