『ハラウィ―愛と死の歌』(フランス語: Harawi, chant d'amour et de mort)は、オリヴィエ・メシアンが1945年に作曲したドラマティック・ソプラノとピアノのための連作歌曲。歌詞はメシアン本人による。12曲から構成され、演奏時間は約1時間。
『トゥランガリーラ交響曲』(1946-1948年)、『5つのルシャン』(1948年)とともにメシアンの「トリスタン三部作」をなす。
第二次世界大戦のパリ解放後、メシアンは『幼子イエスに注ぐ20の眼差し』および『神の現存についての3つの小典礼』を発表したが、とくに後者は大スキャンダルになった[1][2]。メシアンはこの後1963年の『天の都市の色彩』まで演奏会用の宗教作品の作曲を止めている。『ハラウィ』は『神の現存についての3つの小典礼』の次に書かれた大曲である。
メシアンにとってトリスタンとイズーの主題は宿命的に肉体を超越する愛であり、宇宙的な規模に広がるために必然的に死を呼ぶ愛であった[3]。ただし、『ハラウィ』の歌詞はトリスタンの物語とは関係なく、マルゲリート・ベクラール・ダルクール (fr:Marguerite Béclard d'Harcourt) とその夫のラウル・ダルクールによって編集されたペルーの民謡集にもとづいている[4]。ハラウィ (Harawi (genre)) という題名はスペイン人に征服される前のインカ帝国で話されていたケチュア語で、あらがいようのない、それでいて成就しない愛を思い起こさせる言葉であるという[5]。全体は「緑の鳩」という愛称で呼ばれるピルーチャの悲劇を描く[5]。また、メシアンはイギリスのシュルレアリスム画家ローランド・ペンローズの1937年の絵『見ることは信じること(見えない島)』に感動し、第10曲「愛、星の鳥」の着想源としただけではなく、メシアンによれば全曲のシンボルになるほど重要だったという[5][6]。
メシアン本人による歌詞はシュルレアリスム的で、後の『5つのルシャン』ほどではないがケチュア語にもとづく人造語や擬音を大量に含んでいる。
曲の中にくり返し登場する愛の主題もダルクール編のペルー民謡から取られたものだが、もとは単純な五音音階の旋律であるのを第2・第6音を半音上げて用いている[7]。
『ミのための詩』(1936年)、『地と天の歌』(1938年)と同様、この曲もワーグナー歌手のマルセル・バンレ(Marcelle Bunlet, 1900-1991)が歌うことを想定して書かれている[8][9]。曲は1945年のうちに完成していたが、初演は遅れて1946年6月26日にエチエンヌ・ド・ボーモン伯爵 (fr:Étienne de Beaumont) 宅の私的演奏会において、マルセル・バンレのソプラノ、メシアン本人のピアノによって行われた[10]。
『ハラウィ』は以下の12曲から構成される。
メシアンの墓には『ハラウィ』の楽譜が刻まれている[13]。墓は鳩の形をしており、第10曲から「すべての星の鳥たち」(Tous les oiseaux des étoiles)の部分が引かれている[14]。