バームブラック(barmbrack、またはバーンブラックbarnbrack、アイルランド語バイリン・ブラクbáirín breac)は、アイルランドでハロウィンに食べられる、伝統的なドライフルーツ入りのパンまたはケーキである。
古代ケルトの時代、冬の始まりである11月1日に行われるサウィン(サオィン[ˈsaʊ.ɪn]、サワーン[ˈsaʊn]、サーウィン[ˈsɑːwɪn][1]または、サウィーン、サーオィン、サムハイン)という祭があった。キリスト教が入って来てから、この祭はその前夜に行われるようになった。それが今のハロウィンであり、今なお盛大に行われる祭の一つである。アイルランドでは、カブをくりぬいて、不気味な笑いを浮かべた提灯を作り、火のついたろうそくをともし、そしてバームブラックを作る。この長い歴史のある濃厚な風味のフルーツケーキ[2]は、今はアイルランド以外にも広く伝わっていて、通常食後にふるまわれる[3]。
バームという言葉は、古代英語のベオルマから来ている。イーストのように、パン種を発酵させる働きのある酒から来ている。ブラックはアイルランド語のブラック(brac)で、「小さな斑点のある」という意味である-ドライフルーツと、砂糖漬けの果物の皮が、斑点のように見えるからである。
ジェイムズ・ジョイスの短編集『ダブリン市民』の「土くれ」には、主人公のマライアが、ハロウィンの日、勤めている洗濯店のお茶の時間に、バームブラックを切り分ける場面が登場する。
These barmbracks seemed uncut;but if you went closer you would see that they had been cut into long thick even slices and were ready to be handed round at tea.Maria had cut them herself. — これらのバームブラックは、まだ切り分けられていないように見えたが、近づくと、長くて分厚く、均等に切り分けられており、お茶の時間に配膳されるのを待つばかりになっていた。マライアが自分で切り分けたのだった。[4]
ハロウィンの夜、魔女や幽霊に扮した子供たちが、家から家へと、果物やナッツをもらいに歩く。こういったお楽しみやゲームが終わると、宴会が始まり、コルカノンと呼ばれるジャガイモ料理が出され、いよいよ宴会も終わりという時になって、バームブラックが出る。ハロウィンには、占いや予言が行われるが、このバームブラックの中にも、運勢を占うさまざまなものが入れてある[2]。
バームブラックの中に仕込まれた品物のどれが当たるかで、向こう1年間に、どういう運命が待っているかがわかることになる[3]。
主なものとしては、次のような品物が挙げられる。
硬貨、布切れ、指輪は必ず入れるものとされる[3]。もっと大人数の場合は、ボタンや指貫といったものがそれに加わる。
ただし、こういうのは自己実現的、ひとから期待されることで、それを実現に持って行こうという傾向があるため、やらない人もいる。また、占いをやるにしても、こういった小さな品物は、往々にしてのどに詰まらせる場合があるので、家でこの占いをやる場合には、皆にこのことを周知しておくこと、また、自分の分を食べ始める前に、品物はどけておく必要がある[3]。