「トゥモロー・ネバー・ノウズ 」(Tomorrow Never Knows )は、ビートルズ の楽曲である。レノン=マッカートニー 名義となっているが、実質的にはジョン・レノン によって書かれた楽曲[ 6] 。1966年に発売された7作目のイギリス盤公式オリジナル・アルバム『リボルバー 』の最後に収録された楽曲だが、レコーディングはアルバムのためのセッションで最初に行われた。ライブで演奏することを想定せずに制作したため、テープの逆回転をはじめとしたスタジオ技術が多く使用された。
歌詞は、ティモシー・リアリー らの共著『チベット死者の書サイケデリック・バージョン 』に触発されて書かれたもの。イントロから全編にわたってタンブーラ (英語版 ) が演奏されドローン が表現されている。本作の特徴となるテープ・ループ (英語版 ) は、リズムトラックを再生しながらオーバー・ダビング された。レノンのボーカルの一部に、ハモンドオルガン 用のレズリースピーカー を使用してドップラー効果 がかけられている。
『ピッチフォーク 』が発表した「The 200 Greatest Songs of the 1960s 」では第19位、『ローリング・ストーン 』誌が発表した「The 100 Greatest Beatles Songs 」では第18位にランクインした。
1966年4月にマッカートニーはレノンを連れてインディカを訪れた。ここでレノンは、ティモシー・リアリー 、ラルフ・メツナー 、リチャード・アルパートらの共著『チベット死者の書サイケデリック・バージョン 』を見つけた。リアリーらは、幻覚剤を使用した医療の可能性や、潜在的な神秘性を持つものとしての2つの側面から幻覚剤について研究を行なっていて、同書の中で8世紀の仏教の書を基に、幻覚剤による「自我の喪失」と幻覚剤から覚めた後の自我の再生についての解説がなされていた。レノンは同書を読んで、ドラッグが及ぼす影響を理解するための理論を習得し、「トゥモロー・ネバー・ノウズ」を書いた。
本作のタイトルは、「A Hard Day's Night 」や「Eight Days a Week 」と同様に、リンゴ・スター が何気なく呟いた一言に由来している。1964年初頭のテレビインタビューで、ワシントンD.C.にある在アメリカ合衆国イギリス大使館で発生した事件について訊かれた際に、スターは「Tomorrow never knows」という言葉を発していた。当初のタイトルは「Mark I」で、6月にレコーディングされた楽曲の最終ミックスを行なうまで、当時のEMIレコーディング・スタジオのレコーディング・シートにはこのタイトルが記載されていた。楽曲について、レノンは「タイトルはリンゴの言い回しから拝借して、重たい哲学的な詩を揃えてみたんだ」と語っている。
曲はテープ式のループ(繰返し音)が鳴り、それに合わせてミニマルなドラム やベース などの演奏が始まる。楽曲はC のミクソリディアン・スケール で作られていて、ドローン のコードは基本的にCメジャー となっているが、テープ・ループやボーカルのパートにおいてB♭メジャー に転調する。
チベット セラ寺 でのラマ教 僧侶 。
「トゥモロー・ネバー・ノウズ」は、アルバム『リボルバー』のためのセッションで最初にレコーディングされた楽曲で、1966年4月6日にEMIレコーディング・スタジオ のスタジオ3でレコーディングが開始された。このセッションからジェフ・エメリック がレコーディング・エンジニアに昇進し、エメリックとプロデューサーのジョージ・マーティン による後押しも相まって、完成した楽曲は従来の作品とは異なる仕上がりとなった。レノンは、楽曲にチベット仏教 の儀式の雰囲気を取り入れることを考え、マーティンに「数千人ものチベットの僧侶が経典を唱えているような感じにしたい」と伝えた。この時トランス状態であったレノンは「天井から自分を吊して周りながら歌ったら、より面白い音が録れるのでは?」と提案し、実際に行なったがうまくいかなかった。そこで、エメリックはボーカルをハモンドオルガン 用のレズリースピーカー を使ってドップラー効果 を出すことで、レノンの要求を実現させた。
本作のレコ―ディングより、「2度歌わなくてもダブルトラッキングを機械で作り出せるようにしたい」というレノンの意向をもとに、EMIレコーディング・スタジオのテクニカル・エンジニアであるケン・タウンゼント (英語版 ) が考案したADT という機能が導入され、以降アルバム『リボルバー』のレコ―ディング全体で楽曲に様々な効果をもたらした。なお、レノンのボーカルは、冒頭の3節がダブルトラッキング され、レスリースピーカーに通したボーカルは逆回転させたギターソロの後のセクションで聴くことができる。
楽曲には、音を圧縮したドラム、逆回転させたギター やシンバル 、ダブルトラッキングなどの音の処理が施されたボーカル、テープ・ループ (英語版 ) 、シタール とタンブーラ (英語版 ) のドローン が含まれている。テープ・ループは、カールハインツ・シュトックハウゼン の「少年の歌 」に影響を受けたマッカートニーによって導入され、これはリズムトラックを再生しながらオーバー・ダビング された。マッカートニーは他のメンバーにもテープ・ループを作成するように勧め、合計30本のテープ・ループが作成された。マーティンは、作成された30本のテープ・ループから16本を選び、楽曲中で使用した。テープ・ループはそれぞれ6秒ほどの長さだった。
テープ・ループのオーバー・ダビングは、4月7日に行なわれた。テープ・ループは、スタジオでテープ・レコーダーを回しながら、テープを鉛筆で引っ掛けながら再生ヘッドに当てて録音された。マーティンがステレオ・パンニングを変更し、エメリックがメーターを確認している間、メンバー4人はミキシング・コンソール のフェーダーを制御していた。
リリースされた音源では、以下のような5種類のテープ・ループが確認できる。
カモメの鳴き声に似せて回転速度を速めたマッカートニーの笑い声を録音したテープ・ループ(開始から7秒後に聴こえる)[ 注釈 1] 。
Bメジャー のオーケストラ・コードを録音したテープ・ループ(開始から19秒後に聴こえる)。
フルート にセッティングしたメロトロン を録音したテープ・ループ(開始から22秒後に聴こえる)。
B♭とCを交互に繰り返し奏でるメロトロンを録音したテープ・ループ(開始から38秒後に聴こえる)。
上昇するフレーズを演奏するシタールを録音したテープ・ループ。テープの回転速度が速められている(開始から55秒後に聴こえる)。
なお、5種類のテープ・ループの内容については、セッション中に行なわれた処理により、実際にどのような音が含まれているのかは不明とされている。ロバート・ロドリゲスは、著書の中で「マッカートニーの笑い声を録音したループとB♭の長三和音 を録音したループを除き、2種類のループにはそれぞれ逆回転とテープ回転速度の変更が施されたシタールの音が録音されていて、残りのループにはメロトロンによるストリングスとブラスの音が録音されている」と書いている。ケヴィン・ライアンとブライアン・ケヒュー (英語版 ) は共著で「2種類のループには、メロトロンではなくシタールが録音されていて、テープエコーがかけられたマンドリン もしくはアコースティック・ギター も含まれている」と書いている。曲の途中では、ハリスンが演奏したフレーズを逆回転させたギターソロと、マッカートニーが「テープソロ」と称したパートが含まれている。
4月22日の本作では最後のオーバー・ダビング・セッションが行なわれ、ハリスンのシタール とレスリースピーカーを通したレノンのボーカルが加えられた。
イギリスでは、7月にEMI がアルバム『リボルバー』の収録曲を各ラジオ局に配信していた。アルバム『リボルバー』は、1966年8月5日にパーロフォン から発売され、「トゥモロー・ネバー・ノウズ」はアルバムのエンディング・トラックとして収録された。1996年に発売された『ザ・ビートルズ・アンソロジー2 』には、破棄されたテイク1が収録された。
ジャーナリストのトニー・ホール (英語版 ) は、『レコード・ミラー (英語版 ) 』誌で本作を「ポップ・グループがこれまでに作った中で最も革新的な楽曲」と紹介した[ 44] 。オールミュージック のリッチー・アンターバーガー (英語版 ) は、「その曲の構成とレコーディング方法の両方において、アルバム『リボルバー』で最も実験的でサイケデリックな楽曲」「歌詞は哲学的かつ実存的で、1966年であろうとその他の年であろうと、ポピュラー音楽の深い主題で謎めいた思想であった」と評している[ 45] 。『レコード・ミラー』誌のピーター・ジョーンズ (英語版 ) は「これからメッセージを得るには、ある種の聴覚顕微鏡が必要となる。それはとてつもなく説得力のあるリスニングだ」と評している[ 46] 。
マッカートニーは、4月22日のセッションで完成した本作を周囲の人間に聴かせており、5月2日に本作を聴いたボブ・ディラン は「わかった。もううんざりだ」と否定的な反応をとり、ローリング・ストーンズ やザ・フー のメンバーは本作に興味を示し、シラ・ブラック は「ただ笑っていた」という。
2006年に『ピッチフォーク 』が発表した「The 200 Greatest Songs of the 1960s 」では第19位[ 49] 、『Q 』誌が発表した「The 100 Greatest Songs of All Time」では第75位にランクインした。その後、2011年にローリング・ストーン 誌が発表した「100 Greatest Beatles Songs」では第18位[ 50] 、2001年の『アンカット (英語版 ) 』や2006年の『モジョ 』誌[ 52] での同様のリストでは第4位、2018年に『タイムアウト・ロンドン 』誌が発表した「The 50 Best Beatles songs」では第2位にランクインした[ 53] 。
「 ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー/トゥモロー・ネバー・ノウズ」 ビートルズ の楽曲 収録アルバム 『 LOVE 』 英語名 Within You Without You / Tomorrow Never Knows リリース 2006年11月 録音 1966年4月 - 1967年4月 ジャンル 時間 3分8秒 作詞者 作曲者 プロデュース
2006年にシルク・ドゥ・ソレイユ のショー『LOVE』がラスベガスで行なわれ、ジョージ・マーティン とその息子ジャイルズ・マーティン はサウンドトラックとして、80分に及ぶビートルズの楽曲をコラージュさせた音源を制作[ 54] 。その中で本作のリズムトラックと「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー 」のボーカルとメロディをコラージュさせた音源が制作され、サウンドトラック・アルバム『LOVE 』に「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー/トゥモロー・ネバー・ノウズ 」(Within You Without You / Tomorrow Never Knows )というタイトルで収録された[ 55] [ 56] 。
このマッシュアップ・バージョンについて、『ポップ・マターズ (英語版 ) 』のゼス・ランディーは「『ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー』と『トゥモロー・ネバー・ノウズ』のマッシュアップは、おそらくアルバム全体で最もスリリングで効果的なトラックで、とくに超越的な2曲を1つに融合している」と評している[ 57] 。2009年に発売されたゲームソフト『The Beatles: Rock Band 』(日本未発売)にも収録されたほか[ 58] 、2015年に発売された映像作品『1+ 』にはミュージック・ビデオ が収録された[ 59] 。
※出典
音楽学者のウォルター・エヴェレット (英語版 ) は、『リボルバー』を「革新的な電子音楽の例」とし、本作について「サイケデリック・ロック に対して非常に影響力があった」としている。エヴェレットは、本作でのスタジオ技術や音楽的な形式は、ピンク・フロイド の「パウ・R・トック・H 」を中心にジミ・ヘンドリックス やフランク・ザッパ らに、テープの逆回転を使用した曲作りは、ヘンドリックスやピンク・フロイド、バーズ 、ザ・フー、エレクトリック・プルーンズ 、スピリット らに、レスリースピーカーを通したボーカルは、ヘンドリックスやグレイトフル・デッド 、ムーディー・ブルース 、クリーム 、イエス 、レッド・ツェッペリン 、ブラック・サバス らに影響を与えたとしている。
『ニューヨーク・タイムズ 』紙のジョン・ペアレス (英語版 ) は、「トゥモロー・ネバー・ノウズ」を「これから数十年の音楽への入口」とし[ 74] 、スティーヴ・ターナーは、著書の中で本作におけるサウンドのサンプリング やテープの操作が「ジミ・ヘンドリックスからジェイ・Z までのすべてのアーティストに大きな影響を与えた」と書いている。
オアシスは、1995年に発表した「モーニング・グローリー 」で「Tomorrow never knows what it doesn't know too soon」と歌っていて[ 77] 、ケミカル・ブラザーズ はユニットの音楽の雛型として本作を挙げている[ 78] 。
^ 「ギターのフレーズを録音したテープ」とする文献も存在している[ 31] 。
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