チェロソナタ ト短調 作品65は、フレデリック・ショパンが1846年に完成した、チェロとピアノのための室内楽曲である。ショパンはピアノとチェロのための作品を3曲残しており、そのうち2曲は青年期に書かれたものであるが、この作品は最後の室内楽曲であるばかりでなく、生前に発表・出版された最後の作品でもある。
ピアノ独奏曲が作曲の大半を占めるショパンがチェロのための作品を3作残したのは、彼がピアノの次にチェロという楽器を愛していたからであるが、チェロソナタの制作の動機には、彼の親友でチェリストであったオーギュスト・フランショーム(フランコーム)の存在が大きい。フランショームはショパンと10数年来の交遊があり、その間ショパンの日常の雑務を手伝うなど、ショパンを支え続けてきた人物であった。このチェロソナタは、そうしたフランショームの友情に報い、彼との共演を想定して作曲されたものである。当然ながらこの曲は彼に献呈されている。そして1848年2月16日、サル・プレイエルにおいてショパン自身のピアノとフランショームのチェロにより第一楽章以外が初演された。この演奏は、パリにおけるショパンの生涯最後の公開演奏となった。
この作品では、ピアノとチェロ両方にきわめて高い技術が求められる上、主題労作や対位法などの技法が多用され、2つの楽器が協奏しながら融合するという形をとる。やや晦渋な作風となるショパン後期の作品のなかでも音楽的に難解な部類に入る。特に複雑な構成を取る第1楽章は、上記のように初演の時に演奏されなかった。
結果的にこの作品は「ピアノの詩人」であるショパンの作品の中で例外的な存在となってしまったが、実際にはこの時期、ショパンはヴァイオリンソナタの作曲なども構想しており(スケッチが1ページだけ現存する)、ショパン本人は、この作品によって従来のピアノ独奏曲の世界から新たな境地を開拓しようと考えていたのではないかとされる。