マイナーリーグベースボール Minor League Baseball | |
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競技 | プロ野球 |
創立 | 1901年 |
参加チーム | 120[1](2021年) |
国 | アメリカ合衆国 カナダ ドミニカ共和国 |
公式サイト | MiLB.com |
マイナーリーグベースボール(英語: Minor League Baseball, MiLB)は、北米プロ野球リーグの最高峰「メジャーリーグベースボール」(MLB) の傘下リーグ。
「マイナーリーグ」と呼ばれるものの中で最も名が通っているのが、「マイナーリーグベースボール(以下、MiLB)」である。MiLBは、北米の各プロ野球リーグのうち、メジャーリーグベースボール(以下、MLB)所属球団と選手育成契約 (Player Development License, PDL) を結んでいるチームによって形成されたリーグを指す[2]。北米4大プロスポーツリーグのチームがない州や都市では、スポーツに対する関心事のひとつになっている。
2020年は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、史上初のMiLB公式戦全試合中止という事態となった。また、1901年から続いたMLB-MiLB間の協約は2020年をもって失効し、2021年からはMLB機構がMiLBの運営を一括統轄し、リーグ構成も大幅に変更されることとなった[3]。2021年以降のMiLB(ルーキーリーグを除く)に関する主な変更点は以下のとおり[4]。角括弧内は2020年の体制。
上位順に5階級のクラスに分かれており、各クラス内でMiLB公式戦を開催している。レギュラーシーズン期間は、Single-Aクラス以上が4月から約5ヶ月間、ルーキーリーグが6月から約3ヶ月間。いくつかのリーグでは2シーズン制を採用している。またMLB同様、プレーオフやオールスターゲームも開催される。
MLB球団は、PDLを結んだ各チームに選手・コーチを派遣することで、MiLB所属の複数チームを自らの下部組織としている[6]。Single-Aクラス以上は、各MLB球団が傘下MiLBチームを1ずつ保有しており、各クラス30チームが所属する[7]。なお、MLBの傘下ではないリーガ・メヒカーナ・デ・ベイスボル(メキシカンリーグ)も2020年まではMLBのAAAクラス格付けとなっていたが、2021年の再編に伴いこの格付けは廃止された。
MiLB所属チームには以下の選手が在籍し、練習や公式戦を通して選手の育成や調整を行っている。
戦力として有望な選手は随時上位クラスへと昇格していくが[10]、MLB球団のロースターに現在登録されている選手の契約事情などにより枠が空かず、実力があり成績を残していても中々MLBに昇格できないケースが多々ある[11][12]。このような有望選手が同じMLB球団の下部組織で飼い殺し状態になってしまうことを防ぐため、「ルール5ドラフト」「マイナー・オプション」といった規定が設けられ、MLB昇格のチャンスを得られるようにしている。また、40人枠に登録されていない期間が7年(19歳以上で契約した選手は6年)に達した選手は「マイナーリーグFA」となり、以降は自由交渉による契約が可能となる。
MLBドラフト、インターナショナルFAなどで毎年多数の選手がMiLBチームに加わり、且つ年齢を重ねるたびに所属可能なクラスも限定されていくため(後述)、必然的にMiLB在籍中に契約解除となる選手も多く、生存競争は厳しいものになる[13]。
各クラスに所属可能な選手や人数には制限があり、基本的に在籍年数や年齢を重ねた選手ほど下位クラスには所属できなくなる。各クラスのリザーブリスト(MLBの40人枠に相当)、アクティブ・ロースターの人数制限、および他の制限などは以下のとおり(2023年時点)[14]:p5-6,p10-11。
クラス | リザーブ リスト |
アクティブ ロースター |
他の選手登録制限 | 試合数 | |
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AAA | 38人以内 | 28人 | 144 | ||
AA | AAA含め合計 165人以内 |
28人 | 138 | ||
High A | 30人 | *MLB在籍6年以上の選手は2人(コーチ兼任は1人)まで | 132 | ||
A | 30人 | *MLB在籍5年以上の選手は2人まで | 132 | ||
R | ACL FCL |
無制限 | *MLB在籍4年以上の選手は3人まで | 58 - 60 | |
DSL | ー | 35人 | *MLB在籍4年以上の選手は所属不可 | 56 - 72[15] | |
(参考)MLB | 40人以内 | 26人 | 162 |
MiLBには、負傷者リスト(7日、60日)のほか、MLBにはない「育成リスト」という登録制度がある。レギュラーシーズン期間中のみ使用できるリストで、登録には当該選手およびMLB機構の承認が必要となり、MLBの40人枠に入っている選手や、負傷した選手は登録できない。登録中の選手はチームに帯同してトレーニングを行うことはできるが、MiLBのアクティブ・ロースターの人数勘定から外れ、MiLB公式戦には出場できない。リストには少なくとも7日間登録される。実用目的としては「アクティブ・ロースターのバランスを取る[16]」「(若手投手の)投球イニングを制限する」「試合から一時離れ、フォームや投球スタイルなどの改造を行う」といったものがある[17]。
MLB球団直営の一部チーム(スプリングフィールド・カージナルスなど)を除き、大半のMiLB所属チームは独立資本であり、本拠地を置くアメリカ合衆国やカナダの地方都市で地域密着型の独立採算制の運営を行っている。MLB球団と契約した選手やコーチの給料や野球用具代はそれぞれのMLB球団から支払われているものの、経営に必要な経費は自らの試合チケットやグッズ、広告枠の販売によって得る収入から賄われるのが原則である[6]。
MLB球団との関係は流動的なものであり、あるMLB球団傘下であったMiLB所属チームが、次のシーズンには別のMLB球団傘下に変わるということもある。なお、最初にこのシステムを導入したのはセントルイス・カージナルスである。
MiLB在籍選手のほとんどはマイナー契約選手だが、その年俸水準はメジャー契約(40人枠)の選手に比べて相当に低い。2023年時点では[18]
上記条件を満たさない(メジャー契約の経験がない)マイナー契約選手の場合、下位クラスの選手ほど最低保証額が安くなる。2020年以前は、マイナー契約選手は数ヶ月あるシーズン期間中のみ給与が発生していたため、AAAなど上位クラスの在籍選手を除いて、年間収入はアメリカ法が定める最低賃金よりも低かった[12](ただし、職業野球選手はアメリカ公正労働基準法[20]の適用対象外であり、違法状態ではない)[21]。
年俸の他には、必要最低限の野球用具、および遠征の際に1日につき20-25ドル程度のミールマネー(食事代)が支給されるだけである[6][22][23]。ドラフト上位指名で高額な契約金を手にしている場合などを除き、マイナー契約でプレーし続けている選手が給料のみで生活するのは困難であり、多くの選手はシーズンオフにアルバイトで別に収入を得たり、恋人などの家に居候して食事の世話をしてもらうことで生活のやりくりをしている。
選手が毎日の食事にハンバーガー程度のものしか食べられないということから「ハンバーガー・リーグ」という呼び方がされている[24][25](MLBは対比して「ステーキ・リーグ」と呼ばれる)。ホームゲームのときは試合前・試合後、ビジターのときは試合前に球団が食事を用意してくれるものの、それ以外では、実際に多くの選手がハンバーガーやホットドッグなどを食べているといわれる[26][27]。時には球団から支給される食事がリンゴ1個のこともある[28][29]。2021年には食パン2枚にチーズ、申し訳程度のレタスとトマトで出来たサンドイッチが試合後に支給される食事としてSNS上に公開され、その食糧事情の悪さから物議を醸した[30]。移動もMLBでは専用飛行機で移動し、機内でも一人一列を割り振られるのに対し、MiLBではバスでの移動が基本で、長距離を飛行機移動する場合でもエコノミークラスの利用が通常である。クラスが上がれば、機内に飲食物が用意されており、選手たちはそれを自由に食べることができるが、上位クラスほど移動距離が長い傾向があり、選手たちにとっては過酷な移動となる[31]。映画『フィールド・オブ・ドリームス』で俳優のバート・ランカスターが演じたアーチー・グラハムが「マイナーの生活はこりごりだった」と語っているのはこのためである。ただ、AAクラス以上であれば、クラブハウスには飲物、アイスクリーム、フルーツ、インスタント食品などが備えられており、選手は自由に飲食することができる。また、遠征の際は、スタッフがグラブやバットなどを本拠地スタジアムのロッカーから遠征先スタジアムのロッカーに移送し、ユニフォームをハンガーにかけた状態にまで整えてくれる。
2019年10月にはジャイアンツ傘下AAAサクラメントに所属していたタイラー・シアー(2018年シーズンはAAで55試合に登板)が自身の給料明細を公開し、年俸の手取りが8216ドル58セント(約88万円)と過酷な状況でプレーするマイナーリーガーの現状に、アメリカ合衆国のメディアも苦言を呈していた[32]。
業界からの報復を恐れることから、現役マイナーリーガーが公に待遇について詳細に発言することはないという[30]。
MiLB(およびMLBと業務提携する独立リーグ)では、MLBへの導入を見据えた実験的な新ルールがいち早く施行されており、実際にMLBで後年導入されたルールも多い。特に、MLB機構が運営を一括統轄するようになった2021年からは画期的なルールが施行されている。近年加えられた主な新ルールは以下のとおり[33][34]。角括弧内はMLBでの導入年[35]。
※2022年時点
クラス | 所属リーグ | 創設 |
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トリプルA (AAA) |
インターナショナルリーグ International League | 2021年 |
パシフィックコーストリーグ Pacific Coast League | 2021年 | |
ダブルA (AA) |
イースタンリーグ Eastern League | 2021年 |
サザンリーグ Southern League | 2021年 | |
テキサスリーグ Texas League | 2021年 | |
ハイA (High A) |
サウス・アトランティックリーグ South Atlantic League | 2021年 |
ミッドウエストリーグ Midwest League | 2021年 | |
ノースウエストリーグ Northwest League | 2021年 | |
シングルA (A) |
カロライナ・リーグ Carolina League | 2021年 |
フロリダ・ステート・リーグ Florida State League | 2021年 | |
カリフォルニアリーグ California League | 2021年 | |
ルーキー (R) |
アリゾナ・コンプレックスリーグ(ACL) Arizona Complex League | 2009年 |
フロリダ・コンプレックスリーグ(FCL) Florida Complex League | 2009年 | |
ドミニカン・サマーリーグ(DSL) Dominican Summer League | 2009年 |
AAA | AA | A+ | A | ||||
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IL | インターナショナルリーグ | EL | イースタンリーグ | MWL | ミッドウエストリーグ | CAL | カリフォルニアリーグ |
PCL | パシフィックコーストリーグ | SL | サザンリーグ | NWL | ノースウエストリーグ | CAR | カロライナ・リーグ |
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TL | テキサスリーグ | SAL | サウス・アトランティックリーグ | FSL | フロリダ・ステート・リーグ |