12がプラクティカル数であることの図的説明
数論 において、プラクティカル数 (practical number; 実際数 [ 1] ) もしくはパナリズミック数 (panarithmic number[ 2] ; 汎数的数) とは約数 の和でその数より小さな正の整数 すべてが表せる自然数 である。例えば、12は約数1,2,3,4,6を持ち、1から11までの整数は、1,2,3,4,6の和として表せるため、12はプラクティカル数である。(5 = 3 + 2, 7 = 6 + 1, 8 = 6 + 2, 9 = 6 + 3, 10 = 6 + 3 + 1, 11 = 6 + 3 + 2)
プラクティカル数の数列はオンライン整数列大辞典 の数列 A005153 に記載されており、
1, 2, 4, 6, 8, 12, 16, 18, 20, 24, 28, 30, 32, 36, 40, 42, 48, 54, 56, 60, 64, 66, 72, 78, 80, 84, 88, 90, 96, 100, 104, 108, 112, 120, 126, 128, 132, 140, 144, 150....
と続く。
1202年 、フィボナッチ は算盤の書 で、エジプト式分数 として有理数 を表す問題にプラクティカル数を用いた。フィボナッチはプラクティカル数を正確に定義したわけではないが、フィボナッチはプラクティカル数を分母とする分数のエジプト式分数表現の表を与えた[ 3] 。
プラクティカル数という名前はSrinivasan (1948) に由来する。スリニヴァサンは「金・重さ・長さの単位は4, 12, 16, 20, 28のような数で細分化されており、10の累乗 での細分化に置き換えるべき不便さである。」と述べた。スリニヴァサンはそのような数の数論的な性質を再発見し、Stewart (1954) とSierpiński (1955) によってこのような数の分類が完了した。この特徴付けにより、素因数分解によって与えられた数がプラクティカル数であるかを判別できるようになった。偶数の完全数 と2のべき乗は、すべてプラクティカル数である。
プラクティカル数は素数と様々な性質で関連付けられている[ 4] 。
プラクティカル数の最初の特徴付けは、Srinivasan (1948) によって行われたもので、プラクティカル数は不足が2以上である不足数 にはなりえないというものである。不足数とは(自身を除く)約数の和がそれ自身より小さい数であり、ここでは約数の和がそれ自身より2以上小さい数のみを指す。もし n の(1と自身を含む)約数の順序集合 を
d
1
,
d
2
,
.
.
.
,
d
j
{\displaystyle {d_{1},d_{2},...,d_{j}}}
、
d
1
=
1
{\displaystyle d_{1}=1}
、
d
j
=
n
{\displaystyle d_{j}=n}
とすると、スリニヴァサンの特徴付けは以下の不等式に対応する
2
n
≤
1
+
∑
i
=
1
j
d
i
{\displaystyle 2n\leq 1+\sum _{i=1}^{j}d_{i}}
.
言い換えると、プラクティカル数のすべての約数を小さい順に並べた
d
1
<
d
2
<
.
.
.
<
d
j
{\displaystyle {d_{1}<d_{2}<...<d_{j}}}
はcomplete sub-sequenceである。
この部分的特徴付けは、Stewart (1954) と Sierpiński (1955) により拡張され、素因数分解 を用いてある数がプラクティカル数かどうかを判別できることが示された。
1より大きな正の整数を素因数分解し、
n
=
p
1
α
1
.
.
.
p
k
α
k
{\displaystyle n=p_{1}^{\alpha _{1}}...p_{k}^{\alpha _{k}}}
と表す。ここで、素数は小さい順に
p
1
<
p
2
<
⋯
<
p
k
{\displaystyle p_{1}<p_{2}<\dots <p_{k}}
と並んでいるものとする。このとき、
n
{\displaystyle n}
がプラクティカル数であるのは、各素因数
p
i
{\displaystyle p_{i}}
が十分小さく、
p
i
−
1
{\displaystyle p_{i}-1}
がより小さな約数の和で表せるとき、かつそのときに限る。
これが真であるためには、(1以外の)プラクティカル数の最小の素因数
p
1
{\displaystyle p_{1}}
は2であり、 i ( 2 〜 k ) に対して、次の素数
p
i
{\displaystyle p_{i}}
は以下の不等式に従わなければならない。
p
i
≤
1
+
σ
(
p
1
α
1
p
2
α
2
…
p
i
−
1
α
i
−
1
)
=
1
+
∏
j
=
1
i
−
1
p
j
α
j
+
1
−
1
p
j
−
1
,
{\displaystyle p_{i}\leq 1+\sigma (p_{1}^{\alpha _{1}}p_{2}^{\alpha _{2}}\dots p_{i-1}^{\alpha _{i-1}})=1+\prod _{j=1}^{i-1}{\frac {p_{j}^{\alpha _{j}+1}-1}{p_{j}-1}},}
ここで、
σ
(
x
)
{\displaystyle \sigma (x)}
はx の約数の和である。
例えば、2 × 32 × 29 × 823 = 429606について考えると、
3 ≤ σ(2) + 1 = 4
29 ≤ σ(2 × 32 ) + 1 = 40
823 ≤ σ(2 × 32 × 29) + 1 = 1171
と不等式を満たすので、429606はプラクティカル数である。
この条件は自然数がプラクティカル数であるための必要十分条件 である。
p
i
−
1
{\displaystyle p_{i}-1}
をn の約数の和で表すためにはこの条件が必要であり、数学的帰納法 によって十分条件であることもわかる。
より強い条件として、n の 素因数分解が上記の条件を満たすならば、任意の
m
≤
σ
(
n
)
{\displaystyle m\leq \sigma (n)}
は以下のように n の約数の和で表現できる[ 5] 。
q
=
min
{
⌊
m
/
p
k
α
k
⌋
,
σ
(
n
/
p
k
α
k
)
}
{\displaystyle q=\min\{\lfloor m/p_{k}^{\alpha _{k}}\rfloor ,\sigma (n/p_{k}^{\alpha _{k}})\}}
となる q と、
r
=
m
−
q
p
k
σ
k
{\displaystyle r=m-qp_{k}^{\sigma _{k}}}
となる r を用意する
q
≤
σ
(
n
/
p
k
α
k
)
{\displaystyle q\leq \sigma (n/p_{k}^{\alpha _{k}})}
であり
n
/
p
k
α
k
{\displaystyle n/p_{k}^{\alpha _{k}}}
がプラクティカル数であることより、
n
/
p
k
α
k
{\displaystyle n/p_{k}^{\alpha _{k}}}
の約数の和で q を表せる。
r
≤
σ
(
n
)
−
p
k
α
k
σ
(
n
/
p
k
α
k
)
=
σ
(
n
/
p
k
)
{\displaystyle r\leq \sigma (n)-p_{k}^{\alpha _{k}}\sigma (n/p_{k}^{\alpha _{k}})=\sigma (n/p_{k})}
であり、
n
/
p
k
{\displaystyle n/p_{k}}
はプラクティカル数であることから、
n
/
p
k
{\displaystyle n/p_{k}}
の約数の和で r を表せる。
r を表す約数と、 q を表す約数のそれぞれを
p
k
α
k
{\displaystyle p_{k}^{\alpha _{k}}}
倍すると、 m は n の約数で表せる。
奇数のプラクティカル数は1のみである。2以上の奇数は2を約数の和として表せない。さらに、Srinivasan (1948) は1と2を除くすべてのプラクティカル数は4または6の倍数であることを示した。
2つのプラクティカル数の積はプラクティカル数である。さらに、2つのプラクティカル数の 最小公倍数 もプラクティカル数である。つまり、プラクティカル数すべての集合は積について閉じている。
スチュワートとシェルピンスキーによる上記の性質から、もし n がプラクティカル数であり、 d がその約数であれば、 nd もプラクティカル数である。
すべてのプラクティカル数からなる集合において、プラクティカル数のプリミティブ集合が存在する。プリミティブプラクティカル数は、平方因子を持たないプラクティカル数か素因数分解の素数の次数が2以上であるような素因数で割った場合にプラクティカル数ではなくなるプラクティカル数である。このようなプリミティブプラクティカル数の数列は オンライン整数列大辞典 の数列 A267124 で
1, 2, 6, 20, 28, 30, 42, 66, 78, 88, 104, 140, 204, 210, 220, 228, 260, 272, 276, 304, 306, 308, 330, 340, 342, 348, 364, 368, 380, 390, 414, 460 ...
と続く。
有名な整数からなる集合は、プラクティカル数のみから構成できることがある。
上記の性質から、 プラクティカル数 n とその約数 d に対して、nd もプラクティカルであるため、2のべき乗の6倍と3のべき乗の6倍はプラクティカル数である。
すべての2のべき乗はプラクティカル数である。[ 7] 。 2のべき乗は素因数分解により上記の必要条件を満たし、p 1 =2も満たす。
すべての偶数の完全数は、プラクティカル数である[ 7] 。偶数の完全数は 2n -1 (2n -1)の形である結果から導ける。素因数分解の奇数部分は偶数部分の約数の和である。従って、偶数の完全数はプラクティカル数である。
すべての素数階乗 (最小のi 個の素数の積)はプラクティカル数である[ 7] 。1つめの素数階乗の2と2つめの素数階乗の6はプラクティカル数である。それ以降の素数階乗は素数 p i と素数階乗の積であり、つまり2と次の最小の素数でp i -1 で割り切れる。ベルトランの仮説 により、p i <2p i -1 が成り立つので、次の素因数は前の素数階乗の約数よりも小さい。同様に、すべての素数階乗はプラクティカル数である性質を満たし、平方因子も含まない。
素数階乗を一般化し、最小の k 個の素数の累乗の積もプラクティカル数である。これはシュリニヴァーサ・ラマヌジャン の高度合成数 (自然数のうち、それ未満のどの自然数よりも約数が多いもの)や階乗 も含む[ 7] 。
n がプラクティカル数であれば、任意の有理数 m /n (m < n ) は n の異なる約数を di としたときに、 ∑di /n で表せる。それぞれの項は単位分数に約分できるため、 m /n はエジプト式分数で表せる。例えば、
13
20
=
10
20
+
2
20
+
1
20
=
1
2
+
1
10
+
1
20
.
{\displaystyle {\frac {13}{20}}={\frac {10}{20}}+{\frac {2}{20}}+{\frac {1}{20}}={\frac {1}{2}}+{\frac {1}{10}}+{\frac {1}{20}}.}
1202年、フィボナッチは『算盤の書』[ 3] において、有理数のエジプト式分数での表現を見つける手法を列挙した。このうち、最初の処理は、その数が単位分数であるかの判別であるが、2つめの処理は、上述のように分母の約数の合計として分子の表現を探索することに対応する。この手法はプラクティカル数である分母に対してのみ成功することが保証されている。フィボナッチは分母として、6, 8, 12, 20, 24, 60, 100を用い、これらについての表を与えた。.
Vose (1985) は任意の数 x /y に対してたかだか
O
(
log
y
)
{\displaystyle \scriptstyle O({\sqrt {\log y}})}
項でのエジプト式分数の表現が存在することを示した。この証明にはプラクティカル数の列n i を見つける処理が含まれており、n i 以下のそれぞれの数に対してたかだか
O
(
log
n
i
−
1
)
{\displaystyle \scriptstyle O({\sqrt {\log n_{i-1}}})}
個の異なるn i の約数が存在することを用いる。ここで、 i は n i - 1 <y ≤n i であり、 xni は y で割ったときに商 q とあまり r をもつ。これにより
x
y
=
q
n
i
+
r
y
n
i
{\displaystyle \scriptstyle {\frac {x}{y}}={\frac {q}{n_{i}}}+{\frac {r}{yn_{i}}}}
となる。それぞれの分子を展開することで、所望のエジプト式分数の表現が得られる。Tenenbaum & Yokota (1990) は異なるプラクティカル数の数列を含んだ似た手法を用い、任意の有理数 x /y がエジプト式分数の表現を持ち、その最大の分母が
O
(
y
log
2
y
log
log
y
)
{\displaystyle \scriptstyle O({\frac {y\log ^{2}y}{\log \log y}})}
であることを示した。
孫智偉 が2015年9月に出した予想によれば、すべての正の有理数は、分母がすべてプラクティカル数であるエジプト式分数の表現を持つ。[ 8] そしてその証明はデビッド・エップシュタインのブログにある[ 9] 。
プラクティカル数に興味が集まっている理由の一つに、素数との類似性がある。実際、ゴールドバッハの予想 や双子素数の予想 はプラクティカル数に対しては知られている(すべての偶数は2つのプラクティカル数の和で表せる。x -2, x , x +2がすべてプラクティカル数である三つ組みが存在する)[ 10] 。ギウゼッペ・メルフィはプラクティカル数であるフィボナッチ数が無限に存在することを示したオンライン整数列大辞典 の数列 A124105 。フィボナッチ素数が無限に存在するかはまだ未解決問題である。Hausman & Shapiro (1984) は正の実数x に対して、[x 2 ,(x +1)2 ]の範囲に少なくとも一つのプラクティカル数が存在することを示した。これは素数に対するルジャンドル予想 (未解決)である。
p (x ) を、x 以下のプラクティカル数の数とする。
Margenstern (1991) は、 p (x ) は cx /logx に漸近すると予想した( c は定数)。この形は素数定理 の素数の個数と似ており、Erdős & Loxton (1979) がプラクティカル数の整数内での濃度が0であることのより強い主張である。
Saias (1997) はその定数について、 c 1 と c 2 を適切に設定することで
c
1
x
log
x
<
p
(
x
)
<
c
2
x
log
x
{\displaystyle c_{1}{\frac {x}{\log x}}<p(x)<c_{2}{\frac {x}{\log x}}}
となることを証明した。
Weingartner (2015) はモルゲンシュタインの予想を以下のように証明した。
p
(
x
)
=
c
x
log
x
(
1
+
O
(
log
log
x
log
x
)
)
{\displaystyle p(x)={\frac {cx}{\log x}}\left(1+O\!\left({\frac {\log \log x}{\log x}}\right)\right)}
この定数
c
{\displaystyle c}
は[ 11] によって与えられる。
c
=
1
1
−
e
−
γ
∑
n
practical
1
n
(
∑
p
≤
σ
(
n
)
+
1
log
p
p
−
1
−
log
n
)
∏
p
≤
σ
(
n
)
+
1
(
1
−
1
p
)
,
{\displaystyle c={\frac {1}{1-e^{-\gamma }}}\sum _{n\ {\text{practical}}}{\frac {1}{n}}{\Biggl (}\sum _{p\leq \sigma (n)+1}{\frac {\log p}{p-1}}-\log n{\Biggr )}\prod _{p\leq \sigma (n)+1}\left(1-{\frac {1}{p}}\right),}
ここで、
γ
{\displaystyle \gamma }
はオイラー・マスケローニ定数 であり、
p
{\displaystyle p}
は素数である。この結果、
1.311
<
c
<
1.693
{\displaystyle 1.311<c<1.693}
[ 11] であり、プラクティカル数は素数に比べて31.1% から 69.3% 多いことがわかる。
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被整除性に基づいた整数の集合
概要 因数分解による分類 約数和による分類 約数が多いもの アリコット数列 関連位取り記法 に基づくものその他