IUPAC命名法による物質名 | |
---|---|
| |
臨床データ | |
販売名 | Mekinist |
胎児危険度分類 |
|
法的規制 |
|
データベースID | |
CAS番号 | 871700-17-3 |
ATCコード | L01XE25 (WHO) |
PubChem | CID: 11707110 |
ChemSpider | 9881833 |
UNII | 33E86K87QN |
ChEBI | CHEBI:75998 |
ChEMBL | CHEMBL2103875 |
別名 | GSK1120212 |
化学的データ | |
化学式 | C26H23FIN5O4 |
分子量 | 615.39 g/mol |
| |
|
トラメチニブ(Trametinib)は、分子標的薬に分類される抗がん剤の一つである。MEK阻害効果(英語版)により、細胞の増殖に寄与するMAPK/ERKシグナル伝達経路を阻害して抗腫瘍効果を発揮する[1]。MEK1およびMEK2を阻害する[1]。商品名メキニスト。京都府立医科大学分子標的癌予防医学教室の酒井敏行教授とJTが産学連携により創薬した[2]。開発コードGSK1120212。
転移のある悪性黒色腫の内、BRAF V600E変異陽性の腫瘍をターゲットとした第III相臨床試験でトラメチニブは良好な結果を示した。この変異では、BRAF 遺伝子でコードされる蛋白質(B-Raf)の600番目のバリン(V)がグルタミン酸(E)に置換されており、ゆえにBRAFは恒常的に活性化されている[3]。
2013年5月、トラメチニブは単剤でV600E変異またはV600K変異を有する悪性黒色腫に対する治療薬として米国でFDAに承認され[4][5]、2014年1月には、BRAF阻害薬ダブラフェニブとの併用療法が迅速承認された[6]。また2014年4月には欧州でEMAから「切除不能または転移性のBRAF V600変異陽性メラノーマを有する成人患者」に対しての承認を取得した[7]。
日本では2016年3月に「BRAF 遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫」について承認された[8]。
治験での副作用発現率は、単剤で国内・海外通算97.3%、ダブラフェニブとの併用で89.8%であり、主な内訳は発疹、下痢、AST(GOT)増加などであった。
重大な副作用として添付文書に記載されているものは、
である[9](頻度未記載は頻度不明)。
MAPK/ERK経路またはRas-Raf-MEK-ERK経路とは、細胞表面での受容体刺激(リガンドと受容体の結合)を細胞核に伝える連鎖反応経路である。BRAF 遺伝子が変異すると、受容体刺激無しでBRAFが活性化して下流にシグナルを送り続け、細胞が無秩序に増殖する。変異したBRAFを阻害する事で異常なシグナル伝達を抑制し、細胞の異常増殖を抑えることができる。
切除不能の悪性黒色腫の患者322名に対してトラメチニブと従来の化学療法(ダカルバジンまたはパクリタキセル)を2対1に割り付けた結果、無増悪生存期間はトラメチニブ群4.8か月対化学療法群1.5か月であり、高度な有意差(p<0.001)が認められた[10]。無増悪生存期間はダブラフェニブとの併用でさらに延長(5.8か月から9.4か月へ、p<0.001)した[11]。
造血幹細胞移植後の患者では移植片対宿主病(GVHD)が生じ易いので通常免疫抑制剤が使用されるが、この時移植片対腫瘍効果(GVTE)をも同時に抑制するので移植後に血液がんを再発することがあった。MEK阻害薬であるトラメチニブを使用すると、GVTEを抑制する事なくGVHDを抑えられることが動物実験で明らかとなり、ヒト患者を対象とした臨床試験が予定されている[12]。
分裂促進因子活性化蛋白質キナーゼ(MAPK) - MEKで活性化される蛋白質の一つ