ポール・ウィリス(英: Paul Willis、1945年4月1日 - )は、イギリスの文化社会学者・人類学者。キール大学の社会/文化エスノグラフィー教授を経て、2010年よりプリンストン大学教授。
ウィリスは、バーミンガム大学で学び、現代文化研究センターで研究をし、郷里のウルヴァーハンプトン大学に就職した。
1977年に出版したイギリスの若者研究『ハマータウンの野郎ども』(原題 "Learning to Labour: How Working Class Kids Get Working Class Jobs")によって経験的社会研究者として有名になる。当著は、労働者階層の家庭出身の若者たちが、中流階層に対して抱く反抗的な気分を提示し、社会の中で中心的な位置にある学校の学習文化を克明に描き出したことで知られている。この『ハマータウンの野郎ども』以来、ウィリスはイギリスの現代文化研究の指導的な研究者の一人と目されるようになった。
その後、ウィリスは、イギリスの日常文化の理論家としての仕事と並んで、とりわけ暴走族の社会からドロップアウトした文化やパンクミュージック文化についてのエスノグラフ研究も発表している。
ウィリスは、自著や論文の中で、ささやかな日常のエスノグラフィへのアプローチとして、伝統的・民俗的で、経験的な着手点や(ゴットリープ・シュナッパー=アムトの意味[要説明]での)生活世界を、反省的、社会科学的な意味での理論的な問題設定や展望(二重の解釈学[要説明])と結びつけて見せている。
ドイツの教育社会学と違い、イギリスでは興味深いと言っても良いような理論的な論争がある。これはパラダイムの転換のようなものだ。1970年代の初めから、イギリスでは「新しい教育社会学」(New Sociology of Education)ということが言われ始めた。それで人が意図していたのは、実証主義的で機能主義的な教育社会学(Bildungssoziologie)を批判することだったのである。この批判は、マルクス主義と批判理論に向けてのものであったのだが、しかしそれは同時に量的な研究方法を導入するための重要な弁護にもなっていたのである。これによってその批判は、理論的なレパートリィとしてだけでなく、方法論的レハートリィとしても広められていったのである。この新しい教育社会学の典型的な例が、色あせることなく面白く、読むに値するポール・ウィルスの『ハマータウンの野郎ども』である。
ドイツ語訳では、誤解を招きかねない „Spaß am Widerstand“ (「反抗の楽しみ」)というタイトルで刊行されている。そこで記述されているのは、労働者階層の若者たちの、学校が持っている中流階層を志向した文化に対する反抗である。(そのためドイツ語の翻訳タイトルは、「抵抗の楽しみ」という題を選んだということなのだろう。)反抗の中で彼らは、労働者としての、つまり労働者階層の一員としての自分たちのアイデンティティを確かなものにしていくのだ。時に私は、ウィリスが、学校の中での具体的な実践を通して、男性の労働階層の再生産を描写している仕方が後にアンソニー・ギデンズが「構造と実践の二重性」というキャッチコピーで語ったものの具体例になっていることに着目する。 ミヒャエル・ゼルトル[1]