ナカナイ語 (ナカナイご、Nakanai)とはニューブリテン島 北部の西ニューブリテン州 と東ニューブリテン州 の境界部にて話されているオーストロネシア系 言語 の一つである。
ナカナイ語の方言にはホスキンス半島 (スペイン語版 ) のビレキ方言 (Bileki[ 1] 、Bireki)、それ以東のアウカ方言 (Auka; 別名: ロソ方言 (Loso)[ 1] )、マウトゥトゥ方言 (Maututu)などがあるが、これらはいずれも〈いいえ〉を表す言葉に由来する[ 2] 。この他にヴェレ方言 (Vele)やウバエ方言 (Ubae)が存在する[ 1] [ 3] 。これらの中では外部との接触や通商の歴史を持つビレキ方言が最も優勢で、他方言の話者もビレキ方言を理解する[ 4] 。レイモンド・レスリー・ジョンストン (Raymond Leslie Johnston)による1980年 の文法書もビレキ方言の調査を下敷きとしたものであるが、ジョンストンはビレキ方言が他方言よりも早く形成された存在であったとするつもりはないと述べている[ 4] 。
なおメラメラ語 (英語版 ) はナカナイ語の方言扱いとされる場合もある[ 3] が、Lewis et. al. (2015) や Hammarström et al. (2021) では両者は互いに系統の近い別言語とされている。
この他にnやngも音素 として存在するものの、もっぱら借用語に用いられる[ 6] 。またビレキ方言のlは他の方言のnに対応する[ 3] 。そのため、言語名や民族名であるナカナイ(N akan ai)にはラカライ (L akal ai)という別称が存在する。
tiという組み合わせは[t͡si] という発音 となり、語末に存在する-tiや-siのi、-muのuはいずれも無声化 される[ 6] [ 3] 。
接頭辞 がつく語形変化と接尾辞 がつく語形変化では、後者のパターンの方が比較的多い傾向にある[ 7] 。
名詞の前には多くの場合名詞マーカー であるe やla が置かれる。e は生物や特定個人を表す語および固有名詞 や借用語 に用いられ、それ以外の場合にはla が置かれる傾向にある。しかし、la malu 〈鳥〉のような例外も存在する[ 8] 。
人称代名詞の語幹一覧は以下の通りであり[ 9] 、これに人称名詞マーカーe-が接続する。右側は焦点 となる場合(英 : focal )の形である。
単数
双数
複数
一人称
包括
-au / -iau
-tala / -talua
-tato / -tatou
除外
-mila / -milua
-mite / -miteu
二人称
-me / -mei
-mula / -mulua
-muto / -mutou
三人称
-a / -ia
-gira / -girua
-gite / -giteu
親族や身体の一部を表す(英 : inalienable :譲渡不可能)名詞には所有者が単数の場合一人称から順にそれぞれ-gu、-mu、-laという接尾辞が付加される[ 10] 。inalienableでない(英 : alienable )場合には、所有者を表す語句は被所有物の後ろに現れる[ 11] 。
他動詞 を含む節(他動節)においては三人称単数の既知の目的語 (被動者)を表す接尾辞-aが任意で動詞に付加され、補語 の文や受益者を表す(英 : beneficiary )名詞句の前には必ず現れる[ 12] 。一方、主語 (動作主)の人称による動詞の形態 的な変化は見られない[ 13] 。
動詞は以下の4つの相 を示す[ 14] [ 3] 。
動詞語根のみ: アオリスト
動詞語根 + -ti: 完了
動詞語根の最初の音を重複させたもの + 動詞語根: 継続
動詞語根の最初の音を重複させたもの + 動詞語根 + -ti: 不完了
例: ta-tuga-ti 〈(もう)歩いている〉
ge とga は不確定法 (英語版 ) の役割を果たす。このうちge は〈疑念〉、〈願望〉、〈意図〉、〈見通し〉、〈回想〉、〈起こりうる未来〉を表す機能を持ち、これが用いられる文を英訳 するとwill、would、can、couldのいずれかが現れる傾向が見られる[ 15] 。またge は命令文に現れたり[ 16] 、禁止表現を表す際に動詞の継続相と共に用いられたりする場合がある[ 17] 。
例: Amuto umala ge tataga egiteu ale egite ge bili la mahulila te la vovo mutou, la vuhula egite kama koramulia ge bili tai la kalulu mutou, ouka. (『マタイによる福音書 』、10:28)[ 18]
あなた方は、あなた方の体を殺すことができてもあなた方の魂を殺すことはできない者を恐れたりしてはならない。
一方ga は〈今まさに起ころうとしている動作〉や〈実行する前に頓挫した動作〉を表すために用いられ、「…しようとしたが、実際にはしなかった」という文脈などにおいて見られる[ 19] 。
前置詞 が用いられる[ 20] 。
動詞の前に動作主体が置かれ[ 21] 、動詞の後に目的語が続く[ 22] ため、SVO型 に分類されると結論付けることが可能である[ 23] 。
^ a b c d e Lewis et al. (2015).
^ 山路(2000:198)。
^ a b c d e f g 崎山(1989)。
^ a b Johnston (1980 :14).
^ a b Johnston (1980 :22, 249).
^ a b Johnston (1980 :22).
^ Dryer (2013a).
^ Johnston (1980 :165–167).
^ Johnston (1980 :181).
^ Johnston (1980 :168).
^ Johnston (1980 :182).
^ Johnston (1980 :28).
^ Siewierska (2013).
^ Johnston (1980 :129).
^ Johnston (1980 :63–64).
^ Johnston (1980 :76).
^ Johnston (1980 :62).
^ Johnston et. al. (1983). umala が〈禁止〉を表す法副詞(Johnston 1980:62)で、tataga < taga が〈恐れる〉である(崎山 1989)。
^ Johnston (1980 :64).
^ Dryer (2013c).
^ Johnston (1980 :27).
^ Johnston (1980 :29).
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Dryer, Matthew S. (2013a) "Feature 26A: Prefixing vs. Suffixing in Inflectional Morphology ". In: Dryer, Matthew S.; Haspelmath, Martin, eds. The World Atlas of Language Structures Online . Leipzig: Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology. http://wals.info/
Dryer, Matthew S. (2013b) "Feature 81A: Order of Subject, Object and Verb ". In: Dryer, Matthew S. & Haspelmath, Martin (eds.), op. cit. .
Dryer, Matthew S. (2013c) "Feature 85A: Order of Adposition and Noun Phrase ". In: Dryer, Matthew S. & Haspelmath, Martin (eds.), op. cit. .
Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2021). “Nakanai” . Glottolog 4.4 . Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/naka1262
Johnston, Marilyn et al. (1983). La Buk Tabu Ale Halaba: Te la Valolo Ale Taritigi Te Iesus Kraist The New Testament Nakanai Language . World Home Bible League. ISBN 0868931330
Johnston, Raymond L. (1980). Nakanai of New Britain: the Grammar of an Oceanic Language . Pacific Linguistics, Series B, 70. Canberra: Dept. of Linguistics Research School of Pacific Studies, Australian National University for Linguistic Circle of Canberra. doi :10.15144/PL-B70
Lewis, M. Paul; Simons, Gary F.; Fennig, Charles D., eds. (2015). "Nakanai". Ethnologue: Languages of the World (18th ed.). Dallas, Texas: SIL International.
Siewierska, Anna (2013) "Feature 102A: Verbal Person Marking ". In: Dryer, Matthew S. & Haspelmath, Martin (eds.), op. cit. .
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