種類 | 艦隊防空ミサイル |
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製造国 | イギリス |
性能諸元 | |
ミサイル直径 | 41.91 cm[1] |
ミサイル全長 | 4.37 m[1] |
ミサイル翼幅 | 91.44 cm[1] |
ミサイル重量 | 1,200 lb (540 kg)[1] |
弾頭 | 連続ロッド式 (HE 22.7 kg)[1] |
射程 | 40 nmi (74 km)[1](Mod 0)、80 nmi (150 km)(Mod 2) |
射高 | 30~18,000 m[1] |
推進方式 |
ブースター: 固体燃料ロケット サステナー: ラムジェット |
誘導方式 | セミアクティブ・レーダー・ホーミング (SARH) |
飛翔速度 |
760 m/s (低高度)[2] 880 m/s (高高度)[2] |
シーダートは、イギリスの艦隊防空ミサイル・システム。システム区分はGWS.30[1]。
第二次世界大戦末ごろより、イギリス海軍はフリゲート用の誘導ミサイルの開発に着手していた。今後増大が予想される対艦ミサイル脅威には艦対空ミサイルでなければ対処できないと見積もられたことから、このミサイルは、航空機だけでなく、対艦ミサイル防御(ASMD)も想定したものとされていた。当初はBEN、1946年にはロングショット、1947年にはポップシー(Popsy)と、順次に計画が改訂されていった。しかし当時、軍需省のミサイル開発部門は、シースラグなど、既に着手されていた開発計画で忙殺されており、余力がなかったため、1948年9月には幕僚要求事項から削除された[2]。
ポップシーのかわりに、70口径76mm連装砲によるDACR(direct action close range)による対艦ミサイル防御も検討されたものの、やはり性能的に不十分であった。このため、小規模な作業グループが組織されて検討が継続され、1949年4月1日にはポップシーの有効性を裏付ける答申がなされた。しかし依然として国内で開発できる見込みが立たなかったことから、アメリカ合衆国との共同開発が志向され、1950年7月には調査団が派米された。英米共同開発としてのモップシー(Mopsy)は、アメリカ海軍では結局採用されなかったものの、ターターに影響を与えたという説もある。またマサチューセッツ工科大学がAAM-N-5ミーティア向けに開発していたナロービーム連続波誘導装置の技術供与を受けられたのは大きな収穫であった[2]。
その後、シースラグの開発が一段落したのを受けて、再びイギリス単独での計画として、1954年にはポップシーを引き継ぐかたちでオレンジネル(Orange Nell)がスタートした。1956年に正式な幕僚要求事項(GD 45)が策定されたのち、計画はしばらく停滞気味だったが、1958年の艦隊要件委員会の提言で、ミサイル非装備のフリゲートは10年以内に陳腐化するとの見通しが示されたことから、再び加速されることになった。アメリカのターターの導入も検討されたものの、将来発展性の不安と高価さから棄却され、1960年より、小型艦用誘導兵器(Small Ship Guided Weapon, SIGS)の計画が着手された。この計画では、ブリストル社のCF 299ミサイルと、同社のレイピアを発展させたPT 428ミサイルが検討され、前者が採択された[2]。1962年にはシーダートと改称し、1967年11月より生産に入った[1]。
ミサイルの誘導方式はセミアクティブ・レーダー・ホーミング(SARH)を採用した。ミサイル側のアンテナとしては、一般的なパラボラアンテナではなく、アメリカのタロスと同様に、ポリロッド・アンテナ4本をエアインテーク周囲に配置する方式とした[2]。また艦上の火器管制レーダーとしては909型が搭載された[1]。
エンジンには、ブースターとして固体燃料ロケット、サステナーとしてラムジェットを搭載した。速度は、低高度で2,500 ft/s (760 m/s)、高高度では2,900 ft/s (880 m/s)に達した[1]。
ミサイルの発射には連装発射機が使われる。この発射機は40発を収容する弾庫と一体化しているが、フォークランド紛争においては、その防火ドアの閉鎖に不具合があったことが報告され、のちに改修が加えられている。なお、このミサイルは限定的ながら対艦攻撃も可能なため、42型駆逐艦は敢えて対艦ミサイルを搭載しなかったという。
シーダート・ミサイル・システムは、就役から9年後のフォークランド紛争で初めて実戦の洗礼を受けた。この際、シーダートは7機の確実な撃墜を記録している[注 1]。偵察のため、高高度から接近してきたリアジェットとの交戦では、従来知られていた有効射程外で撃墜を達成した。また、アルゼンチン軍航空隊による攻撃に対しては、イギリス海軍空母搭載のシーハリアー戦闘機が不利となる高高度での応戦を担当し、2機のスカイホーク攻撃機、1機のピューマヘリコプター、1機のキャンベラ爆撃機を撃墜している。
その一方、極めて優れた低空侵入能力を示したアルゼンチン軍航空隊に対して、シーダート・ミサイルは必ずしも優秀ではなかった。シーダート・ミサイルによって艦隊防空を行なうはずの42型駆逐艦は、より短射程だが優れた追随能力を有するシー・ウルフ艦対空ミサイルを搭載したフリゲートによって護衛される必要があった。実際、フォークランド紛争においては、本システムを搭載した42型駆逐艦のうちの「シェフィールド」と「コヴェントリー」の2隻が、アルゼンチン軍の航空攻撃によって戦没している。
フォークランド紛争ののち、シーダート・ミサイル・システムは、数次にわたる改良を受け、この紛争で明らかになった問題点を是正した。これにより、本ミサイル・システムは、西側諸国でも屈指の中距離艦対空ミサイル・システムとなったのである。
そのことを証明したのが、湾岸戦争中の1991年2月に発生した戦闘であった。このとき、シーダート・ミサイル・システムを搭載したイギリス海軍の駆逐艦「グロスター (D96)」は、アメリカ海軍のオリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲート「ジャレット (FFG-33) 」とともに、イラク沿岸に対する砲撃を実施する戦艦「ミズーリ (BB-63)」を護衛して、イラク沿岸域で作戦行動中であった。
イラク軍は、この戦隊に対してHY-2対艦ミサイル2発を発射した。戦隊はただちに対応行動に入り、チャフを発射すると共に電子妨害を実施、これにより、HY-2のうち1発は海に着弾した。しかしチャフの展開により、ミサイルを迎撃するために作動状態に入ったジャレット搭載のファランクスCIWSが誤作動を起こし、「ミズーリ」に対して数発を発砲、水兵1名が負傷した。
一方、「グロスター (D96)」はシーダート・ミサイル2発を発射し、依然として飛翔中であった残るHY-2ミサイル1発を成功裏に撃墜した。これは、世界のいかなる艦対空ミサイルとしても、初めての対ミサイル迎撃のスコアとされる[3][注 2]。
搭載されていた42型駆逐艦は旧式化し、後継の45型駆逐艦と交替し退役した。45型駆逐艦は対空ミサイル・システムとしてPAAMSを搭載しており、これがシーダート・システムの後継となる。
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