トリバネチョウ | |||||||||||||||||||||||||||
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休息中の Ornithoptera euphorion オス個体
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Ornithoptera Trogonoptera Troides | |||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||
トリバネチョウ(鳥翅蝶) トリバネアゲハ(鳥翅揚羽) アカエリトリバネアゲハ(赤襟鳥翅揚羽) キシタアゲハ(黄下揚羽) | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
Birdwing | |||||||||||||||||||||||||||
種 | |||||||||||||||||||||||||||
トリバネチョウ(鳥翅蝶)、またはトリバネアゲハ(鳥翅揚羽)は大型の熱帯性アゲハチョウ。
通例ではジャコウアゲハ族下のアカエリトリバネアゲハ属 Trogonoptera、およびトリバネアゲハ属 Ornithopteraに分類される熱帯性の大型で美麗なチョウ各種を指す。しかし今日では同族下のキシタアゲハ属 Troides まで含めることが多い。種以下の分類は意見が分かれており、研究者により属がさらに細分化されたり、1属に含まれる種数も専門家により10-30などと様々な意見がある。
属により分布が異なる。
その一方で種間で容易に交雑し、野生下でも種間雑種を産する。また飼育家の手により、多数のトリバネアゲハ属とキシタアゲハ属の属間雑種が産まれていることから、両属が進化の系統上で極めて近い関係にあることが示唆されている。
どの種も例外なく大型のチョウであり、世界最大とされるアレキサンドラトリバネアゲハ Ornithoptera alexandrae [1]になると胴長が最大 76mm 、開翅長は 280mm にもなる。細身の前翅は先端が鋭角状に狭まり、前後翅ともに緑、黄、黒、クリーム色がかった白が載るが、トリバネアゲハ属には稀にオレンジや青といった色を呈する種がいる。どの種もアゲハチョウ科の特徴である後翅の尾状突起を欠く[2]。
性的二形が特に著しく、どの種もメスがオスより開翅長で 1.2 - 1.5 倍程度大きい。色はオスが原色をちりばめた派手な翅を持つのに対して、メスの翅は喪服に身をやつした西洋婦人のような黒と白のモノトーンでひどく地味であり、あまりの落差から雌雄別種とされていた時期もある。翅の形もかなり異なり、特にアレキサンドラトリバネアゲハやビクトリアトリバネアゲハ O. victoriae のオスの翅は、前後翅とも紡錘形に近くなる。またオスの後翅が飛翔不可能になるまで小型化したヒレオトリバネアゲハ O. meridionalis のような種もいる。
性的二形を示すが、トリバネアゲハ属ほど顕著ではない。前翅の表側は漆黒もしくは茶色で、トリバネアゲハ属のような原色はふつう載らない。翅脈に沿った部分はしばしば灰色からクリーム色がかり、後翅のほぼ中央には大きな黄色い紋を呈する部分がある。メスはここがオスに較べて小さく地味になる。本属の1種、フィリピンキシタアゲハ Troides rhadamantus は臀脈(A2及びA3)[3]上と触角に温度感知器を有していることが判明しており、触角にはそれに加えて空中の湿気を検知する湿度受容器も備わっている。これらは錐状感覚器として知られる。温度感知器は気温の激変に敏感であり、体温調節と太陽光を浴びたときの過熱を阻止していると考えられている。
翅の色はパピリオクローム色素によるものであるが、コウトウキシタアゲハ Troides magellanus とたいへんな稀産種であるブルキシタアゲハ Troides prattorumの2種の翅には見事な構造色が見られることで有名である。この2種を虫体背面後方からごく低い角度で眺めると、両種の後翅にある黄色を示す部分が青緑色の金属光沢を帯び、全体として真珠色に光り輝く。この煌く虹の輝きはモルフォチョウなど、他の構造色を示す蝶の鱗粉に見られる薄片(Lamella、ラメラ)構造ではなく、多層肋骨構造により光が回折して起きる現象であるとされている。
どの種も熱帯雨林をすみかとする。成虫のエサは林冠に咲く花やランタナなどの地生花の蜜で、これらの植物にとってこのチョウは重要な花粉媒介者でもある。強力な飛翔力を有しており、常に太陽光の当たる場所を求めて飛び回っているため、成虫を見る機会は少なく、わずかに森縁部で見かけることができる程度である。
繁殖は種によってそう変わらず、どの種もメスの役割は比較的受け身[4]である。オスは梢から梢をひらひらと飛びながら、メスの頭上 20-50cm の場所で、入念に翅を震わせながら、休むことなく求愛ダンスを踊り続ける。交尾後、メスはすぐに幼虫の食草を探し始める。食草はウマノスズクサ科 Aristolochiaceae のウマノスズクサ属 Aristolochia 及び同科のパラリストロキア属 Pararistolochia。つる性植物で、メスはこれらのつる草を見つけるとその葉の先端に1葉あたり1個の割合で球形の卵を産み付ける。
幼虫は大食漢だがあまり移動しないので、ちょっとした数が群れると食草は丸坊主にされる。幼虫の過密が原因で、共食いが起きることもままある。幼虫の体色は暗赤色から茶色であり、背面には背骨上の突起がある。突起が地色と正反対の目立つ色や、突起間の鞍部が青白い種もある。他のアゲハチョウ科の幼虫と同様に、トリバネチョウの幼虫も臭角と呼ばれる収納可能なヘビの舌のように二叉になった器官を持つ。臭角はテルペン由来の化学物質を分泌し、幼虫が刺激を受けたときなどに放出される。幼虫は有毒なため、天敵にはエサとしての魅力があまりない。幼虫の食草であるウマノスズクサ科植物にはアリストロキア酸が含まれており、これはラットに対する発癌性があることで知られる。幼虫は食草に含まれるアリストロキア酸を体内で濃縮して、変態中のみならず成虫になった後もずっと毒として機能させる。
蛹は枯葉もしくは小枝に擬態する。蛹化の直前に、幼虫は食草から離れてさまよい歩くことがある。アレキサンドラトリバネアゲハでは、産卵から羽化までおおよそ4か月かかり、捕食される場合などを除くと成虫になった後も3か月ほど生きる。
和名のトリバネ(鳥翅、英名もBirdwingである)は、並外れた大きさと前方に向かって広がる翅、および鳥にも見紛う飛び方に由来する。発見当初、あまりの大きさから鳥と間違われ、散弾銃で撃ち落とされた逸話はつとに有名である。しかし今日ではこの逸話の前段にある「鳥と見まちがえた」云々は虚偽であるとされる。後段の散弾銃を用いた捕獲は事実で、現に証拠も残っている。というのも当時、高い林冠部を高速で飛ぶ本種を捕獲するには他に方法がなかったためである。
トリバネアゲハは美しい翅と相当な大きさ、種間、亜種間、果ては個体間の変異の多様さ、入手の困難さなど、まさにコレクションの対象とされるにうってつけの条件を揃えており、高山性のParnassius属(ウスバシロチョウ属)、南米産のAgrias属(ミイロタテハ属)やモルフォチョウとあわせて、チョウの標本コレクション中の白眉とされる。発見当初から数多くのコレクターを抱えており、なかでも欧米の大富豪や貴族たちは、大金を注ぎ込んで互いの標本コレクションを競った。チャールズ・ダーウィンと同時期に進化論を唱えたイギリスの博物学者アルフレッド・ラッセル・ウォレスは、そうした富豪たちの需要に応え、生業としてトリバネチョウの採集人をしていたことがある。
また、トリバネアゲハ属には著名な種が多いこともコレクターを刺激する重要な要素となっている。具体的には、チョウ目のみならず、現存する昆虫綱中の世界最大種であるアレキサンドラトリバネアゲハ、それに次ぐ大きさのゴライアストリバネアゲハ Ornithoptera goliath、オーストラリア最大の昆虫 O. (priamus) euphorion などである。19世紀のサラワク王国初代白人藩王(ラージャ)だったジェームズ・ブルック卿に献名された学名を有するアカエリトリバネアゲハ Trogonoptera brookiana の名も広く知られている。
今世紀に入って、原産国の近代化に伴う急速な開発で生息地である熱帯雨林が破壊され、個体数が激減している。現在、アレキサンドラトリバネアゲハを除く全種が ワシントン条約 附属書IIに記載されている危急種もしくは希少種に認定され、アレキサンドラトリバネアゲハはさらに厳しい附属書Iに記載されており、ワシントン条約加盟各国間での商取引は規制されている。
しかし本種に魅せられたコレクターは未だに多く、標本一つに大金が動くので例外として飼育環境下において養殖され IFTA [5]の認可を得た個体の標本は取引が認められている。アレキサンドラトリバネアゲハのみは附属書Iに記載されているため、いかなる状況においても合法な商取引はできない。だが世界最大種という大看板を背負っており、十分な需要が見込める本種も認めるべきとの意見があるので 2006 年時の CITES 動物分科会において、この種は CITES 附属書IIへの掲載が適当だと勧告されている。
基本的に外国産種であり、標準和名の付いていない種が大半であるため、学名をアルファベット順に並べ、和名や英名の付いている種はその右にそれらを併記する。
以下の2種は種間雑種と考えられており、現在は独立した種としては認められていない。
この記述は英語版 Birdwing 07:46, 29 August 2007 を原典として作成された。
以下は原典に記載されていた各種文献。