テクネチウム99m (Technetium-99m、99m Tc)は、テクネチウム の同位体 たるテクネチウム99 の準安定 核異性体 である。年間数千万件の医療診断に使用されており、世界で最も頻用されている医療用放射性同位元素 である。
テクネチウム99mは、放射性トレーサー として使用され、医療機器(ガンマカメラ )によって体内から検出することができる。テクネチウム99mは、光子エネルギー (英語版 ) 141keV の検出可能なガンマ線 を放出し(この8.8pm の光子は、従来のX線診断装置が放出するのとほぼ同じ波長である)、ガンマ線放出の半減期が6.0058時間(つまり、24時間で93.7%が99 Tcに崩壊する)であることから、この役割に適している。同位体の物理的半減期が比較的「短く」、生物学的半減期 が1日であることから(人間の活動や代謝の観点から)、迅速にデータを収集しつつ、患者の総被曝量を低く抑えることができる造影方法が可能となる。しかしこの特性により、この同位体は治療目的での使用には適していない。
テクネチウム99mは、モリブデン にサイクロトロン 照射した際の生成物として発見された。この方法では、半減期の長い(2.75日)モリブデン99 が生成し、テクネチウム99mに崩壊する。この崩壊時間の長さにより、99 Moを医療施設に輸送することができ、生成されたサンプルから99m Tcが抽出される。一方、99 Moは通常、いくつかの国にある少数の研究・材料試験用原子炉で高濃縮ウラン を核分裂させることで商業的に作られる。
1938年、エミリオ・セグレ とグレン・シーボーグ は、アーネスト・オーランド・ローレンス放射線研究所 の37インチ(940mm)サイクロトロンで、天然のモリブデンに8MeV の重陽子 を照射し、準安定同位体テクネチウム99mを初めて単離した[ 2] 。 1970年、シーボーグは次のように説明している[ 3] 。
私達は、科学的に非常に興味深い同位体を発見しました。何故ならこの同位体は、ほぼ完全に内部転換されたガンマ線遷移から電子の線スペクトルを放出する異性体遷移によって崩壊したからです。(実際には、内部転換による崩壊は全体の12%に過ぎませんでしたが...。)これは、それまで一度も観測されたことのない放射性崩壊の形態でした。セグレと私は、この原子番号43の元素の放射性同位体が半減期6.6時間(後に6.0時間に更新)で崩壊し、それが半減期67時間(後に66時間に更新)のモリブデン(親核種)の娘であることを示すことが出来ました。後にこの崩壊前後の元素の質量数が99であることが示され、(中略)6.6時間で崩壊する元素は「テクネチウム99m」という呼称を与えられました。
その後、1940年にエミリオ・セグレと呉健雄 がモリブデン99を含むウラン235 の核分裂生成物を分析した結果、半減期6時間の43番元素の異性体の存在を検出し、後にテクネチウム99mと命名した[ 4] [ 5] 。
遮蔽シリンジから注射されるテクネチウム
99m Tcは、1950年代にパウエル・リチャーズ が医療用放射性同位体 としての可能性に気付き、医療関係者の間でその使用を促進するまでは、科学的好奇心の対象としてのみの存在であった。リチャーズがブルックヘブン国立研究所 のホットラボ部門で放射性同位元素の製造を担当していた頃、ウォルター・タッカー とマーガレット・グリーン は、ブルックヘブン国立研究所で製造されたテルル132 (半減期3.2日の親核種 )から溶出 する短命の娘核種 であるヨウ素132 の分離プロセスの純度を向上させる方法を研究していた[ 6] 。彼らは99m Tcと判明した微量の汚染物質を検出したが、これは99 Moから来たもので、他の核分裂生成物の分離プロセスの化学的性質においてテルルに類似していた。テルルとヨウ素の親娘ペアの化学的性質の類似性に基づいて、タッカーとグリーンは1958年に最初のテクネチウム99m発生装置 (英語版 ) を開発した[ 7] 。リチャーズがテクネチウムを医療用トレーサーとして使用するアイデアを初めて提案したのは1960年のことだった[ 8] [ 9] [ 10] 。ソレンセンとアーシャンボウは、静脈内に注入されたキャリアフリーの99 Moが選択的かつ効率的に肝臓に濃縮され、99m Tcの内部発生装置となることを実証した[ 11] [ 12] 。99m Tcが蓄積した後、彼らは141keVのガンマ線放出を使って肝臓を可視化することができた。
ガンマカメラ の開発と継続的な改良により、1960年代には99m Tcの生産と医療利用が世界中で急速に拡大した。
2000年代後半にテクネチウム99mが世界的に不足したのは、半減期が66時間しかないモリブデン99の世界供給量の約3分の2を供給していた老朽化した2つの原子炉(NRU (英語版 ) とHFR (英語版 ) )が長期メンテナンスのために繰り返し停止したためである[ 13] [ 14] [ 15] 。2009年5月、カナダ原子力公社 はNRUの原子炉で少量の重水漏れが検出されたことを発表し、2010年8月に修理が完了するまで運転を停止した。2008年8月に1次冷却水回路の変形部分の1か所からガスバブルジェットの放出が観測された後、HFR炉は徹底的な安全調査のために停止された。NRG (英語版 ) 社は2009年2月、医療用放射性同位元素の製造に必要な場合に限り、HFRを運転できる一時的なライセンスを取得した。HFRは2010年の初めに修理のために停止し、2010年9月に再稼働した[ 16] 。
1990年代に建設されたカナダの代替原子炉2基(MAPLE反応炉 (英語版 ) 参照)は、安全上の理由から運転開始前に閉鎖された[ 13] [ 17] 。 2018年5月には、ミズーリ州 コロンビア に建設される新しい生産施設の建設許可が出された[ 18] 。
テクネチウム99mは、質量数 99の後に「m」が付いているように、準安定核異性体 である。これは、原子核が通常よりも長く励起 状態にある崩壊生成物 であることを意味する。原子核は、ガンマ線 や内部転換電子 の放出により、最終的には脱励起 して基底状態 になる。これらの崩壊様式はいずれも、テクネチウムを別の元素に変換 することなく核子 を再編成する。
99m Tcは主にガンマ線放出によって崩壊するが、その割合は88%よりやや少ない。(99m Tc → 99 Tc + γ) このガンマ崩壊の約98.6%は140.5keVのガンマ線になり、残りの1.4%は僅かに高い142.6keVのエネルギーのガンマ線になる。これらの放射線は、99m Tcが医療画像診断用 の放射性トレーサー として使用される際に、ガンマカメラで拾われる放射線である。残りの約12%の99m Tcの崩壊は内部転換によるもので、その結果、高速の内部転換電子が(この種の崩壊の電子によく見られるように)同じく約140keVのいくつかの鋭いピークを伴って放出される(99m Tc → 99 Tc+ + e- )。これらの変換電子は、ベータ線の電子と同じように周囲の物質をイオン化 し、140.5keVおよび142.6keVのガンマ線とともに総被曝線量 に寄与する。
純粋なガンマ線放出は、医療用画像処理に望ましい崩壊様式 である。他の粒子がカメラよりも患者の体に多くのエネルギー(放射線量 )を蓄積するためである。準安定同位体転移は、純粋なガンマ線放出に近い唯一の核崩壊様式である。
99m Tcの半減期は6.0058時間で、殆どの核異性体に比べてかなり長い(少なくとも14桁)が、唯一無二ではない。この半減期は、他の多くの既知の放射性崩壊 様式に比べるとまだ短く、医療用画像診断 に使用される放射性医薬品 の半減期の範囲の中央に位置している。
ガンマ線放出または内部転換の後、得られた基底状態のテクネチウム99は、半減期211,000年で安定核種のルテニウム99 に崩壊する。この過程では、ガンマ線を伴わない弱いベータ線が放出される。このように娘核種からの放射能が少ないことは、放射性医薬品として望ましい特徴である。
Tc
43
99
m
→
6
h
γ
141
keV
Tc
43
99
→
211
,
000
y
β
−
249
keV
Ru
44
99
(
stable
)
⏞
ruthenium
−
99
{\displaystyle {\ce {^{99\!m}_{43}Tc->[{\ce {\gamma \ 141keV}}][{\ce {6h}}]{}_{43}^{99}Tc->[{\ce {\beta ^{-}\ 249keV}}][211,000\ {\ce {y}}]\overbrace {\underset {(stable)}{^{99}_{44}Ru}} ^{ruthenium-99}}}}
235 U への中性子照射
99m Tcの親核種である99 Moは、主に中性子照射された235 U 塊内で生成された核分裂生成物 から医療目的で抽出されるが、その大部分は高濃縮ウラン (HEU)を用いて世界の5つの研究用原子炉で生産されている[ 19] [ 20] 。 より少量の99 Moが、少なくとも3つの原子炉で低濃縮ウラン (LEU)から生産されている。
98 Mo の中性子放射化
天然のモリブデン、または98 Moを濃縮したモリブデンを中性子で活性化 することによる99 Moの製造法[ 24] は、現在のところ、別の製造ルートとしての規模は小さい[ 25] 。
粒子加速器中での 99m Tc/99 Mo 生成[ 編集 ]
99m Tc の簡易製造法
1971年に医療用サイクロトロンで100 Mo塊に22MeVの陽子を照射して99m Tcを製造する可能性が示された[ 26] 。最近の99m Tcの不足により、同位体濃縮された100 Mo塊(99.5%以上)に陽子を照射し、100 Mo(p、2n)99m Tc反応 を起こさせることによる「簡易」99m Tc製造法への関心が再び高まった。カナダでは、99m Tc製造のためにAdvanced Cyclotron Systems社が設計したサイクロトロンをアルバータ大学 とシャーブルック大学 で稼働させており、ブリティッシュコロンビア大学 、TRIUMF (英語版 ) 、サスカチュワン大学 、レイクヘッド大学 (英語版 ) でも計画されている[ 27] [ 28] [ 29] 。
サイクロトロンを用いた100 Mo(p、2n)99m Tc反応による99m Tc生成の欠点は、基底状態の99 Tcが大量に共生産されることである。この核種が優先的に成長するのは、基底状態に至る反応断面積の経路が大きいためであり、同じエネルギーでの準安定状態と比較して、断面積の最大値では約5倍にもなる。Mo塊の処理と99m Tcの回収に要する時間に応じて、基底状態の99m Tcの量は減少し続け、結果的に利用可能な99m Tcの比活性が低下し、その後の標識化やイメージングに悪影響を及ぼす可能性がある。処理の合理化に役立つ液体金属モリブデン含有塊が提案されている[ 30] 。
99 Mo の間接的製造法
他の粒子加速器を用いた同位体製造技術も研究されている。2000年代後半に99 Moの供給が途絶えたことと、生産する原子炉の老朽化により、産業界は生産の代替方法を検討する必要に迫られた[ 31] 。 サイクロトロンまたは電子加速器を使用して、それぞれ(p、2n)[ 32] [ 33] [ 34] または(γ、n)[ 35] 反応を介して100 Moから99 Moを製造する方法が更に研究されている。100 Moの(n、2n)反応は、熱中性子を用いた98 Moの(n、γ)反応よりも高エネルギー中性子に対する高い反応断面積を齎す[ 36] 。 特にこの方法は、D-T[ 37] や他の核融合に基づく反応[ 38] 、あるいは高エネルギーの核破砕反応 やノックアウト反応 を用いたものなど、高速中性子スペクトルを生成する加速器を必要とする[ 39] 。 これらの技術の欠点は、濃縮された100 Mo塊を必要とすることであり、これは天然の同位体塊よりもかなり高価であり、一般的には材料のリサイクルが必要であり、これはコストが掛かり、時間が掛かり、大変な作業となる[ 40] [ 41] 。
99m Tcは半減期が6時間と短いため、保管が不可能であり、輸送コストも非常に高くなる。その代わり、親核種である99 Moは、中性子照射されたウラン塊から抽出され、専用の処理施設で精製された後、病院に供給される[ 注 1] [ 43] 。99m Tcは、専門の放射性医薬品会社によって99m Tc発生装置(英語版 ) の形で世界中に出荷されるか、または地域の市場に直接配布される。搾乳器と俗称されるこの製造機は、輸送のための放射線遮蔽を施され、医療機関で行う抽出作業を最小限にするために設計された装置である。99m Tc製造機から1m離れた場所での典型的な線量率は、輸送中に20~50μSv /hである[ 44] 。 99 Moの半減期は66時間しかないため、製造機の出力は時間と共に低下するので、毎週交換しなければならない。
99 Moは、ベータ崩壊 によって99 Tcの励起状態に自発的に崩壊する。そのうち87%以上が142keVの励起状態である99m Tcに至る。その際、電子β− と電子反ニュートリノν e が放出される(99 Mo → 99m Tc + β− + ν e )。この電子β− は輸送時に容易に遮蔽され、99m Tc発生装置は、主に電子によって生成される二次的なX線(制動放射 としても知られている)による僅かな放射線のみを放射する。
病院では、99 Moの崩壊によって生成された99m Tcは、99m Tc製造機から化学的に抽出される。殆どの商用99 Mo/99m Tc発生装置は、水溶性モリブデン酸塩 MoO4 2- の形の99 Moが酸性アルミナ(Al2 O3 )に吸着しているカラムクロマトグラフィーを使用している。99 Moが崩壊すると、過テクネチウム酸 TcO4 - が生成されるが、このTcO4 - は単電荷であるため、アルミナとの結合力は弱い。固定化された99 MoO4 2- のカラムに通常の生理食塩水を通すと、可溶性の99m TcO4 - が溶出し、過テクネチウム酸ナトリウム として99m Tcを含む生理食塩水が得られる。僅か数マイクログラムの99 Moを含む1台の99m Tc製造機は、1週間以上に亘って99m Tcを生成し、10,000人[要出典 ] の患者を診断できる可能性がある。
バセドウ病 患者の頸部Tcシンチグラフィー
テクネチウムは、過テクネチウム酸イオン TcO4 − の形で生成器から取り出される。この化合物中のTcの酸化数 は+7である。これが直接医療用途に適しているのは、骨造影 (英語版 ) (骨芽細胞に取り込まれる)と一部の甲状腺造影 (正常な甲状腺組織にヨウ素の代わりに取り込まれる)のみである。99m Tcを使用する他の撮影では、過テクネチウム酸溶液に還元剤 を加えてテクネチウムの酸化数を+3または+4に還元し、次に配位子 を加えて配位錯体 を形成する。配位子は、標的となる特定の器官に親和性を持つように選択される。たとえば、酸化数が+3のTcのエキサメタジム錯体 は、血液脳関門を通過して脳内の血管を流れ、脳血流イメージングを行うことができる。その他のリガンドとしては、心筋灌流画像用のセスタミビ や、腎機能を測定するMAG3造影 (英語版 ) 用のメルカプトアセチルトリグリシン などがある[ 45] 。
1970年、製造機から99m Tcを搾り取り患者に投与する際の化学的状態で提供するために必要なすべての成分を含む最初のキットが発表された[ 45] [ 46] [ 47] [ 48] 。
99m Tcは、毎年2000万件の診断用核医学検査に使用されている。核医学における画像診断の約85%がこの同位体を放射性トレーサーとして使用している[要出典 ] 。2000年に出版された「Technetium 」という書籍には、脳 、心筋 、甲状腺 、肺 、肝臓 、胆嚢 、腎臓 、骨 、血液 、腫瘍 などの画像診断や機能研究に用いられる99m Tcを含む31種類の放射性医薬品 が掲載されている[ 49] 。2021年にもレビュー記事が執筆されている[ 50] 。
手技に応じて、99m Tcは必要な場所に運ぶための薬剤にタグ付け(または結合)される。たとえば、99m Tcをエキサメタジム (HMPAO)に化学的に結合させると、薬剤が血液脳関門を通過して脳内の血管を流れ、脳血流造影を行うことができる。この組み合わせは、感染部位を視覚化するための白血球の標識(99m Tc標識WBC )にも使用される。99m Tcセスタミビは、心臓内の血流の状態を示す心筋灌流造影に使用される。腎機能 を測定するための画像は、99m Tcをメルカプトアセチルトリグリシン (MAG3)でキレートしたもので撮影される。この手順はMAG3造影として知られている。
99m Tcは、140.5keVのガンマ線 を放出し(これは従来のX線診断装置が放出するのとほぼ同じ波長である)、ガンマ線放出の半減期 は6時間である(つまり、24時間で94%が99 Tcに崩壊する)ため、医療機器を用いて体内から容易に検出することができる。この同位体の物理的半減期 が「短い」ことと、生物学的半減期 が1日であること(人間の活動や代謝の観点から)から、データを迅速に収集しつつ、患者の総被曝量を低く抑えた造影方法が可能になる。
99m Tcを用いた診断治療は、技術者、患者、通行人に放射線被曝を齎す。SPECT検査などの免疫シンチグラフィー検査に投与されるテクネチウムの典型的な量は、成人で400から1100MBq (11から30mCi )である[ 51] [ 52] 。これは、胸部X線検査の約500回分に相当する10mSv (1000mrem )程度の放射線量に相当する[ 53] 。このレベルの放射線被曝は、患者が固形癌や白血病を発症する生涯リスクの1000分の1に相当する[ 54] 。このリスクは、若年層では高く、高齢層では低くなる[ 55] 。胸部X線検査とは異なり、放射線源は患者の体内にあるため、数日間は自分が放射線源となり、他の人が副次的に放射線を浴びることになる。この間、常に患者の傍に居る配偶者は、患者の1000分の1の放射線量を受けることになる。
同位体の半減期が短いため、データを迅速に収集することが可能である。また、この同位体はガンマ線を放出するものとしては非常に低いエネルギーレベルにある。エネルギーが約140keVであるため、他のガンマ線放出核種と比較してイオン化 が大幅に減少し、より安全に使用することができる。99m Tcのガンマ線のエネルギーは、市販の診断用X線装置の放射線量とほぼ同じであるが、放出されるガンマ線の数が多いため、放射線量はコンピュータ断層撮影 のようなX線検査に匹敵する。
99m Tcは、利用可能な他の同位体よりも安全性が高いという特徴がある。ガンマ崩壊モードはカメラで簡単に検出できるため、少量で使用可能である。また、99m Tcは半減期が短いため、放射性物質の量が遥かに少ない99 Tcに速やかに崩壊し、投与後の初期活動量当たりの患者の総放射線量は、他の放射性同位元素と比較して少ない。これらの医療検査で投与される形態(通常は過テクネチウム酸塩)では、99m Tcおよび99 Tcは数日以内に体外に排出される[要出典 ] 。
単一光子放射断層撮影 (Single Photon Emission Computed Tomography、SPECT)は、ガンマ線を用いた核医学画像診断法の一つである。SPECTは、99m Tcを含む、ガンマ線を放出するあらゆる放射性同位体を使用することができる。99m Tcを使用する場合、放射性同位元素を患者に投与し、放出されたガンマ線を移動するガンマカメラ に入射させて画像を計算・処理する。SPECT画像を取得するには、ガンマカメラを患者の周りで回転させる必要がある。回転中の決められたポイント(通常は3~6度毎)で投影画像を取得する。殆どの場合、最適な画像を再構成するために360°回転させて使用する。各投影の取得にかかる時間もさまざまであるが、通常は15~20秒である。これにより、総撮影時間は15~20分となる。
放射性同位元素である99m Tcは、主に骨と脳の造影に使用される。骨造影 では、過テクネチウム酸イオンが直接使用される。過テクネチウム酸イオンは、骨の損傷を治癒しようとする骨芽細胞 に取り込まれたり、(場合によっては)骨腫瘍 (原発性または転移性)に対する骨芽細胞の反応として取り込まれたりする。脳造影 では、99m Tcをキレート剤のHMPAOに結合させて、テクネチウム99mエキサメタジムを作る。この薬剤は、脳の領域の血流に応じて脳内に局在するため、脳の領域の血流や代謝が低下する脳卒中や痴呆性疾患の検出に有用である。
最近では、99m TcシンチグラフィとCTコレジストレーション技術(2つの画像の解像度を合わせる技術)を組み合わせて、SPECT/CT造影を行うようになった。これは、SPECT造影と同じ放射性物質を使用し用途も同じであるが、より細かい解像度が必要な場合に、高濃度に取り込まれた組織の3次元的な局在部位をより細かく確認することができる。たとえば、99m Tcの錯体であるセスタミビを用いたセスタミビ副甲状腺造影 (英語版 ) は、SPECT装置でもSPECT/CT装置でも実施可能である。
一般的に骨造影 と呼ばれる核医学 技術は、通常99m Tcを使用する。これは、骨粗鬆症やその他の骨が再生せずに質量を失う病気を調べるために骨密度を測定する低被爆量のX線検査である「骨密度造影 」(DEXA)とは異なる。核医学検査では、放射性医薬品が骨を作る骨芽細胞 に取り込まれるため、骨の再構築に異常がある部分に敏感に反応する。従ってこの技術は、骨折や、転移を含む骨腫瘍に対する骨の反応にも敏感である。骨造影では、700 - 1、100MBq(19 - 30mCi)の99m Tc-メドロン酸 (英語版 ) などの少量の放射性物質を患者に注射し、ガンマカメラ で撮影する。メドロン酸はリン酸 の誘導体で、骨の成長が盛んな場所では骨のリン酸塩と場所を交換することができるため、放射性同位元素をその特定の場所に固定することができる。特に脊椎の小さな病変(1センチメートル(0.39インチ)以下)を見るためには、SPECTイメージング技術が必要な場合がある。
心筋灌流画像(MPI)は、虚血性心疾患 の診断に用いられる心臓機能画像の一種である。その原理は、ストレス下では、病的な心筋 は正常な心筋よりも血流が少なくなるというものである。MPIは、いくつかの種類の心臓負荷試験 (英語版 ) の一つである。血液造影検査 (英語版 ) としての平均被曝量は9.4mSvで、典型的な2ビューの胸部X線(0.1mSv)と比較すると、胸部X線94枚分に相当する[ 56] 。
これにはいくつかの放射性医薬品や放射性核種が使用され、それぞれが異なる情報を提供する。99m Tcを用いた心筋灌流造影では、放射性医薬品である99m Tc-テトロホスミンまたは99m Tc-セスタミビが使用される。続いて、心拍数を増加させるアデノシン 、ドブタミン 、ジピリダモール や、血管拡張剤であるレガデノソン などを用いて、運動や薬理学的に心筋ストレスを誘発する。(アミノフィリン は、ジピリダモールやレガデノソンの効果を逆転させるために使用される)。その後、通常のガンマカメラまたはSPECT/CTで造影を行う。
心室造影 (英語版 ) では、放射性核種(通常は99m Tc)を注入し、心臓を撮影して心臓内の流れを評価し、冠動脈疾患 、心臓弁膜症 、先天性心疾患 、心筋症 、その他の心疾患 を評価する。血液造影検査の平均被曝量は9.4mSvで、一般的な2視野の胸部X線検査 (0.1mSv)と比較すると、胸部X線検査94回分に相当する[ 56] [ 57] 。この検査は、同等の胸部X線検査よりも患者の被曝量が少なくて済む[ 57] 。
通常、脳機能撮像法に使用されるガンマ線放出トレーサーは、99m Tc-HMPAO(ヘキサメチルプロピレンアミンオキシム、エキサメタジム)である。同様の99m Tc-ECトレーサーが使用されることもある。これらの分子は、脳の血流が多い部位に優先的に分布し、脳の代謝を局所的に評価することで、認知症の原因となるさまざまな病態を診断・鑑別することを目的としている。3-D SPECT 技術と併用することで、脳FDG-PET 造影やfMRI 脳造影と競合し、脳組織の局所的な代謝速度をマッピングする技術となる。
99m Tcの放射性特性を利用して、乳癌 や悪性黒色腫 などの癌細胞を排出している主なリンパ節 を特定することができる。この検査は通常、生検 や切除 (英語版 ) の際に行われる。99m Tcで標識したイソスルファンブルー 色素を、生検予定部位の周囲に皮内注射する。センチネルリンパ節の一般的な位置は、生検部位の周囲に注入された99m Tc標識硫黄 コロイド を検出するガンマセンサープローブを備えた携帯型スキャナーを使用して決定される。その後、放射性核種が最も多く蓄積された領域を切開し、切開した部分にあるセンチネルリンパ節 を検査によって特定する。イソスルファンブルー色素は通常、リンパ節を青く染める[ 58] 。
免疫シンチグラフィー (英語版 ) は、免疫系のタンパク質であるモノクローナル抗体に癌細胞と結合できるものを選び、抗体に99m Tcを組み込んだものを使用し、注射してから数時間後に、医療機器を用いて99m Tcから放出されるガンマ線を検出する。ガンマ線が強い部分に腫瘍が存在する。この技術は、腸などの見付け難い癌の検出に特に有効である。
99m Tcはスズ 化合物と結合すると赤血球 と結合するため、循環器疾患 のマッピングに使用できる。消化管出血部位の他、駆出率 、心壁運動異常、異常シャント の検出、心室造影 (英語版 ) などによく使われる。
RIアンギオカルジオグラム・心プールシンチグラム[ 編集 ]
99m Tcのピロリン酸塩 は、損傷した心筋 に沈着したカルシウム に付着するため、心筋梗塞 後のダメージを測定するのに役立つ[ 59] 。
99m Tcの硫黄 コロイド は脾臓 で消去されるため、脾臓の構造を画像化することが可能である[ 60] 。
過テクネチウム酸塩 は、胃粘膜 のムコイド細胞に活発に蓄積・分泌されるため[ 61] 、メッケル造影でメッケル憩室 に見られるような異所性胃組織を探す際には、放射性99m Tc(VII)を体内に注入する[ 62] 。
^ 99 Moは最終生成物から取り除かれるが、99m Tcが崩壊してできた99 Tcは、製造機の最終工程で99m Tcと共に抽出される。99 Tc:99m Tc 比は技術的にある程度改善可能である[ 42] 。
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