ハードトップ(hardtop)とは、自動車用語のひとつ。以下2つの意味を持つ[1]。
硬い材質でできた自動車の屋根のこと。実際的には、オープンカーの屋根構造において、「ソフトトップ」(布製の幌とビニール製の窓)と対照的に使われる。
オープンカーの装備としての脱着式のハードトップ、いわゆる「デタッチャブルハードトップ」の場合、アルミやFRPなど、比較的軽い素材で作られていることが多い。本来装備されていることの多いソフトトップに比べ、ハードトップの着脱作業は煩雑であるが、耐候性と耐久性では大きく勝り、室内の快適性とクーペ風のスタイルも得られる。
以前は幌型が基本であったジープタイプの四輪駆動車では、「メタルトップ」や「FRPトップ」という呼称が使われることも多い。いずれも寸法や重量があり、また、メタルトップは複数のパネルで構成されているため頻繁に着脱する類のものではなく、あくまでも「外すことも可能」なハードトップである。また、その後のクロスカントリーカーやスポーツ・ユーティリティ・ビークル(SUV)にもメタルトップと呼ばれるものがあるが、これらはモノコックに準じた車体構造か、完全なモノコック構造の車体を持つ車種であり、屋根を分離することはできない。
車両そのものに電動格納式ハードトップを組み込み、自動的・機械的に屋根を開閉できるオープンカーもあり、クーペカブリオレと呼ばれる。日本では、このような車種の屋根構造を指して、「ハードトップ」の代わりに、「メタルトップ」という表現が使われることがある。
スリーボックスの形態(エンジンルーム、キャビン、トランクルーム)を持つ自動車のうち、主に側面中央の窓柱(Bピラー)を持たない形状をいう。
車体デザインにスポーティさや開放感を持たせることを主な狙いとしており、固定された屋根を持つボディ形状にもかかわらず、オープンカーに脱着式の屋根を装着した時のスタイルを連想させるデザイン手法である。Faux Cabrioret(フォー・カブリオレ。偽のカブリオレ)とも呼ばれる。なお、オープンカーや一部のSUVに用意されることが多い脱着式の屋根が、元来の意味での「ハードトップ」である(#自動車部品としての「ハードトップ」にて後述)。
ハードトップ・スタイルは、アメリカで1949年に登場したキャデラック・クーペドゥビルが初めて採用した[1]。この車は一大センセーションを巻き起こした。こののち、アメリカ車では2ドアクーペ・4ドアセダンともにこの手法が大流行した。前後の窓を全て降ろした際に中央部にはピラーやサッシュが残らず、大きな開口部を見せることで乗員の開放感と共に車体デザイン上の演出となっていた。
この演出は、現在ではメルセデス・ベンツ・EクラスクーペやCLクラス/Sクラスクーペ、ベントレー・コンチネンタルGTやブルックランズ[注 1]、ロールス・ロイスレイスといった、一部の高級クーペが引き継いでいる。
日本車では1965年のトヨペット・コロナハードトップ(T50型系)が初採用である。これは2ドアハードトップ車であった。その後1970年代にはトヨタ・クラウンや日産・セドリックのような高級車から、ブルーバードやカローラなどの大衆車、さらにはダイハツ・フェローMAXやホンダ・Zといった軽自動車にまで2ドア・ピラーレス・ハードトップが設定されるようになり、4ドアセダンでも、パーソナル需要を主として高級車を中心に4ドア・ピラーレス・ハードトップが流行した(後述)。
ただし、1970年代前半の2ドアハードトップは、ボディ剛性の確保および、アメリカ車から受けたデザイン上の影響によりCピラーが太く処理されており、これに伴いリヤサイドウィンドウは小さくなっていた。このため、Bピラーをなくしたことによる開放感の演出は希薄なものとなっていた。特に斜め後方視界の悪化は顕著であり、オイルショック以後発売された2ドアハードトップ車では、トヨタ・クラウン (S80系)、日産・ブルーバード(810型系)に代表されるオペラウィンドウ付きのものが登場した。
車体側面中央部の柱(Bピラー)がないため、ボディ剛性や側面衝突への安全性を十分に確保するためには、他の部分の補強が必要となり、重量とコストの上昇は避けられない[注 2]。そのため、Bピラーを残したままでハードトップの印象を持たせた形態のものも登場し、日本ではトヨタがピラード・ハードトップと名付け、日産との差別化を図った。一方、富士重工業(現SUBARU)は、窓枠(サッシ)を持たないドアという意味で、サッシュレスドアと表現した[注 3]。
日本の4ドア車で初めてドアウインドウのサッシを排した車種は、1972年(昭和47年)2月に登場したスバル・レオーネである。これはBピラーを持っており、メーカーではハードトップという表現を用いなかった。日本車初のピラーレス・ハードトップ4ドア車は、同年8月に追加設定された230型系セドリックおよびグロリアである。
この時期は、ピラーレス/ピラード両形式のハードトップ車が市場に存在していた。メーカーにより傾向があり、4ドアのピラーレス・ハードトップは主に日産が好んで採用したのをはじめ、トヨタではカリーナED/コロナEXiV、マツダではペルソナ/ユーノス300にも採用した。ピラード・ハードトップはトヨタ(T160系、T180系カリーナED/T180系コロナEXiVを除く[注 4])・マツダ(ペルソナ/ユーノス300を除く)・ホンダ・三菱が積極的に採用した。日産でもF30型系レパード、R32型系スカイライン、R10型系プレセアはピラード・ハードトップであった。トヨタ、日産、マツダはピラーレス/ピラード両形式のハードトップ車が存在する自動車メーカーであった。
しかし、ピラーレス・ハードトップ車が安全面で十分な対応をするには、前述のとおり大きなコストアップが必要であり、重量の増加から動力性能も低下する。そのため、それを避けたいメーカーの思惑から徐々にピラード・ハードトップを経て4ドアセダンへと移行し、1993年(平成5年)のローレル(1月)、カリーナED/コロナEXiV(10月)のフルモデルチェンジをもって、日本車におけるピラーレス・ハードトップ車は完全に消滅した。ピラーレス・ハードトップからピラード・ハードトップへの移行を行った車種は、他にセドリック、グロリア、ブルーバード[注 5] などである。また、ピラード・ハードトップ/サッシュレスドアから4ドアセダンへの移行を行った車種はクレスタ、クラウン、マークII、スカイライン[注 6]、インスパイア、セイバー、レガシィB4(旧・レガシィセダン)、インプレッサアネシス/WRX(旧・インプレッサセダン。後に前者はインプレッサG4に改称、後者はWRXとしてインプレッサシリーズから独立)などである。ただし、シーマはピラーレス・ハードトップから4ドアセダンへの移行を行った唯一の車種である。軽自動車では2代目ダイハツ・オプティが唯一の4ドアピラード・ハードトップであった。
欧米でも、かつて大流行したアメリカ車を含め、ピラーレス・ハードトップはほとんど見られなくなっている。オープンカーや一部のショーモデル・コンセプトカーを除けば、現在では上記車種のような高級クーペに採用されるのみである。
2000年代後半以降は、主にサッシ付きのドアを中心とした車種が販売の中心となり、ホンダでは1998年(平成10年)のインスパイアのフルモデルチェンジで、マツダでは2000年(平成12年)のセンティアのモデル廃止で、トヨタでは2001年(平成13年)のウィンダムのフルモデルチェンジで、日産では2004年(平成16年)のセドリック/グロリアのモデル廃止で、三菱では2005年(平成17年)のディアマンテのモデル廃止で、日本車における高級4ドアハードトップは完全に消滅した。
SUBARUも伝統的にセダンとワゴンに採用し続けていたが、2000年代後半からサッシュレスドアの採用をやめる方針をとっており、インプレッサ、フォレスター、レガシィは窓枠付きのドアになった。同社では一貫してハードトップとは呼ばず、「サッシュレスドアを採用したセダン、ワゴン」としている。なお2009年(平成21年)のフルモデルチェンジでレガシィの3タイプ(ツーリングワゴン、アウトバック、B4)全てがサッシ付きドアに変わったことにより、コンセプトカーなどを除き、これ以降の日本車に4ドアハードトップはない[1]。 [2]
一時期、クーペ以外にはサッシレス車はなくなっていたが、2004年にメルセデス・ベンツ・CLSクラスが発売されたことにより、4ドアクーペというカテゴリが注目を集め[3]、これを皮切りに、メルセデス・ベンツ・CLAクラス、シトロエンC6、アウディ・A5、アウディ・A7、BMW・5シリーズグランツーリスモ、BMW・6シリーズグランクーペ、BMW・3シリーズグランツーリスモ、BMW・2シリーズグランクーペ、BMW・4シリーズグランクーペ、マセラティ・ギブリと、欧州車では4ドア・5ドアのサッシレス車が増えつつある[1]。現在販売されているものでは、高い気密性とドア閉まりの確実性を両立するため、パワーウィンドウを利用して、ドア開閉時にドアウィンドウをわずかに上下させる制御を行っている[注 7]。
4ドア車においてのサッシュレスドアはドアウィンドウが小さめになることから、特に後席ドアの開口部が狭くなり乗降性に関しデメリットがある。そのため、スタイル(見栄え)を優先するデザインであれば良いが、キャビンを広く設計したい場合はメリットを持たないという点がある。
その他、以下のような特徴がある。