ペガスス座85番星 85 Pegasi | ||
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星座 | ペガスス座 | |
見かけの等級 (mv) | 5.81 / 8.89[1] | |
位置 元期:J2000.0 | ||
赤経 (RA, α) | 00h 02m 10.3411392575s[2] | |
赤緯 (Dec, δ) | +27° 04′ 54.476788744″[2] | |
視線速度 (Rv) | -36.22 km/s[3] | |
固有運動 (μ) | 赤経: 723.110 ± 1.482 ミリ秒/年[2] 赤緯: -933.754 ± 1.341 ミリ秒/年[2] | |
年周視差 (π) | 79.0696 ± 0.5621ミリ秒[2] (誤差0.7%) | |
距離 | 41.2 ± 0.3 光年[注 1] (12.65 ± 0.09 パーセク[注 1]) | |
絶対等級 (MV) | 5.34 / 8.42[1] | |
物理的性質 | ||
半径 | A: 0.834 R☉[4] Ba: 0.512 R☉[4] Bb: 0.155 R☉[4] | |
質量 | A: 0.82 M☉[4] Ba: 0.54 M☉[4] Bb: 0.14 M☉[4] | |
表面重力 | A: 33 G[4][注 2] Ba: 60 G[4][注 3] Bb: 150 G[4][注 4] | |
自転速度 | A: 1.4 km/s[5] | |
スペクトル分類 | G5 V + K7 V[6] | |
光度 | A: 0.613 L☉[4] Ba: 0.074 L☉[4] Bb: 0.003 L☉[4] | |
表面温度 | A: 5,600 K[4] Ba: 4,200 K[4] Bb: 3,330 K[4] | |
色指数 (B-V) | 0.67[7] | |
色指数 (U-B) | 0.05[7] | |
色指数 (V-R) | 0.57 / 0.95[1] | |
色指数 (V-I) | 0.96 / 1.69[1] | |
色指数 (R-I) | 0.43[7] | |
金属量[Fe/H] | A: -0.66[4] Ba: -0.64[4] Bb: -0.53[4] | |
年齢 | 9 - 11 ×109 年[4] | |
軌道要素と性質 | ||
軌道長半径 (a) | 7.65 au[3] | |
離心率 (e) | 0.372 ± 0.009[3] | |
公転周期 (P) | 26.31 年[3] | |
軌道傾斜角 (i) | 49°[8] | |
他のカタログでの名称 | ||
ADS 17175[3]、BD+26 4734, GJ 914, HD 224930, HIP 171, HR 9088, SAO 91669[2] | ||
■Template (■ノート ■解説) ■Project |
ペガスス座85番星(ペガススざ85ばんせい、85 Pegasi、85 Peg)は、ペガスス座の方角に、約41光年の距離にある連星系である[2][9]。6等星と9等星からなる二重星でもあり、位置天文学的に軌道が求められているが、軌道から予想される2つの恒星の質量と、その等級差の間に矛盾があることから、強い興味をもって観測されてきた星系の一つである[9]。
ペガスス座85番星の伴星ペガスス座85番星Bは、1878年にシャーバーン・バーナムが発見した[10]。バーナムは、同時期かそれ以前に、より離れた位置にある2つの恒星、ペガスス座85番星Cとペガスス座85番星Dにも言及しているが、これらは相対的な運動の分析から、見かけ上の関係であることがわかっている[11][9]。
ペガスス座85番星Aとペガスス座85番星Bは、離角が小さい上、等級差が大きいので観測は容易ではなく、初期にはペガスス座85番星Bの等級はかなり過小に見積もられていた[9][3]。両者の運動から、バーナム自身も含め早い段階で大まかな軌道要素は求められていたが、20世紀半ばまでにヤーキス天文台などの詳しい観測で、精度の良い軌道要素が求められ、連星であることが確定した[3]。ヤーキス天文台のホールは、ペガスス座85番星Bそのものもまた連星であると指摘し、後にその確実とみられる証拠もみつかったことで、ペガスス座85番星は3重連星系と考えられるようになった[12][4]。
ペガスス座85番星は、ペガススの四辺形の内側、北東角をなすアンドロメダ座α星から南南西に2度程度離れた位置にみえる[9][3]。合成等級は5.8で、とても暗い夜空では肉眼でみることができる[3]。赤経は0に近く、歳差の影響により、赤経順に番号が振られる星表において、ヘンリー・ドレイパーカタログや輝星星表では末尾に近い番号だが、ヒッパルコス星表では171とかなり若い番号が付いている[3][2]。太陽からの距離は約41光年とかなり近く、固有運動も大きいので、19世紀の半ばには固有運動がそれなりの精度で測定されていた[2][3]。
ペガスス座85番星Aとペガスス座85番星Bは、約26.3年で軌道を一周し、離心率は0.37、系の合計質量は太陽の1.49倍と推定される[3]。しかし、この星系には問題があった。軌道運動から力学的に推定した主星と伴星の質量には、あまり差がないということである[12]。視線速度曲線から推定した質量も、主星と伴星がほぼ同じとされている[13]。一方、ペガスス座85番星Aとペガスス座85番星Bの等級差は3と大きく、もっと大きな質量差がなければ明るさの違いを説明できない。その矛盾を解消するため、ペガスス座85番星Bが近接連星であるという説が考えられた[12]。
ただし、ペガスス座85番星には別に問題があり、それは、化学的に特異な星系であるということだった。まず、金属が欠乏しており、水素を基準とした相対的な金属(ヘリウムよりも原子番号が上の)元素の存在量、すなわち金属量は、太陽と比較して2割程度である[4]。更に、金属だけでなくヘリウムも欠乏していたため、分光学的な質量推定は難航した[14][4]。一方で、α元素は卓越しており、その存在量は太陽と比較して2倍程度の過剰となっている[4]。
このような、特有の化学特性も考慮した上で、恒星進化理論からの制限も加えることで、ペガスス座85番星系の確からしい物理量が、求められるようになった。その結果、ペガスス座85番星Aは質量が太陽の8割程度の黄色主系列星、ペガスス座85番星Bは質量が太陽の半分程度の橙色主系列星と、質量が太陽の7分の1程度の赤色矮星とからなる連星、とするのがもっともらしいとわかった[4]。
3重連星系という構造と、化学的な特異性から、ペガスス座85番星は星震学的にも興味深い観測対象であり、例えばMOSTといった観測衛星の主要な目標天体となっている[4][5]。
ハーシェル宇宙天文台による観測では、波長160μmの遠赤外線で赤外超過がみられ、半径97au以上に塵の温度が25K以下の冷たい星周円盤が広がっている可能性が考えられる[15]。ペガスス座85番星に対し、この大きさの円盤だと周連星円盤となるが、離心率が0.37と比較的大きく、年齢も90億年といわれる連星系に周連星円盤が存在できる理由は、はっきりしていない[4][6]。