タミル料理 (タミルりょうり) はタミル人に固有の料理で、地域的にはインドのタミル・ナードゥ州のほかスリランカでは特に北部と東部地方に見られる。さらに行政区分を越え、タミル語を話す人々がコミュニティを形成するインドのカルナータカ州、ケーララ州およびアーンドラ・プラデーシュ州、シンガポール、マレーシア、インドネシアでも提供される。
インドでは多くの地域でごくまれにしか定着していないが、タミル・ナードゥ州の人々は他の人に食べ物を提供することは人への奉仕であると深く信じている[1]。郷土料理にはベジタリアンと肉食 (非ベジタリアン (en))の両方の料理のレパートリーが豊富である。材料では米と豆類、なかでもレンズ豆がよく使われ、さまざまなスパイスをブレンドして風味を付ける。野菜と乳製品は欠かせず、酸味料ではタマリンドが好まれる。
イドゥリ (南インド式の朝食) や行事にはタミル伝統料理を丁寧に手をかけて調理し、伝統的な配膳方法で供する。食事のマナーにも決まりがあり、宴卓代わりに床にバナナの葉を敷いて料理を並べ、食事は床に座って右手のきれいな指のみ使って食べ物を口に運ぶ。指は食後に洗い、バナナの葉は牛の餌にする。朝食は通常、ドーサか炊いた米のいずれかを主食に、副食としてサンバールとラッサムを添え、昼食には乳製品を食する。
日常的な食事を「サッパドゥ」と呼び、バナナの葉を敷いて炊いた米と一般的なタミル料理のおかずを盛り、さまざまな調味料を並べ自分の好みに風味をととのえながら食べる。食後には普通、デザート (ふだんはパーヤサム Paayasam) [注 1]を出し、コーヒーか紅茶を添える[2]。
おめでたいことがあったとき招待したゲストと分け合って食べるごちそうを「ヴィルンドゥ」という。祭りや特別な儀式食は炊いた米や米料理 (トマトライスなど) と汁物が必ず整えられ、ダルやレンズ豆のシチュー (サンバール) あるいはココナッツまたはダルのスパイシーなシチュー (カラ・クザンブ)、タマリンドとハーブや香辛料のシチュー (ラッサム) を基準に次のような副菜を並べる。食後には消化を助けるとして、ビンロウジと石灰のペーストをバナナかキンマの葉で巻き、供される。
正式には招待客を床に広げた椰子のフロアマットの上に座らせ、バナナの葉を敷いて宴会料理でもてなした。現在は同じ種類のメニューを西洋式のディナーテーブルで供することが多く、バナナの葉をテーブルマットのように使う。その敷き方は、上下の幅の中心を葉の茎が通るようにして、幅が狭い端を招待客の左、反対端を右にする。洗った葉を敷くものの、宴の主人の礼儀として食事の前に葉に水を振る。バナナの葉は、茎を境に上半分は副菜、下半分は米飯を置く決まりで、食事をする指に近い右下部分はデザートとして、牛乳で炊いた温かくて甘いパヤサムほか、ケサリ、甘く味付けしたポンガル Pongal などを配する。左上は塩味の調味料として塩ひとつまみ、ピクルス少々、一口分のサラダまたはチャツネなど。葉の中央はバナナかヤム芋かじゃがいもの輪切りをフライにしたり、豆や米粉を薄く伸ばしてぱりっと揚げたパーパドまたはワッフル状のアルナのパーパド (アッパラム Appalam) とバーダ など穀類の揚げ物を適宜、盛り付ける。 右上の角はスパイスの効いた食品としてカレーや唐辛子の辛味、酸味と甘味も香辛料に数え、あるいは汁気のないものを置くと決まっている。
タミル人が定住した地域はそれぞれ固有の郷土料理に加えて、独自の地方料理を作りだした。さらに古代タミラカムの版図に属した4つの地域によって、タミル料理のバラエティーがある。
タミル・ナードゥ州から隣接する旧ポンディシェリ連邦直轄領にわたるチョーラ・ナードゥ地方 (Chola Nadu) 地方に特徴的な料理がある。クンバコナム特別市 (Kumbhakonam) とその周辺の地方である。
チョーラ・ナードゥ料理として著名な地域の伝統料理は菜食と非菜食に対応し、クンバコナム風カダッパ Kumbhakonam Kadappa、タヴァライのバーダ Thavalai vadai、アダイの炒め物 Adai Aviyalなど、またハーブを多用する「おばあちゃん流」パティ・ワティヤムが知られている。この料理を味わうにはベパサー Veppathur のリゾート Mantra Koodam に足を延ばすとよい。周辺の村々の伝統のレシピを凝縮している。ベジタリアン料理はほとんどタミル系ヒンズー教徒の聖職者カーストであるアイヤル (ブラフマン) 社会が食べ継いで来たもので、地元のクンバコナム地区には非菜食料理としてパニヤール Panniyar の伝統料理もある。
チョーラナードゥ州の料理の特徴は収量が多い米を使う点にあり、このチダンバラム地域 Chidambaram からクンバコナム、タンジョーレ地域などにかけて、最もよく知られたメニューがセヴァイという米の細麺 (Sevai) である。チャツネやホストス khostus を使いさまざまな味付けで楽しむ。
キビの品種も多くクレープ状のドーサ kutharai valli dosai ほか、料理の種類もとても豊かである。
チェティナード地域はカライクディ Karaikudi と隣接地域で構成され、いずれも菜食の伝統料理と非菜食料理があり、代表的な菜食料理はイディアッパム idiyappam、ウタパパム uthappam、パニヤラム paniyaramなどが知られる。
ナンジルナードゥ Nanjilnadu の郷土料理は、南インドのタミル・ナードゥ州最南端を占めるカンヤクマリ地域 Kanyakumari のナンジルナードゥ地方に由来する。
マドゥライ Madurai 独得の郷土料理のメニューにムッタイパロタ[注 2]があり、カリドサイ(マトンのドーサ) などもある。飲み物ではパルチパル paruthipal (綿実で作るコットンミルク) とジガルタンダ[注 3]が人気を分ける。前者の材料はバクリシマ bacharicima、綿毛、カルダモン、ヤシの樹皮と樹液、すり潰したココナッツである。完成すると容器を「バラム」と呼ばれる綿毛をよった紐で結び、家に持ち帰る。
コットンミルクは胸焼けしやすく、ヤシの葉で作った飲料があればおさまる。タミル・ナードゥ州やマドゥライにはコットンミルクの露店が多く出て、マドゥライでJil Jil と呼ぶ。
コングナドゥ地方にも名物料理がある。この地域はごま油とヤシ油が特産品で、ウコンとともに生産高は国内最高とされ、ココナッツオイルやパームシュガーを多用する郷土料理はオプトゥ[注 4]、コラウルンダイ(ミートボール)、テンガイパール(パームシュガー入りホットミルク)[注 5]、あるいはデザートのウルンドゥカリ[注 6]などが有名。カチャヤムなど[注 7]も人気がある。肉料理でも知られ、羊肉、鶏肉、魚を使う。この土地でパロタと呼ぶ薄力粉マイダを焼いた主食は、北インドの小麦粉のパラタとおおよそ同じ。家庭料理のアリシンパルプ・サダム Arisimparupu sadam も郷土食である。
オプトゥはピザのようにかりかりに焼いたパンケーキで、甘い具を挟んで楽しむ。米粉を使うウルンドゥ・カリにもパームシュガーとヤシ油が入る。
ほとんどのタミル人の主食は米である。日常の昼食は (時には夕食も) 炊いた米 (choru) と、副菜は一般にサンバール、ポリヤル (カレー)、ラッサム、クート kootu(シチュー)とヨーグルトを添える。
主食とおかず (副菜) を組み合わせる。
主食のイドリ idli は米とブラックグラム (black gram) の粉を混ぜて発酵させた生地を蒸した餅である。一般にさまざまな種類のチャツネやサンバールまたはバダのカレー vadacurry を添えて供する。おなじく主食のドーサは練った米粉とブラックグラムの生地を発酵させ薄焼きにしたクレープであり、サンバールあるいはチャツネを合わせる。サーダ saada、カル kal、ムッタイ muttai dosai、ニール dosai、ラバ rava、パアシ・パルプ paasi paruppu など、種類もいくつかある。
イドリの副菜ヴァダ Vadai には素材によって主に2種類ある。伝統料理のポンガル Pongal は土鍋で米を水と牛乳で沸騰させ、粘り気のある泡がわくまで煮る。鍋から煮こぼれた乳状の上層もポンガルと呼ぶ。ドーサと同じ発酵生地を使い、製菓用マフィン型に似た小さな凹みの並ぶ専用の鉄板で焼くとパニヤラム Paniyaram ができる。アッパム Appam はその発酵生地をもっと薄めて熱っしたフライパンに注ぎ、鍋肌を回して均等に広げて焼く。すると周囲が薄く中央はふわふわと柔らかく焼きあがる。
ドーサよりもわずかに厚くふわふわと柔らかいのはウサッパム Uthappam である。材料は通常のイドリやドーサ用の発酵生地で、プレーンのほか細かく刻んだ野菜やタマネギを混ぜたものもある。ウプマ Upma はタマネギや青唐辛子を小麦粉またはラバ粉 rava の生地に混ぜ込み、米粉や押し麦状に干した米フレークまたは穀物粉であればなんでも代用できる。
プトゥ Puttu とは一般に米粉で層状に作る円筒形の蒸しケーキである。好みの粉で作ることもある。粉は水を加えて混ぜ、練りすぎないように気を付けてプトゥ用の蒸し筒に入れ、このとき、すりおろしたココナッツと交互に層にする。米粉の蒸し団子で具を詰めたものはコスカッタイ Kozhukkattai といい、具にはすりおろしたココナッツとジャガリーから、もっと手をかけた香辛料を利かせた具も用意する。セバイ Sevai (イディアッパム Idiyappam) とはビーフンのような米粉の麺、蒸し餅アダイ Adai、さらに野菜料理と揃えると、繊維とカルシウムが豊富な非常に充実した完全食メニューが調う。ダイエット中の人や糖尿病患者に勧めているという。
いくつかの定型があるものの、ありあわせの素材で自由に組み合わせる。
レンズマメを中心に野菜を煮たサンバールはシチューともチャウダーとも呼べ、タマリンドの出汁に挽きたての新鮮なスパイスで味を調える。チャツネにはさまざまな種類があり、ココナッツ、玉ねぎ、トマト、コリアンダー、カラ Kara、ニンニク、プリ Puli など。
チェッティナード地方の伝統料理のおかずとしてチェンナイでも非常に人気が高いバーダ Vada カレー。トーガイヤル Thogaiyal というペーストは何種類もの材料を合わせてすり潰してあり、主要な材料の味を引き立てている。ココナッツ、ダール豆 (パルプ)、コリアンダー、ミントの葉 (プチナ)、カルベッピーライ (カレーの葉)、ごまの実 (エル)、コル (ホースグラム)、生姜 (インジ)、ニンニク (ポンドゥ) などを中心に組み合わせる。
主菜とカレーなど米料理を組み合わせる。米料理には炊いた米のチョルと粥のポンガルがある。
具により何種類もメニューがある。カレーのようにご飯に混ぜるものと、単体のおかずとして主食に添えるものがある。
菜食メニュー
非菜食メニュー
肉や卵を使うカレーには、町単位ではっきり特徴が出ている。
スープのうちサンバールの材料は単品でナス、オクラ、苦瓜、マンゴー、あるいは組み合わせでじゃがいもとトマトと人参、人参と豆類を使ったり、肉入りで鶏の足肉(ドラムスティック)などを使う[注 8]。
シチューに属する。
カレーの種類
副菜として調理される炒め物はあらゆる野菜類をカレー仕立てにしたり挽きたての新鮮な香辛料で調味したりする。
クート(副菜の汁物)
鶏肉料理
マトン料理
魚介類の料理
卵料理
各種プディング、キール、ボリ bholi、シュガーボール(落雁に似た砂糖菓子)、揚げドーナッツ(Adhirasam)、団子(Paniyaram=蒸し団子、揚げ団子、焼き団子)、小麦粉の練り切り Kesari、甘い米粥 pongal など。
単体もしくは組み合わせで無数のレシピがある。たとえばレモン、ニンニク、トマト、玉ねぎ、マンゴー、スグリ、シトロン、人参、赤唐辛子、干しトマトほか、生姜とタマリンドなど。
乾燥させて粉末状にしたチャツネ粉は炊いた米やギーに混ぜて味付けをする。幼児や子供向けには、辛味をつけず調理する。